第5話:ギルド前で牙を剥く者たち、痛みに跪く
冒険者ギルドの扉を押し開けた瞬間から、ドロルの背中には、ずっと視線が貼りついていた。
四人の男たち。
剣士、槍士、弓士、斥候。
服装と武器で一目で分かる。
彼らは、ギルドの壁際に立ちながら、
ドロルが受付に向かい、登録を済ませ、
そして扉を出ていくまで――
まるで獲物を観察する獣のように、じっと見つめていた。
◇
ギルドを出た瞬間、
ドロルの前に四人が立ち塞がった。
「おい、そこのヒョロガリ」
剣士がニヤニヤしながら近づく。
「そんな身体で冒険者なんかできねえぞ?」
槍士が肩をすくめる。
「飯も食えてねえんだろ。顔色悪ぃしよ」
弓士が鼻で笑う。
「俺たちが冒険者の仕事を教えてやるよ。なぁ?」
斥候がドロルの肩に手を置いた。
「まずは――金を出しな。金貨5枚!出せるだろ」
四人は、完全にドロルを“雑魚”だと思っていた。
昨日までのドロルなら、金貨5枚なんて大金は持ってないが、震えながら有り金全てを差し出していただろう。
だが――今は違う。
ドロルは、肩に置かれた手を見下ろし、
ゆっくりと口を開いた。
「痛風」
「ツーフー? 何を言って――うっ……!」
剣士の顔が歪む。
次の瞬間、膝をつき、地面に手をついた。
「いっ……いでぇ……! 足の指が……燃える……!」
ドロルは、淡々と説明を始めた。
「痛風ってのはな。
尿酸が結晶になって、関節に刺さるんだ。
特に足の親指。
触れるだけで悲鳴が出るほど痛い」
ドロルが剣士の足指を踏む。
「うがっ!」
剣士は、地面に転がりながら叫んだ。
「な、なんだこれ……! 歩けねぇ……!」
槍士が慌ててドロルに詰め寄る。
「てめぇ! アガルドに何しやがった!」
目は泳ぎ、声は震えている。
脅すつもりが、恐怖で声が裏返っていた。
ドロルは、口元だけで笑った。
「確かに……飯は食えてなかったよ」
弓士が怒鳴る。
「いいからアガルドを戻せ!」
ドロルは、ゆっくりと彼らを見渡した。
「食いたくても食えなかったんだよ」
斥候がナイフを抜いた。
「てめえ! ふざけ――」
「ぎっくり腰」
「あうっ!」
斥候はその場で固まり、腰を押さえて前屈みになった。
槍士と弓士も、突然腰に激痛が走り、立ち竦む。
「ぎっくり腰ってのはな。
腰の筋肉が急に固まって、動けなくなる。
立つことも、歩くこともできない。
呼吸するだけで痛い」
弓士は冷や汗を流しながら叫んだ。
「な、なんだこいつは……! 呪いか……?」
槍士も震えながら言う。
「の、呪いだろ……これ……!」
ドロルは、ゆっくりと彼らに近づいた。
「飯が食えない気持ちになったほうがいいな」
そして――
「歯槽膿漏」
「うがっ!」
三人は同時に口を押さえた。
歯茎が腫れ、ズキズキとした痛みが走る。
噛むどころか、口を開けるだけで激痛が走る。
ドロルは、淡々と説明した。
「歯槽膿漏はな。
歯茎が炎症を起こして、歯がぐらぐらになる。
噛むと痛い。
食べ物を口に入れるだけで苦痛だ」
弓士は涙目で叫んだ。
「まっ……待ってくれ……! なんとか……なんとかしてくれ……!」
槍士も震えながら懇願する。
「謝る……謝るから……この痛みを……!」
剣士は地面に這いつくばりながら、
声にならない声で訴えた。
「たす……け……て……くれ……」
ドロルは、背を向けて歩き出した。
「一生噛めないぞ」
男たちの顔が絶望に染まる。
「治してほしければ――、一人金貨五枚だ」
振り返らず、ギルドの門へ向かって歩く。
「まっ……待ってくれええええ……!」
「痛い……痛い……!」
「歩けねぇ……腰が……!」
「口が……開かねぇ……!」
四人は、
ぎっくり腰で立ち上がれず、
歯槽膿漏で叫ぶこともできず、
痛風で歩くこともできず――
地面に転がりながら、
惨めで無様に、
ドロルの背中を見送るしかなかった。
ドロルは、静かに笑った。
「……冒険者ってのは、痛みを知ってるほうが強いんだよ」
その背中は、昨日までの弱者ではなかった。




