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星壊のブネリョトル  作者: 百合百合
骨星のドゥパリ
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4.

当然のように、そのサキュバスは船頭の隣に座って、居座った。時折、彼はよろけた振りして、セクハラしている。それにサキュバスは微笑み、舌で唇をなぞる。

サキュバスは男だった。それを聞いた船頭は、さらに顔を緩めて、誰が何処から見ても有頂天。私達は呆れた目で、彼を見ることしか出来ない。

 

「……あれは悪質だ。」


私がそう溢すと、レヘルちゃんが困ったように苦笑いして、私の目を手で覆う。今更だというのに、彼らの姿を私の情操教育に悪いと思ったらしい。同い年であるというのに、仕方がない。


「本人は幸せそうですけどね。」

「財産も、体力も搾り取られて終わりだろうね。」


ゆらゆらと船に揺られる。

船頭達の荒い息が、風が草を揺らす音に僅かに混じり始めた。星が瞬く夜。私たちが寝静まったかと思ったのか、船は不自然に揺れた。

それを何度か繰り返して、ようやく船は一つの街に辿り着いた。私たちはげんなりとした顔で、ここまでの代金を支払い、下船した。

船頭と、サキュバスの彼がキョトンとしていたのに腹が立って仕方がなかった。


「寝れた?」

「あんまり。」


私たちは、顔を見合わせる。互いの疲れ切った顔に、笑ってしまう。目の下のクマがくっきりとし過ぎていた。


「始めて街に来たけど、こんな感じか。」


私は周りを見渡す。街を分断するように水路が流れ、街の中央部には船着場。遠くには高い塔が見え、鐘が備え付けられている。

私にとって奇妙に思えたのは、家々だった。


「何の素材だろ、これ。」


鼻を近づけば漆の臭い。枠組みは木のようで、一見すると木造の一軒家。だけども、その壁は滑らか。


「……皮か。」


記憶を辿り、合致するものがあった。レザーの質感であり、それが木材のような色味をしていた。屋根は茅や藁が多い。私達は、そんな家々を見ながら歩く。


「なんか、不思議な感じだね。街って。」

「ほんとにね。」


歩いていると、街のメインストリートに差し掛かる。一本の広い道の左右に、絨毯が並んで、その上に商品が置かれている。食品や、魔道具。それに小物や、魔導書。儀式に使う怪しい物まで何でも揃っている。だが、そんな中で、私の目を惹いたのは---


建築用人革。


そう書かれた代物だった。見た目は家々の壁のそれ。だが、どうにも、浮かぶそれと結論が結びつきそうで、そう上手くは行かずに、疑問と結論が反復横跳びして、なかなか現実に追いつかない。


「……え、そうゆうこと?」


私が言葉を漏らすと、露店のお兄さんが首をもたげて、じっと私の顔を見つめて、最後に尖った耳を見た。


「……エルフか。なら、知らないか。俺らの街では、死んだ人間を建材にするんだよ。骨を支柱に、皮は鞣して家を建てるんだ。」

「どうして?」

「どうしてって。勿体無いだろ?資源が。それに、木材を取りに行こうにも魔物が邪魔をする。植林も上手くいってないしな。毎回、虫の魔物が邪魔すんだよ。それに比べて、死体はある程度手に入るし、魔法で穫れる面積を増やせる。ま、とは言っても木材と半々ぐらいだ。」


そう言って、お兄さんは笑う。その笑みは屈託なく、罪悪感の欠片もない。私は隣のレヘルちゃんを見るも、彼女は感心したように頷くだけ。なるほど。私は漸く、自分が異物だという認識を受け止めて、郷に入っては郷に従えという有難い金言を胸に抱いて、澄ました顔をする。


「都会だと、人間を使ってないらしい。羨ましい限りだよ、うちなんて死んだジジイの顔を天井に使ったせいで、夜寝る時怖いんだよ。」


お兄さんは両の二の腕を摩って続ける。


「ちなみに肉はクソだった。ジジイの肉は硬くて硬くて。ったく、肉を旨くする魔道具とか、魔法とか誰か発明してくれねぇかなぁ。」


叫ぶ老人に、皺くちゃな皮が剥がれていく工程。嫌な想像をして、胃から熱いものが込み上げる。


「大丈夫、死んだ後だ。流石に生きたままやらないって。エルフは死体を使わないのか?」


私は、ゆっくりと首を左右に振る。


「髪とか骨は、魔道具に使用する。けど、建材にはしないかな。」

「そうゆうもんか。勿体無いな。」


カラッと笑うお兄さん。

私はレヘルちゃんの手を引いて、お兄さんに感謝の言葉を告げると、その場から足早に立ち去った。


「……どうしたの?ブネちゃん。」


私を心配そうに見つめる彼女に、私は何も答えず、メインストリートから路地裏へと。


「ごめん。文化の違いに頭痛がした。いいえね。別に何が気に入らないとか、嫌いとか、受け入れ難いとかはないのだけど、やはりどうにも合わない感覚があるのよ。」


壁にもたれようとして、私は慌てて、そこから離れる。身体中の毛が逆立ち、何処から声が聞こえたような気がした。


「大丈夫……?」


心配そうに私を見つめる彼女の肩を掴んで、私は顔を近づけると、ゆっくりと顎を撫でて、どうにか、この取り留めのない気持ちが湧き出す心中を、淡くて微笑ましいもので濁す。

