第6話:森の牙と、痛みを操る新米冒険者
薄暗い森の入口に立つと、ドロルは思わず喉を鳴らした。
木々は高く、枝葉は空を覆い、昼間だというのに薄暗い。
風が吹けば、どこかで何かが動いたような音がする。
「……ここが、魔物の出る森か」
昨日までのドロルなら、絶対に足を踏み入れなかった場所だ。
だが今は違う。
《ペイン》という力がある。
痛みを操る力。
痛みを与え、痛みを奪い、痛みを力に変える。
そして――
冒険者として生きると決めた。
---
薬草探しの苦戦
受付の姉さんから渡された薬草の絵を見比べながら、
ドロルは森の中を慎重に歩いた。
「これじゃない……これでもない……」
葉の形、茎の色、根の太さ。
絵と少しでも違えば薬草ではない。
森の中には似たような植物が多く、
ドロルは何度もしゃがんでは首を振った。
「……難しいな」
森の奥から、鳥の鳴き声が聞こえる。
どこかで枝が折れる音もする。
薬草は見つからない。
焦りが胸に広がる。
「……まあ、焦っても仕方ないか」
そう呟いた瞬間――
ガサガサッ。
茂みが揺れた。
---
キラーラビットとの初戦闘
「……!」
ドロルは反射的に身構えた。
茂みから飛び出してきたのは――
白い毛並みのうさぎ。
だが、額には鋭い角が生えている。
目は赤く、獲物を狙う肉食獣のそれだ。
キラーラビット。
小型だが、初心者冒険者を殺すこともある危険な魔物。
「……来るか」
キラーラビットは低く身を伏せ、
次の瞬間、矢のような速さで飛びかかってきた。
ドロルは、静かに呟いた。
「脳溢血」
キラーラビットの動きが突然乱れた。
足がもつれ、地面に転がる。
「……今だ」
ドロルはナイフを構え、
倒れたキラーラビットの胸に突き刺した。
「ぐっ……!」
小さな悲鳴を上げ、魔物は動かなくなった。
ドロルはしばらくその場に立ち尽くした。
「……勝った、のか」
胸の奥が熱くなる。
初めて、自分の力で魔物を倒したのだ。
---
解体できない新米冒険者
だが――
「……どうすればいいんだ?」
キラーラビットの死体を前に、ドロルは困惑した。
解体の仕方が分からない。
皮を剥ぐのか?
肉を切るのか?
どこをどうすればいいのか、まったく知らない。
「……仕方ないな」
ドロルはキラーラビットの両耳を掴み、
ずるずると引きずりながら森を出た。
---
ギルド前の惨めな四人
冒険者ギルドに戻ると――
朝の四人が、地べたに座ったり、横になったりしていた。
剣士、槍士、弓士、斥候。
痛風とぎっくり腰と歯槽膿漏で地獄を見た男たちだ。
「……あ! お前は!」
剣士が叫ぶが、口の痛みで声が裏返る。
ドロルは首を傾げた。
「お前?」
「い、いや……あ、あなた……」
槍士が慌てて言い直す。
「何か用?」
ドロルは淡々と返す。
弓士が泣きそうな顔で懇願した。
「金……金は払う! 今これしかないが……必ず払うから……治してくれ……!」
斥候も震えながら言う。
「この痛みじゃ……飯も食えないし……仕事もできない……助けて……くれ……」
ドロルは、わざと聞き返した。
「くれ?」
「く、ください……!」
四人は地面に這いつくばりながら、
惨めで無様に頭を下げた。
ドロルは、手を差し出した。
「んー、仕方ないな。
金は後から全額もらうとして……
今ある分はもらっておく」
四人は震える手で金を差し出した。
ドロルはそれを受け取る。
「早く……治してくれ……!」
「じゃあ、取りあえず――
ぎっくり腰と痛風だけ治してやるか」
「だけ……?」
「薬草採取が全くできないんだわ」
ドロルは、ずるずると引きずっていたキラーラビットを見せた。
「それから……これ、どうすればいい?」
弓士が答える。
「か、解体するか……そのまま受付に……出せば……」
「ふむふむ」
ドロルは頷いた。
「じゃあ、受付に行ってくるよ」
そう言って歩き出す。
「「「「な、治してください!!」」」」
四人が必死に叫ぶが、
歯槽膿漏で口が開かず、
ぎっくり腰で立ち上がれず、
痛風で歩けない。
「ん?」
ドロルは振り返った。
「じゃあ……仕事を教えてもらうか」
ニヤリと笑う。
四人の顔が絶望に染まった。




