下克上シンデレラ
ステンドグラスから光が差し込む。
十字架の下、タキシード姿のアラン王子の前と対峙する。
今日のために家来の人たちが整えてくれた最高級のウェディングドレス。今の私は多分、過去最高に美しいんだろうな。
「アラン王子、シンデレラ姫に永遠の愛を誓いますか?」
「誓います」
「シンデレラ姫、アラン王子に、永遠の愛を誓いますか?」
「誓……うわけないでしょ」
「なっ……!」
式場がどよめく中、流石は王子というべきか、アランは一瞬で、全てを察したかのようなギラリとした目に変わり、私の肩を掴みにかかる。
私はアランをドンと突き倒し、紅いカーペットの上を一気に駆け抜けた。
「追え! シンデレラを捕まえろ!」
そうアランが叫んだ頃にはもう遅い。
私は、外で待ち構えるカボチャの馬車へともう着きそうだ。
魔法使いのお婆さんが手を振っている。
馬車のドアに手をかけた。
「ロバに聞いて駆けつけたけど、シンデレラ、あなた、本当に、これでよかったの?」
「うん、大丈夫。私は気づいたんだよ。私は、生まれた時から、自由だったんだって!」
それを聞いた白馬が吠え、ネズミの騎手は笑う。
「ハハ、最高だよシンデレラ姫、いや、レイチャミ!」
私は馬車に乗り込んだ。
カボチャの馬車は、追っ手をもろともせず、全速力で駆け抜ける。
このまま、どこまでも行こう。
もう、誰かに縛られたシンデレラは死んだんだ。
私はレイチャミ。
『あんなに僕の指図する通りに踊ってくれたり、この中庭に来てって、言ったらきてくれたり。そんな人は、あんまりいないかも』
『もし、もしだよ、シンデレラが俺と一緒になってくれたら、僕の家来に好きに命令してもいいよ。あいつらは僕の言うことを全部聞いてくれるから。君は、僕と結婚すれば、全てを手に入れられるんだ。一緒に、幸せに暮らそう』
あのままだったら私は、必ずアランに縛られる。アランは継母と同じ考えを持っている。指図する通りに踊ってくれる。リードしてくれるなんてよく言ったものだよ、私はそんなの全く望んでいない。
私は自由な人間なんだよ。継母にも、王子にも、そして……。
『レイチャミ、これからは新しい継母と仲良く過ごすんだよ……そして、大きくなったら、素敵な王子様と、結婚して、そうすればレイチャミは、幸せで……』
私にレールを敷いてきた、お父様にも、誰にも支配されない、私は私のもの、それが本当の自由なんだよ。
『僕と、踊ってくれませんか』
あの時の、こいつは必ず俺のものになるって確信したかのような不敵な笑み。
そうやって生きてきたんだろお前は、女性はみんな俺のことが好きなんて勘違いしてるみたいだけど、私は違う。ざまあないね、そもそも自分が結婚相手を選ぶために国中の女を招待して舞踏会を開くって何様?
そんな奴に、私の自由を奪われてたまるかよ。
もう、追っ手は遠くなって来ている。
1番前にいる追っ手の馬車から声が聞こえる。
……アランの声だ。
「シンデレラ、最後にお願いがある、君が舞踏会で言いかけた、本当の名前を教えてくれー!」
息をすうっと吸った。
「レイチャミ! シンデレラはもう、いないから!」
ハハ、アランが悔しそうな顔をしてやがる。
あいつはずっと周りの人たちを思い通りにし続けて来たから、生まれてこの方こんな気持ちを味わうなんて思ってもいなかったんだろうな。
私はその逆。ずっとその逆を生きてきた。
でも、今は違う。
ウエディングドレスにしまっておいた婚約指輪。
このまま別の国に着いたら、まずはこれを換金して寝床を確保しよう。
誰にもコントロールされない、1人の生活。
困った時は、この馬車のみんながいる。
そして、魔法使いのお婆さんという最強の味方もいる。
仕事を探して。
怖くなんてないさ。
今まで雑用をたくさんこなしてきたんだから。
私はこれから生きていける。
継母のためでも、お父様のためでも、そして、王子様のためでもない。
私のため、そのためだけに、生きていける。
フフッ!
空が青い!
最高の気分だわ!
――
ガタゴトと、馬車に揺られる。
窓の外には、広大な砂漠が広がる。
どこまで来たんだろう。
動物たちと、魔法使いのお婆さんと、私の味方のみんなに囲まれながら。
窓から顔を出して、前を見ると、うっすら、街が見えてきた。
あそこに。
あそこに行けば、きっと私は、自由で……。
「……レイチャミ」
窓から顔をひっこめて振り返った。魔法使いのお婆さんは、希望に満ちた私を、キラキラした目で見つめていた。そして、こう告げた。
「自分で選んで手に入れた自由こそが、本当の自由だから」
お婆さんは、私に手を差し出すようにジェスチャーした。
そして杖を振ると、私の手の平の上に、ガラスの靴が出現した。
「私はただ、その手助けをしただけ。ガラスの靴だけ魔法が残っちゃうなんて、なんでも完璧にできちゃうこの私が、そんなドジするはずないんだから」
お婆さんはそう言って、フフッと笑った。
その目を、「ギュッ」と閉じながら。
私も、目を「ギュッ」と閉じて笑った。そしたら、なんでだろう、なんか私の目から、水がたくさんこぼれてきて、止まらなかった。




