第四十七話 見落としているもの
テラスは周辺を含め完全に封鎖された。
昼休みになると、学生たちは遠巻きに柵の向こうを眺めている。
「王宮からも来てるらしいぞ」
「例の植物だろ?」
「何人も出入りしてるって」
噂は日に日に大きくなっていた。
ロシーナも教室からその様子を見つめる。
見慣れない服装の大人たち。
運び込まれる機材。
立入禁止の札。
物々しい雰囲気が、事態の重大さをあらわしていた。
放課後。
ロシーナは図書室に通いつめ、目ぼしい資料に片っ端から目を通した。
学園史。
増築記録。
施設管理記録。
けれど、欲しい情報は見つからない。
テラスの下にあれだけの群生地があったのに、これまで誰も気が付かなかったのだろうか。
記録が何も残っていない。
ラウンジで顔を合わせたユリウスに尋ねてみる。
「調査はどうですか」
「進展はないようだ」
ユリウスが首を横に振る。
「土壌も学園で使用されているごく普通の土だった。」
「鉄分はどうでしたか?」
「それに関しては温室裏の方がはるかに豊富だった」
そこまで言って、ユリウスが言葉を選ぶように間を置いた。
「それと。群生している蒼玄草の毒性が異常に強いことが判明した」
「毒性が?」
「ああ。以前の蒼玄草とは性質が異なっている」
ロシーナが息を呑む。
「その扱いについて、アルケミアと王宮が揉めているらしい」
「……揉めてる?」
「ああ。どちらが管理するかで意見が割れているんだろう」
ユリウスはそこまで言って、ロシーナの顔を見た。
「どうした」
「いえ……あの。そのような重要なこと、私が聞いてしまってもいいのでしょうか……」
ユリウスがふわりと笑った。
「君は、蒼玄草の第一人者らしいからな」
「そ、それは……!」
「冗談だ。当然許可はとっている。フェリクスから調査団に推薦されたのに、認められなかった話があっただろう。気になったから父に確認したんだ」
「ランベルト公爵様に……」
「ああ。現場に出ずとも協力できることはあるだろう。きっと、君の目が必要になるはずだ」
「か、買い被りすぎです! 私なんか──」
「ロシーナ」
ユリウスがロシーナの言葉を遮った。
「君は素晴らしい目を持っている。自信を持て」
静かなのに、力強い声だった。
この人がそう言うのなら、自分が特別な人間なのではないか、そう思えてしまうくらい。
ユリウスはどこまでも優しく、ロシーナを見つめていた。
「協力してくれるだろう? もちろん、内密にはなるが……」
「……はい」
「良かった。私も、共同研究者として君と一緒に行動できるしな」
そう言って笑うユリウスが本当に嬉しそうで。
(もっと見ていたい)
自分の中に、欲のようなものがむくむくと生まれてくるのがわかって。
慌てて窓の向こうへ視線を逃した。
遠くにはテラスの規制線が見える。
土壌分析でも分からない。
記録にも残っていない。
そんな場所に群生する蒼玄草。
何かを見落としている。
あの下には、まだ誰も知らない何かが眠っている。
そんな気がしてならなかった。




