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土を読む男爵令嬢のせいで、公爵令息は完璧ではいられない──我が家が国家機密だなんて知りませんでした  作者: 中田かすり


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第三十二話 ひとり歩きする噂

 



 廊下のあちこちで、同じ話が繰り返されていた。



「危険な植物が見つかったらしいよ」


「なにそれ」


「薬になるけど、毒も強いんでしょ」


「それ、学園で発見されたって聞いたけど」


「え、本当に?」



 声は小さいのに、やけに耳につく。





「温室で何かあったらしいよ」


「最近、あそこ騒がしかったって」


「温室に入り浸ってた人がいるって」


「関係あるのかな」



 言い切る者はいない。


 けれど、否定する者もいなかった。





「実務科の……カッセル家の子」


「ああ、土ばっかり触ってる」


「『土まみれ令嬢』?」


「なんか、それっぽくない?」



 くす、と短い笑いが混ざる。

 すぐに消える。





 場所が変わっても、同じ声がする。



「危ない草、学園で育ててたらしいよ」


「誰が?」


「カッセル家の……」



 名前だけが、はっきりと残る。








「子爵家の方が怪我をしたって話よ!」



「ひどいわね」



「なんて恐ろしいの……」








「でも、それって本当なの?」



 小さな声がひとつ落ちた。

 返事はなかった。

 代わりに、別の話が重なる。


 足を止めるほどではないのに、通り過ぎても耳に残る。


 振り返っても、誰もこちらを見ていない。


 ロシーナという名前だけが、何度も、何度も呼ばれていた。






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