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星壊のブネリョトル  作者: 百合百合
骨星のドゥパリ
10/11

8.

軽い破裂音。左右から血飛沫が飛んで、薄紫に鮮血が混ざる。遅れて沈む人間の頭部。宇宙へと倒れ込むのは冒険者達の身体。

九つの手が、瞬く間に伸びて、その数だけ冒険者を殺していた。話したことはない。だけども、平常心のままとはいかない。臓器の全てが落下する感覚。私は半歩だけ後ずさる。


「恐れたものは逃げろ!戦えるものだけでよい!!」


ニルバルの声が耳を打つ。

死への恐怖は、恥を前に砕け散る。瞬時に思うのは、ニルバルごと敵を貫く自分の姿。ようやく、自分らしさを取り戻す。

ニルバルと私の横を通り抜ける一陣の風。それはソラス。ログが構えた盾を踏み台にして、自身を射出していた。

双剣を交差させて、敵へと迫る。


「--光って潰す(ソーラ・レイ)。」


双剣が揺らいで光り輝き、光線となって、敵を切り裂く。

それは賦技オーダーメイド。個人の資質であり、奥義であり、隠し球。それを惜しげもなく使って、私たちに道を示す。

ソラスが視界の先で、肩で呼吸する。だが、敵に何らダメージがあるようには思えない。僅かにも傷が、ついていない。

彼へと振るわれる、骨の鞭。

空気を削ぐような音。打鞭は、瞬時に移動していたログの盾によって塞がれる。だが、勢いまでは殺しきれずに、二人は一塊となって、吹き飛ばされた。


「……ちょいちょい。」


私は苦笑してしまう。

掠れば死。

分かりやすくていい。


「骨星のドゥパリ。噂以上だ。」


ニルバルが、それを睨む。

ドゥパリは一度、藤の花の絨毯を打鞭すると跳んだ。背後には月。


「……打鞭だけにしときなよ。」


それだけでも十分に致命傷。

ドゥパリは大きく空で翻ると、その体から幾つもの骨弾を跳ばす。

一つ一つが拳骨サイズのそれが、目一杯に広がる。宇宙を裂くそれらは、私たちに隕石のように降り注いだ。


あちこちで光や、炎に氷が上がる。


誰もが必死。


私目掛けて跳んできた骨弾は、ニルバルが剣で弾き返した。そして、そのまま彼はドラゴンに変身しながら、ドゥパリへと迫る。


「滅びろ。」


口を開けると、口の周りが陽炎のように揺らいで、空気が火を吹いた。ドラゴンのブレス。炎の息が、ドゥパリを焦がさんとする。

ドゥパリは避けない。

それどころか、骨の手でニルバルを鷲掴みにする。


--そのまま殺してしまえ。


私の内心が聞こえているのか、ドゥパリの手はどんどんと握り締められてゆく。蜥蜴の眼が、苦痛に歪む。


「ブネちゃん。あれが殺されたら、本気で逃げる?」

「いや、逃げない。あれが欲しがった星遺物を手に入れる。」


ぺろりと舌で唇を舐めて、ことの成り行きを見る。

ニルバルが手から逃れるために、人へと瞬時に変わる。そして、そのまま手に乗ると、それを足がかりにして、背骨へと登って、駆けて頭へと。

ドゥパリは淡く発光すると、数多の隕石が宇宙に現れた。


--これか。


それはドゥパリにも降り注いで、走るニルバルを撃ち落とさんとする。そして、その余波が此方へと。

私たちはそれを魔法で捌きつつ、ニルバルからは目を離さない。

彼は隕石を華麗に避けて、とうとう仮面へと。

そして、仮面と背骨の間に向かって剣を振り下ろす。

鋭い一撃。

止めるものはない。


--仮面と身体。それは別たれた。


絨毯へと降下する仮面。

私はため息を吐いて、ニルバルを見上げる。彼はゆっくりと微笑んで、勝ち誇る。そんな彼の背後。仮面を失った骨の手が--


--刺し穿つ。


痛みに喘いで、血反吐を吐くニルバル。

彼を貫いた手は、そのまま仮面を掴んだ。そして、何でもないように仮面を元の位置に戻す。


「あっ、そう。」


私はそう呟いて、ドゥパリは睨む。

周りの冒険者は悲痛な顔をして、力を失って、堕ちて来るニルバルへと駆け出す。

諦めと敗走。

