第24話 森の静寂──聖獣の裁きと極秘の荷物
縄で縛られた六人の冒険者たちは、地面に転がったまま呻き声を漏らしていた。
熱中症の症状で意識が朦朧とし、アンドレは半身が痺れたまま動けない。
その惨めな姿を見ながら、ドロルは深く息を吐いた。
「……ふぅ」
シルクとサリーも肩で息をしながら、縛られた男たちを睨みつけている。
商人は呆然と立ち尽くし、御者の男は震えながら焚き火に手を伸ばしていた。
「ドロルさん……助かったわ……」
シルクが胸に手を当て、震える声で言う。
サリーも涙目で頷いた。
「ほんと……死ぬかと思った……」
ドロルは首を振った。
「窮奇が戻る前で良かった。あいつら、窮奇がいたらもっと酷いことになってた」
その時──
夜空から、巨大な影が降りてきた。
「主殿」
窮奇が戻ってきたのだ。
翼を畳み、静かに着地したかと思えば──
次の瞬間、窮奇は縛られた冒険者の一人の上へ飛び降りた。
「──ッ!」
鈍い音が響き、男の頭が地面に押し潰された。
血が飛び散り、周囲が凍りつく。
シルクが息を呑んだ。
「窮奇……!」
サリーは震えながら口元を押さえた。
「な、なんで……」
窮奇は冷たい目で死体を見下ろし、低く言った。
「主殿のスキルを見た者は、生かしておけば周りに広まる。
儂は主殿の力を守るために動く」
ドロルは眉を寄せた。
「……殺す必要はなかった」
「必要だ」
窮奇は断言した。
「主殿の力は、強すぎる。
悪意ある者に知られれば、狙われる。
儂は主殿を守るためなら、迷いはせぬ」
その言葉に、シルクとサリーは息を呑んだ。
窮奇の忠誠は絶対であり、同時に恐ろしくもあった。
窮奇は死体の腰に差してある剣を引き抜いた。
血が滴り落ちる。
「この剣が一番質が良い。主殿、使え」
ドロルは剣を受け取り、重さを確かめた。
今までの粗悪なショートソードとは比べ物にならない。
「……ありがとう。助かる」
窮奇は満足そうに鼻を鳴らした。
「主殿、ここは既に囲まれている。
森の外周に、五十人ほどの気配がある」
シルクが青ざめた。
「五十……!? 盗賊にしては多すぎるわ!」
サリーも震えながら言う。
「なんでこんな人数が……」
窮奇は森の奥を睨んだ。
「奴らは盗賊ではない。組織された集団だ」
ドロルは商人に視線を向けた。
「……商人さん。
あなたが運んでいる物は何ですか?
三日後に必ず街に届けなければいけない物って……何?」
シルクも鋭い目で商人を見た。
「ここまでの人数で襲われる理由を説明して」
商人は震えながら口を開いた。
「……街には、領主の息子様がいます。
急な病で倒れ、瀕死の状態で……移動もできないほどです」
シルクとサリーは息を呑んだ。
商人は続けた。
「昨日、迷宮から冒険者が“治療薬の材料”を持ち帰りました。
領主様は急ぎ薬を作り……私に託したのです。
この薬を届ければ……息子様は助かる」
御者の男も震える声で言った。
「この話は極秘です。
知られれば、領主の息子様を狙われる……
だから、信頼できる商人である私に託されたのです」
ドロルは静かに頷いた。
「……なるほど。
だから狙われたんですね」
シルクは拳を握りしめた。
「でも……五十人って……多すぎるわ!」
サリーも叫ぶ。
「領主の息子を殺して、政治を動かそうとしてるの!?
そんなの……許せない!」
窮奇は低く唸った。
「主殿。奴らは動く気配を見せていない。
恐らく、夜明けを待っている。
このままでは、包囲されたまま朝を迎える」
ドロルは剣を握りしめた。
新しい剣の重さが、状況の重さと重なった。
「……どうするか、考えないと」
シルクとサリーは不安げにドロルを見る。
商人は震えながら荷物を抱きしめている。
五十人の包囲。
極秘の治療薬。
裏切り者のアンドレ。
そして、窮奇の冷徹な判断。
森の静寂は、嵐の前の静けさだった。




