第二十二話
「メディアが使えたらな……」
拡散するには、メディアが一番早いのは、この星でも同じだった。
「この星では、個人が動画配信とかできないの?」
「以前はあったらしいんだが、それにのめりこんでしまう人が続出して、仕事がおろそかになったんだ。それで禁止された。ただ、地球と違って、メディアはちゃんとしているから安心できるんだ」
「どうして、そう言い切れるの」
「通報制度があって、もし間違った報道をしたら、一般の人が通報する仕組みになっているんだ」
「それで上手くいっているの?」
「まあ、そもそも悪人はいないからね」
「悪人はいないのね……」
まなの表情が暗くなった。
両親が殺害されたあの事件を思い出させてしまっただろうか‥‥‥
「まな、えっと、はちみつはまだ残っているかい?」
「あっ、ええ、あるわよ。シュリが時々持ってきてくれたから」
「ホットはちみつでも二人で飲もうか?」
「うん。作ってくるね」
僕は、あの事件のことを思い出させたくなかった。
僕は、言葉を選びながら話の続きをした。
「この星は、お金、食べ物もいらない。家も服も必要なものは全て与えられる。魂が求めている仕事ができれば幸せだから、悪いことをする必要がないんだ」
「そうね……地球もそうなればいいのにね」
「そうだな……でも、物質に物質に依存しているうちは、無理だろうな。食べ物を失う恐怖がある限り、人はそこから自由になれない」
「プラーナ生成器を大量生産して、配ったらどうかしら?」
「何十億個必要なんだ? 例えそれが可能だったとして、魂にアクセスできない人は、自分の本当の仕事を見つけることができないから、上手くいかないだろうな」
「美しき星のようになるには、不食になること、それと魂にアクセスできることか……」
「そういうことだな」
「シンジュいるか?」
アディルが息を切らしてやってきた。
「シンジュ、仲間が増えたぞ。100人だ。明日は、テレビ局の前でデモをしないか?」
「でも、メディアを動かすにはまだ弱いと思うんだ。どうしたら……」
「あっ、そうだ。二人はこの二、三日の間に走馬灯を見なかったか?」
「見たわ。私もシンジュも」
「それを使ってみないか?」
僕は、眉をひそめて、アディルの話を聞いた。
「実は、オリジン装置を起動したときに、過去の記憶がよみがえるんだ。それを走馬灯のように見ているというわけなんだ。おそらく、多くの人が、美しき星と地球との間にあった過去を見るはずなんだ」
「それだったら、僕たちはもう見たよ」
「もう見たのか。だったら話は早い。要するに、地球は、元々美しき星の人たちが住んでいたんだ。私たちの中には、地球の人々を親に持つ者もいたんだ。その人たちの子孫を助けるために、オリジン装置を探し出して地球で起動した。そう考えたらなんの問題もないだろう?」
「確かに、そうだな」
「それにだよ。オリジン装置は、もう美しき星に戻ってきたんだ。彼らのお陰で、失われた歴史を知ることができた。彼らが反逆罪に問われるのはおかしいということが、オリジン装置の再起動によってわかるはずなんだ」
「メディアの人も、走馬灯の体験をしているだろうか?」
「ほとんどの人が体験しているはずだよ」
「なるほど。多くの人の証言があれば、気のせいではないことがはっきりするということか」
「オリジン装置は、あと3回くらい再起動されるはずなんだ。意識して走馬灯をみることができれば、より一層はっきりしてくるはずだ」
「わかった。すぐにテレビ局に連絡してみるよ。アディルは、明日のデモの準備を頼む」
「わかった。また明日」
僕は、テレビ局へ連絡を取り、早速取材を受けることになった。
取材を受けている最中に、また目の前が真っ白になった。次に見たのは、3000年前の美しき星で起きた宇宙人による拉致事件だった。なんと取材クルーと記者の4人ともが、僕と同じ内容の走馬灯を見ていたのだ。これは、もう間違いないと確信し、その日の夜のニュースで、オリジン装置起動による歴史の真実が放映された。それと同時に、その装置を探しだしたラマナとシュリが投獄されていることがいかにおかしいことなのかについて報道された。
翌日は、デモに参加したい人が急に増えて、数か所で同時デモを行うこととなった。
シュリたちが収監されている場所では、アディルやライラが日本語も交えながらデモを行った。ラマナ代表に声を届けるためだ。おそらく一人で不安になっているから安心してもらうためでもあった。
「シンジュ、帰っているか?」
