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第二十話

「はい、新聞と雑誌。それから今日は面白そうな本を何冊か持ってきたよ」

 ――シュリ、最近は声が明るくなってきたな。

「清田さん、いつもありがとうございます」

「なかなか、来れなくて申し訳ない……シンジュは、その後どう?」

「変わらないわ」

「そうか……」

 シュリの大きなため息が聞こえてきた。

 ――僕も、ため息をつきたいよ。

「あっ、そうだ!」

 まなは、手を叩いて言った。

「この前、子どもになったアディルおじさんが来てくれたのよ」

「子どもになった?」

「生まれ変わったんだって」

「なんだ、そういうことか」

「ライラも一緒だったわ」

「ライラも生まれ変わったんだな。良かったよ、気になっていたんだ」

「知っていたの?」

「ああ、今は、アカシックレコードのラマナ代表のサポートをしているんだけど、そのラマナ代表のお母さんだったのが、ライラなんだ。それで、ラマナ代表の孫として生まれてきたのが、アディルおじさんなんだよ」

「えっ? なんか複雑なことが起こっていたのね」

「えっと、それが書かれた本もこの中にあるよ。ああ、これこれ」

「美しき星。この星のことを書いた本なの?」

「ああ、この星で昔起こった拉致事件の真相が書かれているんだ。拉致された中の一人がライラなんだ」

「えっ、ライラにそんなことが……」

「良かったら、その本を読んでみて。アディルおじさんが大活躍だから」

 シュリは、そう言って笑いながら帰っていった。


「美しき星…… シンジュ、この本も読み聞かせをするわね」

――――――――――

 この話は、八十八歳の私の母と孫との会話を録音し、それを文字に書き起こしたものである。とても信じがたい出来事であるが、私も当事者でもあり、それを目の当たりにすれば、信じることしかできない内容であった。

 二千四十五年秋、私のひとり娘の愛歌が初めてお産をして、一カ月程たった日のことだった

――――――――――


「2045年って、私たちがこの星に来た年の話よ」


――――――――――

「やっと会えたね、ライラ。私が誰かわかるかい?」

 母は、嗚咽しながら、二度三度頷いた。

「会いたかったの、ずっとずっと。わかる、わかるわ。心ではわかっているけど、でも思い出せないの」

 今度は、普段の母の声で答えた。

 そしてまた、声色が変わり、低い声で

「仕方がないさ、地球の時間で言えば、三千年以上も会っていないんだから」

「三千年も……」

「私の名前は、アディル。私たちはこの宇宙の遥か彼方の星で一緒に暮らしていたんだ。そこにいるのは、私たちの娘、ケイリー。ライラは、ケイリーが自分の娘じゃないかと気付いていたはずだよ」

「ええ、気付いていたわ。でも、そんなことは、この地球ではありえない話だから、私の胸の中に留めていたの」

――――――――――


 読み始めたところで、玄関から声が聞こえてきた。

 ――この声はライラだな。


「まなさん、こんにちは」

「ライラ、いらっしゃい。どうぞ入って。今ね、シュリからもらった本を読んでいるんだけど、ラマナさんが書かれた本なんですって。ライラとアディルが出てくるの」

「あの子、ようやく本を書いたのね。なかなか本をかけずにいたから心配していたのよ」

 本を手で触っているような音が続いたあと、ライラが話し始めた。

「この前の話なんだけど、私の母に聞いてみたの。そしたらね、この星の人の生理は一年に2回くらいしかないんですって。だから妊娠する確率は低いけど、妊娠できる年齢は100歳くらいまでは大丈夫で、200歳で出産する人もいるんですって」

「200歳って、この星の人は何歳まで生きられるの?」

「3000歳くらいの人も多いみたい」

「3000歳。全く想像がつかないわ」

「私も母から聞いて驚いたのよ」

「そうすると、私の生理不順は、問題ないのかしら?」

「こっちに来てから半年に1回しか生理がないのは、この星では当たり前だから問題ないんだけど、まなさんは、地球人だから、そこが心配よね。体調が悪いとか、そういうことはある?」

