12.
「……お、覚えていますね?」
伏目で、私の胸の内を抉るような眼をして、私の顔を見たり外したり、そして黙る。
今度は私が、困り眉。
確かに覚えがある。
「いやね。」
そこで言葉を区切って、唾を飲む。すると、言葉も引っ込んだ。
「……いやね。」
同じ言葉を重ねるだけ重ねて、続く言葉は五里霧中。はぁ、と息を吹いて、天井を見上げるもそこに逃げ場はない。
どうしたものか?……いや。
「そも責任とは。私に何を望む。」
「けっ、結婚してください。」
「……お嬢さん、早まっちゃいけないよ。私たちは出会ったばかりだし、何も知らないじゃないか。言葉を尽くして、相手をぼんやりとでも理解してようやくね、結婚というものがあるんだよ。」
何を語っているのだ。
「……わ、妾に乱暴して、馬乗りしたではありませんか。」
違う。と言いたいが、困ったことに事実であり、否定すればするほどに旗色が悪くなるのは必須で、此処に裁判官がいるならば私が裁かれるだろう。
「そ、それに笑顔で妾の鱗を取る様。今も思い出したら、ほら、身体が震える始末です。」
私に見せつけるように、その身体を抱いて震える。
「……弱いのが悪い。」
飛び出たのは最低な一言。
「だ、だとしても、責任はとってもらいます。具体的には婚姻関係。」
「自分に乱暴働く奴と結婚するなんて正気の沙汰じゃない。」
「……だけど、もうそれしか手立てがありません。」
「どうして?」
「ひ、人に負けるようなドラゴンに価値は無いからです。」
「此処で私が負けてみせても、それは覆らない?」
「く、覆りません。」
「じゃあ、土下座して脚でも舐めるよ。」
「……覆りませんから。」
覆らないらしい。
「分かった。……でも、私はエルフだ。」
「そ、空の覇者と巫女様の結婚から、ドラゴンにも異種族との結婚ブームが続いているので、そこは大丈夫です。」
「……どうして、そこまで結婚を?」
「番がいないと、一人前と見做されないのです。」
「あれ、ニルバルも結婚してないよ?あいつも半人前?」
「ニルバル様は、空の覇者のご子息であられるので。」
「……なるほど。でも、同性婚になるよ?いいの?」
「そこを気にするのは人だけです。」
私はまじまじと、相手を見つめる。見てくれは良い。なんだか、そこまで必死に断らなくてもいいような気がして来て、私はゆっくりと頷く。
「私はブネリョトル。お名前は?」
「……ヘメラーです。」
「じゃあ、メラちゃんで。私のことはブネちゃんと呼ぶといい。」
すると彼女は訝しんで、私のことを見る。
「……あ、あの何があったんです?心変わりが早くて。」
「いや、別に困ることはないな、と思い立って。」
レヘルちゃんは何かと私に甘いから、捨てられた子犬を拾ったようなものだよ、仕方なかったんだ、とよく言い聞かせれば、きっと理解してくれる。困り果てている人の為にしたことだ。彼女も私を責め立てはしないだろう。うん。だけども、どうしても私の腹に包丁を差し込むレヘルちゃんの幻視が消えない。彼女は満面の笑顔で私を刺し殺して、そのまま自分の首を斬るのだ。
私はメラちゃんの袖に指を這わせて、にこりと笑って、上目遣いする。
「……一緒に頑張って、レヘルちゃんを説得しようね。」