「ああ、アディル、今日もありがとう」
「僕は、大丈夫だけど、シンジュの体調は、大丈夫なのか?」
「少しずつ良くなってきたよ。今日は半日、立っていられたよ」
「テレビの反響がすごかったな」
「ああ、明日はまた参加者が増えそうだ」
「アディルやライラも昨日、3000年前の拉致事件の走馬灯を見たのかい?」
「いや、僕たちは、それはもう日本で見ていたから、別のものを見たよ」
「私は、幼いころ遊んだ友人の走馬灯だったわ」
ライラがそう答えたら、まなが話に加わった。
「私も、幼いころの映像を見たの。それが凄く不思議なんだけど、日本じゃないのよ」
「前世ってことか?」
「美しき星のような映像なの」
「えっ、どんな映像?」
ライラが身を乗り出して、まなの話を聞いてきた。
「私の名前は、さくらって呼ばれていて、幼馴染の女の子といつも遊んでいるんだけど、一気に時が流れて大人になって、ある時、地球へ行くって言っているの。魂の役目をするからって」
「えっ?」
ライラとアディルは、お互いを見合って驚いていた。
「その話が、何かあるのか?」
僕は、ライラに質問した。
「もしかしてだけど…… まなさんは、ラマナのお母さんのホノコさんの友達のさくらさんの魂なんじゃない?」
「ん? 複雑だな」
「要するに、まなさんは、美しき星の魂なんじゃないかってことよ」
「そうなのか?」
「ねえ、何年生まれ?」
「2011年よ」
「可能性が高いな」
アディルがそう言うと
「きっとそうよ。ホノコさんの家に行ってみたら、記憶が蘇るかもしれないわ。ほらっ、浅間さくらさんのように」
「浅間さくらさんって、ミステリー作家の?」
「そうそう、まなさん知ってる?」
「ええ、大ファンよ。まさか、浅間さくらさんは、美しき星の魂なの?」
「そうなのよ。彼女もちょっと前までこの星に来ていたわ」
「そんなことが……」
デモは5日目になり、参加人数は一万人を超えた。美しき星の人口から考えると信じられない人数だった。
「シンジュ、私も手伝えることがないかしら?」
「あの時のように、一緒にやるか?」
「いいの?」
「もちろんだよ」
まなの声があれば動かせる。僕は、そう感じていた。
「まなは気にせず、日本語で訴えてくれ。僕がそのあとに、翻訳して訴えるよ」
「わかった」
僕たちは、デモ行進後に広場に集まった。
まなはマイクを握り、シュリを解放するために声を上げた。
「シュリは、犯罪者などではありません。この星と地球を守るために、動いていただけです。私たちは、そのお陰で、この星の正しい歴史を知ることができました」
僕は、まなの声の響きを受けて、自分の声に力が乗っているのを感じていた。
「地球は、私たちの祖先の星です。愛すべき星です」
僕は、彼女の言葉を翻訳しながら、観衆が高揚してきているのを感じていた。
「その地球で、オリジン装置を見つけ出したのは、ラマナやこの星の人々です」
彼女は、そこで言葉を切った。
誰もが、息をのんだ。
「そんな人が、どうして収監されなければならないのですか?」
観衆の一人が叫んだ
「そうだ!」
すると、その声は一瞬で広がった。
会場は熱狂に包まれた。
日本語の響きが、まるで彼らの遺伝子を目覚めさせたかのようだった。
『シュリ解放』『ラマナ解放』というシュプレヒコールとともに『まな!』と叫ぶ声も加わっていた。
僕は、まなに『ジュピター』を歌うように伝えた。
彼女は戸惑っていたが、僕が美しきの言葉で皆に説明をすると再び『まな』コールが起こったため、彼女は、静かに歌い始めた。
その歌声は、まるで電流のように全身を貫いた。
歌い終わったとき、スタンディングオベーションが二十分も鳴りやまなかった。
僕は、その光景を見て、まなとまた一緒に政治の世界に戻りたいという気持ちがよぎっていた。
会場のわきで、こちらを静かに見つめている人がいることに気が付いた。僕の警察官の兄だ。僕は、緊張が走った。もしかするとまなが捕まってしまうかもしれない。僕は、すぐにアディルにテレパシーで伝わるように心で叫んだ。
『アディル、警察だ、警察が来ている』
アディルは、すぐに警官に近づいて、何か話し始めた。
僕は、その間に、彼女の手を引いて会場を後にした。
「シンジュ、何があったの?」
「警察官がいたんだ」
「捕まるの?」
「いや、大丈夫、僕が絶対に守る」
僕は、彼女の手をぎゅっと握りしめて、自宅まで急いで帰った。
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