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第三十二話 ひとり歩きする噂
廊下のあちこちで、同じ話が繰り返されていた。
「危険な植物が見つかったらしいよ」
「なにそれ」
「薬になるけど、毒も強いんでしょ」
「それ、学園で発見されたって聞いたけど」
「え、本当に?」
声は小さいのに、やけに耳につく。
♢
「温室で何かあったらしいよ」
「最近、あそこ騒がしかったって」
「温室に入り浸ってた人がいるって」
「関係あるのかな」
言い切る者はいない。
けれど、否定する者もいなかった。
♢
「実務科の……カッセル家の子」
「ああ、土ばっかり触ってる」
「『土まみれ令嬢』?」
「なんか、それっぽくない?」
くす、と短い笑いが混ざる。
すぐに消える。
♢
場所が変わっても、同じ声がする。
「危ない草、学園で育ててたらしいよ」
「誰が?」
「カッセル家の……」
名前だけが、はっきりと残る。
♢
「子爵家の方が怪我をしたって話よ!」
「ひどいわね」
「なんて恐ろしいの……」
♢
「でも、それって本当なの?」
小さな声がひとつ落ちた。
返事はなかった。
代わりに、別の話が重なる。
足を止めるほどではないのに、通り過ぎても耳に残る。
振り返っても、誰もこちらを見ていない。
ロシーナという名前だけが、何度も、何度も呼ばれていた。




