11.
ビールの匂いが床に染みついて、あちこちから下らない話が聞こえる。それが冒険者ギルドだった。木目がはっきりとした床と壁には切り傷。壁を埋め尽くすように貼られた討伐依頼と、護衛依頼。バーのカウンターのような受付には、美男美女がお揃いの服を着て並び立つ。
美女を選んで、話し掛けると、蛇のような瞳が私を見つめた。唖然とする私に、受付嬢は語る。
「土地柄、此処の受付はドラゴンが担当しているんです。お恥ずかしいのですが、私の人化の魔法は瞳だけ完璧にいかず、このような瞳になっているのです。お目を汚していたら、申し訳ありません。」
「いやいや、逆だとも。その目だからこそ、唆るものがあるとも言える。美しい。」
レヘルちゃんは、今もまだホテルのベッドで眠っている。
「言葉が上手ですが、それは親しい人に贈るとよろしいかと。」
受付嬢はくすりと笑うと、要件は何かと問う。私は一枚の書類を卓上に置いて
「撃ち落とした鳥の代金を受け取りに来たんだ。頼めるかな?」
「……ちょっと、お待ちくださいね。」
受付嬢は書類に目を通すと、慌てて立ち上がって、建物の奥へと消えていく。そして、中身がそれなりに入った袋を持ってくると、それと一枚のカードを卓上に置いて、にこやかに笑う。
「星壊様。此方が、冒険者ギルドが発行する会員証になります。再発行には、それなりの費用がかかります故に紛失にはお気を付け下さい。そして、此方が報酬となります。」
「……星壊?」
誰だ、それは。
私の名前はブネリョトルだ。
「二つ名です。噂ですよ、ニルバル様と共に星ドゥパリを撃破したと。」
「はぁ……。」
知らないところで、話が変わっている。
「しかし、私は三十メートルの巨人族と聞いていたので、びっくりしてます。」
「おいおい、それは盛られ過ぎでしょ。」
此方が驚いた。
「……星遺物は隠しているのですね。」
受付嬢が、私の手首を覆うシャツの袖を見る。ボリューム袖の服で、バングルが見えないようになっていた。
「そうだよ。面倒だからね、色々と。」
「ひけらかさないのですね。」
「此処がベッドの上なら、何時間も自慢するんだけどね。」
「訴えますよ、セクハラで。虫ケラの人風情がつけあがるな。」
「ごめんなさい。」
ただただ平謝りする。
「星壊様は、これからどうするのです?」
「別にどうも。学園の入試を受けるくらいだけど。」
「……ビエルト学園ですか?」
「そう、それ。」
「……気をつけて下さいね、あそこは箱庭ですから。」
此方を気遣う声に偽りは無さそうで、私はどうゆうことか?と聞こうとするも、背後に待機列が形成されつつあったので、私は頭を下げてカードと報酬を手に取って、受付を後にする。
足速にギルドから出ようとすると、一人の冒険者とぶつかってしまう。
「あ、ごめんなさい。」
謝って通り抜けようとすると、腕をバッと掴まれた。
「え、何……?」
振り返れば、そこには女の人。痩せて、背の高い人であった。顔は細長くて蒼白く、絹糸のように黒く艶やかな髪が膝まで伸びて、切り揃えられた前髪が目を隠している。隙間から覗く瞳は、淡くくすんだ銀色。下がり眉で、自信なさげ。まごまごと口を開け閉めして、目を泳がせて言う。
「……せ、責任とってください。」
は?
何?新手の詐欺だろうか?
「先日、あなたに撃ち落とされたドラゴンです。」
日本昔話じゃあるまいし、と首を振るも、私には確かに思い当たる出来事があって、その手を振り払うことが出来ない。




