9.
私に駆け寄るレヘルちゃんに肩を貸してもらい、なんとか立ち上がる。砕けた仮面の破片に混じって、一つの金のバングルが。
「……これが星遺物。確かに一目で分かる。」
「どうする?ブネちゃん。」
「どうって、持っていくしかないでしょう。」
「渡しちゃうの?こんな命懸けで倒したのに?」
「……渡さないと後が怖い。」
「倒したのバレないんじゃないの?」
レヘルちゃんの言葉は、私の胸にスッと収まった。いや、だけども
「バレるでしょ。」
するとレヘルちゃんは、はにかんで
「刃向かう奴は殺せばいいよ、ブネちゃん。」
「んな馬鹿な。」
笑おうとしたが、口元が歪んだだけだった。
「よく考えて。覇者は力の象徴。他人から貰った力を、ニルバルが扱うと思う?それに、私はあの人が権力をチラつかせて、ブネちゃんから星遺物を奪うとは思えないなぁ。」
確かに、そんな姿は思い浮かばない。
「貰っちゃっていいんじゃない?さも当然のように着けてれば、あれはきっと何も言わないよ。」
「確かにそうかも。」
私は、ゆっくりとバングルを拾い上げた。そして、右手の手首に装着すると、何とも言えぬ高揚感がじんわりと滲んだ。
手をひらひらとさせて、着け心地を確かめる。そのバングルは不思議とサイズがぴったりで、手首にフィットした。
「……私の手首にピッタリなら、ニルバルには小さいもんね。」
「そうだよ、ブネちゃん。」
私の目を真っ直ぐと見て、レヘルちゃんが頷いた。
踵を返して、ドゥパリの星域を後にする。
後ろ髪は引かれない。
ただ一度だけ、バングルが月明かりをキラリと返した。
回廊に戻ると、冒険者たちがへたり込み、体力と魔力の回復に努めていた。その彼らの奥。包帯だらけのニルバルが、浅く上下に体動する。
一人が振り返ると私たちに気がついて、瞠目すると歓喜の声を上げた。素直に生還を喜ぶ声は、私の手首にあるバングルに気がつくと、その色を変える。
「……まさか、倒したのか?」
信じられない。そう続きそうな声。私はゆっくりと頷いた、警戒しながら。
「……そうか。」
目をいっぱいに開いて、その一言を捻り出す。ざわざわとする冒険者たち。彼等を押し抜けるようにして、ソラスが前に出ると落ち着くように言って、私がドゥパリを倒したことは他言しないように周知する。
「……生きていて良かったぜ、これは本気でそう思ってる。だが、勝つと勝つで問題が発生する。分かるか?」
私はとぼけて、首を傾げる。
「その星遺物。本来ならばニルバル様に渡すべきだが、あの方は決して受け取らないだろう。自力で勝ち取ったものではないと、俺たちは知ってしまっているからな。状況は悪い。このことが知れ渡ると、馬鹿がお前らにも、果てにはニルバル様にも喧嘩を売る。」
「……そんな人いる?」
私がそう言ってみると、ため息を吐かれる。
「いる。だから此処は一つ、お前ら自身の為にはこのことは喋るな。……こんだけの人がいる。漏れるのは時間の問題だが、噂程度に留めないといけない。」
ソラスが小声でそう言って、他の冒険者たちを見渡す。
「ありがとう。優しくされても、何も出来ないよ?」
「ただのお節介だ。あわよくば、というか程度の狙いしかない。」
ソラスはそう言って笑うと、ニルバルの方へと。
野営してるうちに、ニルバルの傷は埋まり、身体は回復する。そして起き上がって、私の手首を見ると、何も言わずに顔を背けた。
帰りは順調で、何事もなく橋を下った。
報酬はたんまりと。
金貨の輝きで失明しそうな程に、受け取った。これだけでも充分なのに、更に撃ち落とした怪鳥の換金があれらしい。後日、冒険者ギルドの窓口で受け取るようにとのことだった。
--入学金。
元はそれだけの為。そう思うと、変な笑いが口から溢れた。