その二文字が、彼らの脳裏に浮かんでいるのは、誰が見ても明らか。

私は息を吸って叫ぶ。


「逃げろッ--!!殿は私が務めるッ!!」


そう言えば、言う通りにする冒険者ども。ソラス達だけは、此方を不安げに見つめていた。ドゥパリはそれを追わない。私とレヘルちゃんは並び立って、宇宙を見上げる。


「……お金を稼ぐどころじゃなくなってるよ、これ。」


レヘルちゃんがため息混じりに呟いた。


「あれを個人で倒せたらさ、私はニルバル以上ってことだよね?」

「まぁ、そうだね。」

「おけ。レヘルちゃん。何かあったら援護は宜しく。」


私がゆっくりとドゥパリに近づいていけば、それは叫ぶ。狂気の悲鳴。モスキートーンのようなそれ。藤の花を小刻みに揺らし、花弁がはらはらと舞い落ちる。


「獣と呼ぶには、命の形をしていない。どちかといえば、悪魔祓いの気分だよ、いざ本気でやろうと思うと。」


骨だらけ。長く見ていれば、気が触れそうになる。纏った白布が、逆に気持ちが悪い。

私は息を吸って、膨らんだ肺に力を込める。


「--緑咲いて命枯れる(ハナニカゼ)。」


右手を前に出して、中指から折ってゆく。

藤の絨毯が蠢いて、幾つもの蔓がドゥパリに向かって、勢いよく生え伸びる。まるで生き物のように、ドゥパリへと刺すように這い寄る蔓は、ドゥパリを包み込む。


「意思返し。」


握りしめる拳。

蔓で仮面を奪おうとするも、包まれたドゥパリが蠢いて、グレネードのように身体から八方へと隕石を噴き出す。

熱を持つ隕石は、簡単に蔓を喰い破る。

私は瞬時に、竜巻を魔法で起こして、隕石を削る。熱を持った欠片が、割れたガラスの破片のようにそこらへと撒かれる。

怒ったのか、ドゥパリが天へと仮面をもたげて叫ぶ。それに呼応するように、骨弾が私たちを目掛けて跳んだ。未だ、宙には隕石の破片が。

蔓を牢のように編んで、私はレヘルちゃんと共に骨弾をやり過ごす。


--それを読まれていた。


肉が焦げる臭い。

骨弾は熱せられた隕石の欠片を先端に纏って、私の牢を焼いて貫いた。

視界を隠していたから見えなかったッ!!

頬が燃えるように熱い。

私は咄嗟にレヘルちゃんの腰を引いて、覆い被さっていた。頬と右肩。押さえれば手にはべっとりと血がつく。 

レヘルちゃんに逃げるように促すも、彼女はゆっくりと首を左右に振るだけ。私は微笑んで、少しだけ離れるようにお願いすると、潤んだ瞳で幽かに頷いた。


「……知恵はバッチリとあるのウザいな。」


私はドゥパリのことを睨む。

仮面が本体なのは察している。だが、そこに攻撃が辿り着けない。


--知恵がある。


それはとても厄介で、人間が食物連鎖の頂点に立てた理由。人間以上のものが知恵を持つ。私はその恐怖を知る。

ドゥパリは隕石を縦に一列。宇宙に向かって射出していた。

……何がしたい?

燃える岩々。ドゥパリはそれに向かって、跳ぶ。


「……なるほど。……ん?なるほど?」

 

訝しんで見上げる瞳の先。

隕石へと体を擦り付けて昇るドゥパリ。纏う布が燃えて灰となる。骨は摩擦で赫くなって、火花が身体のあちこちでパチパチと爆ぜた。

骨の一個一個が、ほんのりと熱を抱く。

空に打ち上がっていく、骨の昇龍と化したドゥパリ。


「熱で植物を燃やせるからって、普通それやらないでしょ。」


危機を忘れて、ふふっ、と笑ってしまう。

隕石。

ドゥパリが私目掛けてダイブする。

私は蔓を何本も出し、クロスさせるとドゥパリに備える。

変わらぬ仮面。だけども、ドゥパリがニヤリと笑った気がした。

燃えた体躯。まるで束ねた糸を燃やすように、蔓はいとも簡単に燃え散る。


「そんなことは分かってる。」 


私も、にやりと笑ってみせる。


「--だから、その熱を奪う。」


蔓の影に隠していたのは、小さい竜巻。蔓を伸ばすと共に、私は魔法を忍ばせていた。竜巻は勢いを増して、肥大化していくと、宇宙に舞う藤の花弁を吸い込んで、薄紫に色づき、轟々と渦巻くとドゥパリを襲う。

