第十六話
停戦後すぐに、閣僚会議が行われた。
おそらく、何人かの大臣は、軍事産業でお金を懐に入れている奴らなんだろう。大臣たちの空々しい発言で、反吐が出そうだった。
「シュリ、今日の会議はあきれたよ。もういい加減、こんな馬鹿馬鹿しい紛争は二度とやらないで欲しい。僕が総理大臣になったら、フリーエネルギーの公表に踏み切りたいんだが」
「えっ? まだ、早いんじゃないか?」
――あの男の顔が浮かんだ。
環境省の政務官だった頃、内密に連絡を取り合っていた事業家。
本気でこの星を救おうとしている人物だった。
「もう、何度繰り返せばいいんだ。武器の消費のための軍事費、ガソリンの高騰、国家間の対立、全部茶番じゃないか、政治家は、与党も野党も全員知っているんだ。被害に遭っているのは、善良な市民なんだよ」
「しかし、フリーエネルギーを公開すると、また潰す動きが出て、善良な市民が殺されていくんだ」
あの技術は、まだ表に出してはいけない……
出せば、必ず潰される。
「くそっ、この星は、一体どうなっているんだ。ここまで狂気に満ちた文明を、僕は他に知らない……」
「……まったくだ」
僕は目を閉じた。だが、どう考えても納得できなかった。
「シュリは、この地球にいる、外国人同士、いや宇宙人同士の争いをどう見ているんだ?」
「ここの星の住人は、まだ幼い精神段階で、欠乏欲求と歪んだ自己実現に囚われた者たちだ」
僕は、さらに頭を抱えた。
欠乏欲求と歪んだ自己実現に囚われた者たち……
「逆に、美しき星の人たちについてはどう見ているんだ?」
「私たちは、自己超越の段階にいる。自分の知識や経験を惜しみなく伝え、他者の育成に尽力する。自分の魂を探求しつつも、社会や宇宙など、自分を超えた存在のために行動するんだ。全体との調和の中で新しい価値を生み出す。そういう状態の人々だ」
「そういう状態になるには、どうしたらいいんだ?」
「今は、それを地球で観察・記録している段階だが……」
「無理なのか?」
「……そもそも宇宙人同士の共生の中で、自己超越にいたるかどうかだ」
「共生が問題なのか?」
「ああ、全ては、安心、安全な基盤があって初めて到達する。外見の違いは、本能的に恐怖を感じるんだ」
「問題は外見の違いだというのか?」
「これは本能だからな」
「でも慣れてくるんじゃないのか?」
「確かに慣れてくれば大丈夫になることもある。しかし、ようやく慣れてきたかと思うと、また別の国の者や別の人種がやってくる。これでは、なかなか難しいだろうな」
「そんな中でも、自己超越をした人はいないのか?」
「いるよ。それは、やはり同一民族の中に多いな」
「そういう人たちは、どんな活躍をしているんだ?」
「フリーエネルギーを開発した人もそうだ。他者の精神性向上をサポートしている人もいる」
それから数年、僕は何度もこの問題を国会で取り上げた。だが、そのたびに潰された。
それでも世論は、少しずつ変わり始めていた。
2040年夏、僕はついに総裁選に立候補を決意した。
一部のオールドメディアでも、まなの質問の手法が広がり、政治がいかに利己的で、自己保身なのかが暴かれていた。まなのお陰で、風は僕に吹いていた。
「シュリ、20人集めるぞ」
「そう言われるだろうと思って、既にリストを用意しています。順番に声をかけて下さい」
「推薦人リストか―― シュリ、流石だな」
彼は、年々仕事のスピードも質もアップしていた。
僕は、さっそく同期の上島に声をかけた。彼は、少し驚いたようだが快諾してくれた。二人目は「党の重鎮」二世議員の山岡先生。彼は、僕が議員になってから、いろいろと教えてくれて、分け隔てなくいつもかわいがってくれている先輩議員だ。もちろん承諾してくれた。
順調に承諾が取れていると思ったのだが、橋本先生で躓いた。
「五人目で、断られたぞ」
「橋本先生ですね。大丈夫です、想定内です」
シュリは、あっさりとそう言った。
「断られるのに、書いたのか?」
「はい、橋本先生に先に声をかけないと、へそを曲げますから。あの人は、必ず断るのに、声がかからないと、私たちの悪口を言いふらしますからね」
「面倒な人だったんだな」
「人間は、そんなもんです」
僕は、この先が思いやられそうで、気持ちが萎えてきていた。
大きくため息をついて、肩を落とした。
「石山先生、次々電話してくださいよ」
「わかったよ」
三十七人連絡をしたところで、ようやく20人確保できた。
総裁選挙は、四期当選の広島選挙区の佐山議員と一騎打ちとなった。
一回の投票で決着がつく。僕は、いつもになく緊張していた。
