第26話 森の断罪Ⅱ──五倍の痛みと崩れ落ちる権威
森の空気は、焚き火の明かりに照らされながらも張り詰めていた。
武装した兵士たちが野営地を取り囲み、リーダーの男は下卑た笑みを浮かべていた。
「ガキが剣なんか握ってんじゃねぇよ」
リーダーはドロルを指差し、鼻で笑った。
「聖獣使い? 笑わせんな。
お前みたいなヒョロいガキが、俺たち兵士様に勝てると思ってんのか?」
兵士たちも下品な笑い声を上げる。
「腰抜けじゃねぇか!」
「剣もろくに振れねぇだろ!」
「聖獣の威を借りるだけの雑魚だな!」
シルクは怒りで震えながらも、ドロルの前に立とうとした。
サリーも唇を噛みしめ、杖を握りしめている。
しかし──
ドロルは平然としていた。
「……とても真っ当な兵士には見えないな」
その静かな言葉に、兵士たちは一瞬だけ眉をひそめた。
だがすぐに、リーダーが怒鳴り声を上げる。
「やれ! ガキから殺せ!」
兵士たちが一斉に突進してくる。
剣が光り、鎧が軋む音が森に響いた。
ドロルは静かに息を吸った。
「食中毒……ボツリヌス菌。
──痛みは二倍だ」
「ペイン」
兵士たちの身体が一斉に硬直した。
「ぐっ……!? な、なんだ……!」
「体が……動かねぇ……!」
「息が……でき……っ……!」
ドロルは淡々と説明した。
「ボツリヌス菌はね、神経を麻痺させる。
呼吸が苦しくなり、筋肉が動かなくなる。
視界がぼやけて、立つこともできなくなる」
兵士たちは次々と地面に倒れ、痙攣しながら苦しみ始めた。
「ひっ……ひぃ……!」
「助け……助けてくれ……!」
「息が……息が……!」
その惨めで無様な姿に、シルクとサリーは息を呑んだ。
商人と御者は恐怖で震え、窮奇は冷たい目で兵士たちを見下ろしている。
リーダーは腰を抜かし、尻もちをついた。
「な……なんだよこれ……!
魔法か!? 呪いか!?
やめろ……やめてくれ……!」
涙と鼻水を垂らしながら、必死に命乞いを始める。
「た、助けてくれ……!
俺は悪くねぇ……!
命令されただけなんだ……!」
ドロルはゆっくりと歩み寄った。
新しい剣を腰に差したまま、静かにリーダーを見下ろす。
「……あんたは許せないね」
リーダーは震えながら首を振った。
「ち、違う……違うんだ……!
俺は……俺は……!」
ドロルは静かに言った。
「出産!⋯⋯五倍だ」
「ペイン」
リーダーの身体が跳ね上がった。
「ぎゃああああああああああああああああ!!」
森に響き渡る絶叫。
兵士たちが恐怖で後ずさり、シルクとサリーは震えながら見守る。
ドロルは淡々と説明した。
「出産の痛みはね、骨盤が広がり、筋肉が裂けるほどの痛みだ。人によっては気絶するほど強い。
……元々出産の痛みは知らないけど、痛みは五倍だからね。想像もできないよ」
リーダーは地面に転がり、股関節を押さえて、足を開きながら、のたうち回った。
「やめ……やめてくれ……!
死ぬ……死ぬぅ……!
助け……助けて……!」
涙、涎、鼻水、汗。
すべてが混ざり、地面に広がっていく。
兵士たちは痛みで震え、誰も近づけない。
商人は荷物を抱きしめ、御者は膝をついて震えている。
シルクは震えながらも、ドロルの背中を見つめた。
サリーは涙をこぼしながら、必死に息を整えている。
窮奇は不敵な笑みを浮かべ、翼をゆっくりと広げた。
「主殿。
この者たちは、己の悪行が跳ね返っただけだ。
儂は主殿の判断を支持する」
森の空気は、静かに震えていた。
五十の影は崩れ落ち、権威は粉々に砕け散った。
そして──
夜はまだ終わらない。