風が熱を攫う。

そして、仮面を砕かんと襲いかかる竜巻。だというのに


--ドゥパリは焦りの色を見せない。


くるん。

仮面を軸にして、身体を捻るように回す。まるで鯨。竜巻とは逆回転。風の流れに逆らい、高速で回って、竜巻を打ち消す。


「……マジか。」


ドゥパリは、私へと九つの手を伸ばす。槍のように鋭く速いそれらは、未だ赫い。

蔓は役に立たない。

ギリッと、私の歯が鳴る。


「クソがぁぁぁああ--!!」


魔力がどうとか言ってられない。死ぬよりはマシだ。

両手を前に構えると、目の前には泡。水がぼこぼこと無から瞬時に湧いて、どんどんと量は増えていく。

水の魔法。

身体とは合わないから、あまり使いたくは無かった。

水に突っ込まれた骨の手らは、ジュッと水を蒸発させながら、私へと迫る。水の中。手の勢いは緩まる。


「……限界。」


水は爆ぜて、豪雨となって降り注ぐ。

魔力は潰えた。

肩で息をすれば、忘れていた痛みが蘇る。

何処か、私を馬鹿にする雰囲気を纏うドゥパリ。


「魔力はすっからかん。そうなると分かりながら、私は水の魔法を使った。」


手をポケットに突っ込む。


「それにさ、私がタダでレヘルちゃんを庇うわけないじゃん。」


苦笑する。


--二つの袋。


ソラスの説明が、鮮明に思い出される。魔力の込められた人骨の粉。レヘルちゃんを庇うついでにくすねた袋。私は二袋分を口に含んで、豪雨の大きな雨粒で飲み込む。

チョークの粉。

食べたことはないけど、きっとこんな味。

魔力の込められた粉は食道を経て、胃に落ちると魔力が血流に溶ける、体に沁みるように広がって力が漲った。


「底は分かった。化け物退治と洒落込もう。」


体力は回復していない。だけども、私は軽口を叩いた。それに応えるように、ドゥパリも吠える。


--先に動いたのドゥパリ。


数えるのも馬鹿になる程の無数の隕石が、ドゥパリの周りに展開された。一つの太陽とも思えるほどの熱と質量。

向こうも出し惜しみしていない。

ドゥパリは跳ぶと、身体を瓦解させて、無尽蔵の骨弾を作り出す。

全力勝負。


--雨が止んだ。


それが合図となった。


「くたばれ、クソ骨ぇぇええ--!!」


ドゥパリを睨んで、私も叫ぶ。

蔓が私の周りから湧き出す。

私はそれら一つ一つに風を巻きつけて、螺旋の蔓と化して、ドゥパリへと迫る。


「--緑咲いて命枯れる(ハナニカゼ)!!」


右手を拳に突き出せば、隕石と骨弾、竜巻纏う蔓が激突する。

熱風が生まれ、そこら一帯に吹き荒れれば、宇宙の藤の花を吹き飛ばす。骨弾を竜巻が奪って、渦に乗ると、合わさって隕石を削る。蔓は隕石に触れると煙をあげて跡形も無く爆散。それらを縫うように避けて、仮面が私に迫る。


開けられた口。


そこには真っ暗な影が広がる。


身体を捨て、最後は弱点である仮面でのラストダイブ。あれが私まで辿り着いたら、私の命は食われる。

蔓を伸ばして、仮面へと巻きつける。

ギチギチに食い込んだ蔓。

仮面はそれをものともせずに私へと。


「砕けろよぉぉおお--!!」


突き上げた拳を握る。

爪が肌に食い込む。

歯は痛いほどに噛み締める。


--画面の端にヒビが。


僅かなひび割れ。だけども、微かに割れた。仮面は意を決したのか、さらに蔓へと仮面を押し付ける。 

意地と意地。

言葉は無くとも、伝わるものがある。


「だけども、所詮は死骸。生者に死者は勝てない。」


砕ける。

ヒビは蜘蛛の巣状に広がって、仮面が割れる。

パラパラと仮面の破片が、藤の花と共に私へと降った。


「……やった。」


小さく呟き、膝から崩れ落ちる。私は背後を見つめて、微笑を浮かべた。


「私は、強い。」


その言葉を噛み締める。

狭量の器に、安堵が満ちた。

勝利の美酒よりも、他人へと勝ち誇る我が身の、どうしようもなさに顔が綻んでしまった。

私らしい。

だけども、それがいい。この地獄がお似合いの愚かさが、愛らしい。


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