結果は、党員票7割を獲得して、僕は、総裁となった。そして、首班指名でついに総理大臣となったのだ。
――この国の未来を、僕が引き受けた瞬間だった。
しかし、大臣選出で僕は頭を悩ませていた。今までの大臣経験者は、どいつもこいつも金に執着する者ばかりで、国民のために仕事をしていないものばかりだった。
「半数以下か……」
「石山先生? まさか、そのようなお考えを?」
「ん?」
つい口に出た言葉だったが、シュリがすぐに反応した。
「半数だけ国会議員から選ぼうと思っているのでは?」
「さすが、シュリだな。どう思う?」
「民間の方をピックアップしてみますよ」
「頼むよ。僕は、国会議員で良さそうな人がいるか考えてみる」
僕は、議員の今までの対応を思い出し、慎重に大臣を選ぼうと思ったが、相当苦戦していた。
「それにしてもだよ、もしも、シュリが大臣になったら、一人で全部こなせるんじゃないのか?」
「はは、さすがにそれは無理ですよ」
「シュリも国会議員に立候補するか?」
「それは、無理ですよ」
「どうして?」
「適材適所ですからね。まあ、安心してください。選ばれた人には、ちゃんと仕事をしてもらうように、私が指導しておきますよ」
「シュリ、助かるよ」
新内閣の顔ぶれが、ニュースで一人ずつ発表されていた。
民間から六名の登用に関して、メディアからは「聖域がなさすぎる構造改革」だと揶揄されたが、SNS上では『真っ当な判断』『よくやった』という声も上がっていた。
発足当初は、抵抗も激しかった。既得権益にしがみつく勢力からの圧力、メディアによる印象操作、内部からの裏切り——そのすべてが、改革を鈍らせようとした。
それでも、いくつかの制度改革は確実に実を結び始めていた。小さな成功が積み重なり、国民の信頼も少しずつだが戻りつつあった。
それから三年。
政治は、確実に変わり始めていた。かつて当たり前だった不透明な資金の流れは減り、政策決定の過程も徐々に可視化されていった。腐敗した補助金制度は廃止され、エネルギー政策も転換が始まっていた。
2044年、僕は、総理大臣二期目になっていた。
シュリは、独自にまなが何を調査しているのかを調べていた。
「まなさんは、もしかすると私たちの仲間が調べている宇宙人の組織にたどり着いているかもしれないぞ」
「えっ? 地球人のまなが、そこにたどり着けるものなのか?」
「GPSの動きを見ると、どうも怪しいんだ」
「GPSって、シュリ、まさかまなに付けたのか?」
「はい、石山総理の意向だと思っておりますが、違いますか?」
僕は、咳払いをして
「まあ、いいけどさ……」
「あっ、まなさんの写真が送られてきましたよ」
僕とシュリは、その写真を見て、顔を見合わせた。
そこに映っていたのは、内閣法制局にいる木村颯太だった。
木村颯太は、彼が大学生の時、まなと一緒に私の元で働いていたインターンだった。その後、内閣法制局に入り、法律案を作成している人物だ。なぜその男が今、テヘランに行って、記者のまなと会っているのか?
「これは、推測ですが、彼はもしかするとその宇宙人と関係があるのかもしれません。あの紛争以降、日本からの渡航はレベル3ですから、普通の観光ではいけませんから。あの場所にいたことを考えると、宇宙船を使って移動しているかもしれません。彼を追跡してみます」
僕は、別の秘書を使って、木村颯太がいつ帰ってくるかを確認させた。もちろん、法律案のチェックを依頼したいということで、帰り次第連絡をもらうようにと怪しまれないように秘書に指示を出していた。
彼は思った通り、三十分ほど席を外しただけで戻ってきた。
宇宙船を使っている可能性が高かった。
木村颯太は、何故、政治に入り込んでいるんだ。目的は一体何なんだ?
僕は仮説を立てられずに、一週間が過ぎた。
定例会見に、まなの姿があった。まなが日本に戻ってきたのだ。
「国会議員の国籍、帰化問題について、国民からの不安の声が上がっています。いつになったら、調査が進むのですか? また国会議員のみならず、秘書や法制局職員に関しても調査の必要性があると思いますが、いかがですか?」
僕は、まなが日本に戻ってきて安心した。それにしても、まなが国籍や帰化問題に触れ、しかも法制局職員をわざわざ出したということは、木村颯太の件で、何か気づいたのか?
まさか、僕自身の国籍ではないだろうな。僕は少し不安になっていた。
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