10.(ソラス目線)
反亡橋の前の野営地。
俺は、たんまりと報酬を受け取った二人のエルフを眺めながら、死んだ同業者の親族を視界の端に捉えていた。共に降りてきた、頭部のない九つの死体。何回か共に飯を食らった冒険者の死。彼等は弱くなく、それどころか上澄だった。
冒険者に等級は無い。だけども、倒した魔物や、こなした依頼の数で、個々人にあった二つ名が付く。
あの街の、あの医者は腕が良いと、何故か知っているように、腕が立つ冒険者の二つ名は世間に浸透する。それに権力者のコミュニティで、俺たちが思っている以上に正確に、実力は伝わる。
あの九人だって、それぞれが名の知れた冒険者。目を見開いて青ざめる配偶者の顔が見てられない。
「……リーダー。言葉はあれですが、俺たちじゃなくて良かったですね。」
俺はログの言葉に、苦笑いする他ない。
「……まぁな。」
俺がそう言うと、野営地にいた、事情を知らぬ冒険家がゆっくりと近づいて来て、躊躇いがちに口を開いた。
「ソ、ソラスさんですよね。」
そいつの装備は綺麗で、関節部分が擦り切れていない。それに若い。俺はなるべく優しい声で
「あぁ、そうだ。どうしたんだ?サインなら全然書くぜ。」
と言って笑って
「ま、俺は有名なだけで、あんまり強くないんだけどな。」
自嘲に変わる。
「そ、そんなことないですよ!光天流のソラスといえば、オークの大群を単騎で撃破!パーティーでの多段圧の森のルート開拓!強くなきゃ、こんなことできないっ。」
そいつはキラキラとした瞳で、俺の活躍を語る。
「そうだな、ありがとう。」
俺は手を伸ばして、そいつの頭を撫でそうになり、止める。老いから目を逸らす。
「そ、それでどうしたんです?なんだか、騒がしいんですけど。……俺、初心者で、いまいち分かってなくて。今、橋にいったら危険なんですか?」
「いや、別に大丈夫だ。」
主人がいなくなったからと言って、橋が消える訳でもなく、魔物が居なくなる訳でもない。
「なんか、奥の方で大物でも出たんですか?著名な冒険家も多いですし……。」
きょろきょろと周りを見渡す彼。
「ま、そんなもんだ。」
「……すごいですね。隕石を超えてですもね……大抵の冒険者が、あそこまで行けないのに。」
その言葉に頷く。そこから軽く喋ると、彼はそのまま橋へと向かっていく。
反亡橋。
エルフの二人はものともしていなかったが、本来ならば、いや、俺らですら、あるところまで行けば怪鳥の多さに引き返すことになる。
本来ならば、果てに行くまでに疲れ果てる道のり。
それを……。
いや。
「しかし、あんな化け物。倒せる奴もどうかしてる。」
ログが、エルフの方を見る。
「星からの来訪者。星になった者。謂れは沢山ありますけど、まごう事なく人外。--倒せるのは覇者くらいだと思ってました。」
「それで合ってるだろ。」
「いや、あの二人は--」
「なるぜ、きっと。」
俺は被せるように言った。
「覇者。自身の力を持って、領地を束ねる者。中には、星遺物を棄てる程に持ってる奴もいるって噂だ。」
「噂であって欲しいですね。」
「まぁな。兎にも角にも、あいつには直ぐに二つ名が付くだろう。」
「どうします?面白く可笑しく、話を盛って噂します?ギルドで。」
「そりゃいいな。」
「噂程度に留めるのだけは絶対に守ろうな、あの二人が俺らを殺しに来るかもしれない。それどころか、ニルバル様にも殺されかねない。」
「そうですね、そこの線引きはしっかりしましょう。火遊びは程々にが一番です。」
「火遊びというには、火種がデカすぎる。」
そこから俺たちは、箝口令を敷いた口で、ペラペラとエルフの勇姿を語る。ギルドに飲み屋。正体は分からぬように容姿はぼかして、性別すら語らない。それにニルバル様と共に、星ドゥパリを撃破するシナリオに変えた。
「--そして共に撃破したのに、ニルバル様はブネリョトルの勇姿を讃えて、星遺物を譲ったのだ。『我は一人きりでは倒せていない』と語ながらなぁ。」
嘘八丁に真実を僅かに込めれば、噂話は疫病のように広まった。
--星壊。
それが星ドゥパリを討った、ブネリョトルというエルフに付いた二つ名だった。