「日本にいるときよりも、体調はいいのよ。でもなんとなく心配で」

「もしも心配なら……」

「ん? 心配ならなあに?」

「シンジュが入っている、あの中に一緒に入っちゃえば」

「えっ、あれに?」

「あれは、人の細胞を急速に整えてくれるの。だから、一緒に入るのが一番よ」

「ほんとに?」

「うん。それが手っ取り早いわ」

 ――それは、いいアイディアだ。僕は毎日でも歓迎するよ。

「シンジュも、歓迎するって言っているわよ」

「ライラ、またそんなこと言って」

「えっ、本当のことよ。彼がそう言っているの。テレパシーで聞こえたわ」

「えっ、テレパシーで? シンジュは、意識があるの?」

「うん。もう一回聞いてみるね」

 ――ライラ、僕の声が聞こえるのか?

「聞こえているわ」

 ――まなに、もしカプセルに一緒に入るなら、服を脱いでから入ってくれって言ってくれよ。

「えっ、そんなこと言ったら、まなさんに嫌われるわよ」

「ライラ、シンジュは何て言っているの?」

 ――大丈夫、僕たちは、恋人同士だったんだ。今でも愛し合っているんだ。

「そうなの? だったら伝えるけど……」

「ねえ、シンジュは、何て言っているの?」

「もし、カプセルに入るなら、服を脱いでから入ってくれって」

「シンジュ、こんな状況なのに、相変わらずドスケベなのね」

「ほらっ、まなさん、怒ってるじゃない」

「ライラ、いいのよ。これで、シンジュだってわかったわ」

「えっ、ほんとに?」

「それより、もっと話せるかしら?」

「もっと話したいって、彼も言っているわ」

「どうして、体が動かないの?」

「自分でもわからないそうよ」

「耳は聞こえているの?」

「すべて聞こえているそうよ」

「目は見えないの?」

「目は見えないそうよ」

「どこか、痛いところとか、くるしいところはない?」

 ライラは、少し間を開けて伝えた。

「心が苦しいよ。まなを苦しめていると思うと……」

「シンジュ……」

「まなさん、シンジュの言葉をそのまま伝えるわ」

「まな、僕が宇宙人だと知ったのに、どうしてここに残ったんだ?」

「最初は、本当に驚いたけど、シンジュの方が、地球人より誠実だし、私が、シンジュのことを愛していたから。それに、地球には、私の味方はもう誰もいないから……」

「まな……」

「シンジュ、何か欲しい物とか、してほしいこととか、してほしくないこととかがある?」

「あるけど、ライラには、ちょっと伝えられないよ」

「えっ、何? 私には伝えられないって、どういうことよ!」

 ――大人の話だからな

「なっ、あっ、そういうことね。はいはい、ここから先は、二人で楽しんで下さい」

「ライラ、シンジュは、何て言ったの?」

「大人の話ですって」

「でもライラがいないと私たち会話ができないわ」

「シンジュ、黙り込んでるわよ」

「シンジュ」

 カプセルを何度か叩く音がした。

 ――ライラ、ダメか?

「さすがに、私が大人でも、二人の愛のやり取りを通訳するのは気が引けるわ」

 ――いや、そうしてもらいたいんだが。

「何言ってるのよ、無理無理!」

 ――冗談だよ、でもまなと毎日会話をしたいんだ

「ねえ何? シンジュは、どんな無理なことを言っているの?」

「大人の話は、冗談だって。でも、シンジュは、まなさんと毎日会話をしたいそうよ」

「私も、毎日話したい……」

「わかったわ、まなさん。私、毎日ここに来るね」


 僕は、何年もの想いを全て話せたわけではないが、まなに伝えることができて、胸が少しだけ軽くなった気がした。


 この日の夜、彼女は、僕のカプセルに入ってきた。

 彼女の肌の温もりが、僕の体も心も溶かしてくれるようだった。


毎日更新予定

シンジュとまなの愛のささやきをライラが間に入って伝えるのって、あり?なし?

みなさんは、どう思いますか?

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