第25話 森の断罪──五十の影と聖獣の咆哮
縛られた冒険者たちは、地面に転がったまま震えていた。
熱中症の症状で意識が朦朧とし、アンドレは半身が痺れたまま涎を垂らしている。
焚き火の明かりが彼らの惨めな姿を照らし、森の静寂がその無様さを際立たせていた。
窮奇はゆっくりと彼らへ歩み寄った。
巨大な影が地面に伸び、冒険者たちは恐怖で身体を縮める。
「ひっ……ひぃ……!」
「た、助け……助けてくれ……!」
「俺たちは……命令されただけなんだ……!」
縛られた男たちは涙と鼻水を垂らしながら、必死に命乞いを始めた。
「隣の領主の……命令だ……!
息子の薬を奪えって……!
俺たちは逆らえなかったんだ……!」
声は震え、言葉は途切れ途切れ。
その惨めさは、まさに自業自得の末路だった。
シルクは固唾を飲み、サリーは胸元を握りしめて震えている。
二人とも、怒りと恐怖と嫌悪が入り混じった表情だった。
窮奇は冷たい目で彼らを見下ろした。
「主殿の力を見た者は、生かしておけば害となる」
その声は低く、森の空気を震わせた。
次の瞬間──
窮奇は一歩踏み込み、縛られた冒険者たちを次々と叩き潰した。
骨が砕ける音。
地面に叩きつけられる肉の音。
悲鳴は一瞬で途切れ、森は再び静寂に包まれた。
シルクは震えながら目を閉じた。
サリーは唇を噛み、涙をこぼした。
しかし、誰も窮奇を止めなかった。
彼らが犯した悪行が跳ね返り、惨めで無様な最期を迎えたことに、
どこか“納得”があったからだ。
窮奇は血のついた爪を振り払い、静かに言った。
「残るは、裏切り者だ」
アンドレの周囲に、ドロル、シルク、サリーが立った。
アンドレは半身麻痺で動けず、涙と涎を垂らしながら必死に言葉を絞り出す。
「ち、違う……!
俺は……脅されて……!
仲間を守るために……仕方なく……!」
嘘だった。
声の震え方、目の泳ぎ方、言葉の選び方──
すべてが嘘を示していた。
シルクは鋭い目でアンドレを睨んだ。
「嘘よ。あなた、私たちを売ったのね。
商人さんを殺そうとした時の顔……忘れないわ」
アンドレは必死に首を振った。
「ち、違う……違うんだ……!
俺は……俺は……!」
その時だった。
森の奥から、重い足音が響いた。
ガサッ……ガサッ……
焚き火の明かりが揺れ、影が増えていく。
やがて──
野営地の入口に、武装した兵士たちが姿を現した。
先頭に立つ男は、鎧を着込み、傲慢な笑みを浮かべていた。
その後ろには、数十人の兵士が整列している。
「くくく、ここは包囲している。逃げられないぞ商人ども」
リーダーの男は、鼻で笑いながら近づいてきた。
その態度は横柄で粗暴、弱者を見下す者の典型だった。
「こんな森の中でコソコソと……
知られていないと思っていたか。その男から情報は常に得ていたからなぁ。お前らの行動は筒抜けさ。ああ、その男はもう用無しだ。好きにするがいい」
「ひ、ひぃ。約束が違うぞ」
怯えるアンドレ。
商人は震えながら後ずさった。
御者の男も膝を震わせ、声にならない声を漏らしている。
シルクは震えながらも前に出た。
「薬を奪う気なのね……!
領主の息子さんが死んでもいいの!?」
リーダーは下品な笑いを浮かべた。
「はっ、あんなガキの命なんざどうでもいいんだよ。
俺たちが欲しいのは“力”だ。
迷宮都市を手に入れる第一歩だ」
サリーは怒りで顔を真っ赤にした。
「最低……!」
リーダーはサリーを見て、舌なめずりした。
「おいおい、女までいるのか。
薬の代わりに、楽しませてもらうのも悪くねぇな」
シルクが震えながら叫んだ。
「ふざけないで!」
兵士たちは下卑た笑いを漏らしながら、ゆっくりと包囲を狭めてくる。
兵士のリーダーはドロルを見て、侮蔑の笑みを浮かべた。
「なんだそのヒョロいガキは。
聖獣使い? 笑わせんなよ。
お前みたいな貧弱な奴が、俺たちに勝てると思ってんのか?」
兵士たちも笑い声を上げる。
「ガキじゃねぇか!」
「剣もろくに握れねぇだろ!」
「聖獣の威を借りるだけの腰抜けだな!」
シルクとサリーは怒りで震えながらも、ドロルの前に立とうとした。
しかし──
ドロルは平然としていた。
窮奇は不敵な笑みを浮かべ、翼をゆっくりと広げた。
森の空気が、静かに震え始めた。




