第21話 ギルドの判断──下劣な男の自業自得と、渋々の決断
ドロルは商人へ護衛依頼のキャンセルを告げた足で、そのまま冒険者ギルドへ戻った。
窮奇の足音が石畳に響き、ギルド前の冒険者たちが自然と道を開ける。
聖獣の威圧感は、ただ歩くだけで周囲の空気を変える。
受付に着くと、先ほど依頼を紹介してくれた受付嬢が顔を上げた。
「ドロル様……どうされました?」
ドロルは丁寧に頭を下げた。
「すみません。護衛依頼を……辞退します。理由を説明させてください」
受付嬢は真剣な表情で頷き、カウンター越しに身を乗り出した。
「何かトラブルがあったのですね?」
ドロルは淡々と話した。
「はい。待ち合わせ場所で、Bランク冒険者のタルトという男から暴言を受けました。
共同で護衛をするには、あまりにも問題があると判断しました」
受付嬢の眉がピクリと跳ねた。
「……タルト、ですか」
その声には明らかな怒気が混じっていた。
「ドロル様はギルド一押しの冒険者です。
聖獣使いで、迷宮都市に長くいていただきたい方。
ギルマスからもバックアップ体制をひくよう厳命されています」
受付嬢は書類を取り出し、ペンを走らせながら続けた。
「日頃のタルトの言動も鑑みれば……ドロル様のクレームは本当のことだと確信できます。
すぐにギルマスへ報告書を上げます」
その時──
ギルドの扉が勢いよく開いた。
「すみません、受付嬢さん……!」
シルクが駆け込んできた。
その後ろには、パーティ『栄光の誓い』の二人、そして護衛依頼をした商人が続いている。
受付嬢は冷たい視線を向けた。
「……『栄光の誓い』の皆さん。
今回の件、後ほどペナルティが発生しますので覚悟しておいてくださいね」
シルクは肩を震わせ、深く頭を下げた。
「本当に……申し訳ありません……」
後ろの二人も悄気た様子で頭を下げる。
タルトの暴言が、パーティ全体の信用を落としているのは明らかだった。
受付嬢は商人にも事情を確認した。
「商人様、今回の護衛依頼について、何か追加の情報はありますか?」
商人は疲れた顔で答えた。
「……『栄光の誓い』も護衛依頼を辞退すると言い出しました。
前衛のタルトが急性食中毒で護衛できる状態じゃなくなったんです。
本日出発しなければいけないのに、土壇場でキャンセルされて……大迷惑です」
受付嬢は深くため息をついた。
「タルト……本当に最低ですね」
その言葉に、シルクはさらに肩を落とした。
「……申し訳ありません。
ですが、ひとつ提案があります」
シルクはドロルの前に立ち、真剣な目で見つめた。
「前衛のタルトの代わりに、ドロルさんに入っていただければ……
私たち三人で護衛依頼を受けられます。
どうか……どうか、依頼を受けていただけませんか?」
受付嬢も期待の目でドロルを見る。
「ドロル様……商人様も困っていますし……」
しかしドロルは迷っていた。
──『栄光の誓い』の信頼はゼロ。
──タルトの暴言は許しがたい。
──共同護衛はリスクが大きい。
シルクは必死に続けた。
「私たちはドロルさんに何も強制しません!
戦いの時だけ手伝っていただければ、後は私たち三人でできます。
護衛のノウハウも教えますし……報酬も半分はドロルさんに渡します!」
後ろの二人も頭を下げた。
「お願いします……」
「タルトのせいで全部が台無しなんです……」
窮奇が静かに口を開いた。
「主殿。儂がいれば何も問題はない」
その低い声は、ドロルの迷いを少しだけ溶かした。
受付嬢は商人の方を見て、申し訳なさそうに眉を寄せている。
商人も困り果てた表情でドロルを見つめていた。
──困っている人を見捨てるのは、気が引ける。
ドロルは静かに息を吐いた。
「……分かりました。
護衛依頼、受けます」
シルクは涙が出そうなほど安堵した。
「ありがとうございます……! 本当に……!」
受付嬢も胸を撫で下ろした。
「ドロル様……助かります」
窮奇は満足そうに鼻を鳴らした。
「主殿の判断は正しい」
こうして、ドロルは渋々ながら護衛依頼を受けることになった。
──タルトのざまぁはまだ終わらない。
──そして、ドロルの慎重な判断が、またひとつ迷宮都市を動かす。