柔らかな肌に、艶やかな唇。此方を見つめる無垢な瞳は輝いてすらいる。

私は熱い息を吐いて、自分の頬を叩く。そして、ゆっくりと壁にもたれかかる。


「……ふぅ、大丈夫。行こっか、ごめんね。」


立ち直ると、再び歩き始める。

目指すのは宿屋である。

宿屋は直ぐに見つかった。ただ、忘れ始めていた事実を、ベッドに寝転んで壁に不自然な皺を見つけて、よせば良いのに凝視して、それが耳の名残だと気付くと、やはり熱いものが胃から込み上げた。


翌日からは、陸路で都市へと行くことにした。都会まで行く船がなかったのだ。ならば、いっそのこと歩いてみるかと、そうなった。空は快晴で、空気は澱みなく、おいしく感じる。何だか、船の上でジッとしているよりも楽で、気分も良い。水路の横を歩けば、幾つもの船とすれ違う。彼らは皆、一様に私たちを貧乏人を見る目で見てくる。


「別に金がないってわけじゃないのにね。」

「けど、ブネちゃん。歩きは珍しいって。馬車はもっと珍しいけど。馬車とか乗ってみたいなぁ。」


何処か羨むように、レヘルちゃんは言った。


「維持費と、魔物に襲われない馬を育てるコストが高過ぎて、水路アンド船のコストに負けた。なかなかの現象だよね、これって。」


私が水路のせせらぎを見つめながら、そう言うと、レヘルちゃんはきょとんとする。


「馬車が普通ってこと?そんなのあり得ないよ。水路なら、水の魔法使えば速攻で作れるもん。それに水路だと、魔除けの粉は流すだけでいい。船だって壊れても、馬車よりは安いし。木材はそれなりにするけど。」

「そうなんだけどね。」


どうにも前世の記憶が足を引っ張って仕方がない。


「賢そうに見えるけど、ブネちゃんって不思議ちゃんだよね。そこも、かわいい。」


つつつ、と私を指差すレヘルちゃん。


「ありがと。あなたも大概だけどね。」

「じゃあ、お揃いだね。都市に着いたら、ペアルックでもする?」

「制服だから否応なしにペアルックだよ。」

「つまんないね、その返し。」


痛烈な言葉に、つい苦笑してしまう。


「すまないね、つまらない人間で。」

「好きだから許す。」


痛々しいやり取り。私たちはこんなことを繰り返しながら、ひたすらに歩く。最初は綺麗だった靴も、黒くなっていった。

くだらないやり取りをしていると、遠目に空に浮く何かが見えた。


「……あれ、何だろ?」


レヘルちゃんがそれを指差す。私はぼんやりと眺めて、尻目でレヘルちゃんを見る。


「あれが『空の覇者』の縄張り。--着いたよ、あれが学園都市だ。」


私がにやりと笑ってみせると、彼女はゆっくりと目を見開いて、感嘆の息を漏らす。 

視界の果て。

空に浮かぶのは、砕けた大地。岩が幾つも空に浮かんで、その一つ一つが、空を劈くように聳え立つ塔を幾つも生やして、雲海の中に浮かんでいる。

岩は孤立せず、まるで無理やり縫ったように、橋で繋がれていた。

そして、何よりも目を惹くのは岩の間を泳ぐように飛ぶ--


---ドラゴン達の姿だった。


大きさはまちまちだが、その背中には人が乗っていたり、籠が乗せられていたりしている。大きな翼に、遠目でも分かる爬虫類の眼と、蜥蜴のような肌。想像した通りのドラゴンに、私は一瞬だけ呼吸を忘れた。

レヘルちゃんの方を向けば、彼女は口を開けて空を見上げている。

私たちは顔を見合わせた。示し合わしたように、笑みが溢れる。

青い空に流れる雲と、風で揺れる草原。疲れも、風に乗って飛んでいく。だからか、私達はドラゴンを一匹撃ち落として、そいつの鱗を剥いで主従を理解させると、そのまま都市へと乗り込んだ。

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