第22話 森道の静寂──聖獣が並走する護衛旅
森の中を、馬車がゆっくりと進んでいた。
迷宮都市ギエラから森を抜けた先にある街へ向かう道──そこは、広く整備された馬車道が続いている。
木々の間から差し込む光が揺れ、馬車の屋根を柔らかく照らす。
鳥の声、風の音、そして馬の蹄のリズム。
そのすべてが、旅の静けさを形作っていた。
御者が手綱を軽く引きながら言った。
「今日は随分と静かですねぇ……魔獣の影も見えませんよ」
商人が頷き、荷物の上に腰を下ろした。
「本来ならゴブリンやオークが出てもおかしくない道なんだが……
聖獣窮奇様が同行しているからだろうな」
馬車の横を、窮奇が並走していた。
翼を軽く畳み、静かに森の空気を嗅ぎながら歩く姿は、まるで森の王者のようだった。
「うむ。儂がいる限り、魔獣は近づかぬ」
窮奇は低い声で言い、鼻を鳴らした。
馬車の中には、ドロル、シルク、サリー、そして商人が乗っている。
もう一人の冒険者アンドレは馬に乗り、馬車より少し先を警戒しながら進んでいた。
サリーが窓から森を眺めながら、楽しげに言った。
「しかしここまで魔獣が出ないと、街道より楽で良いねぇ」
シルクも笑みを浮かべる。
「窮奇様のおかげね。こんなに安全な森道、初めてだわ」
ドロルは窮奇の背中を見ながら、少し照れくさそうに肩をすくめた。
「窮奇がいると、本当に魔獣が出ないんだな……」
窮奇は誇らしげに胸を張った。
「当然だ。儂は聖獣だぞ」
馬車は順調に進み、森の奥へと入っていく。
その静けさの中で、シルクがふとドロルの腰に視線を向けた。
「ところで……気になってることがあるんだけど、聞いていい?」
ドロルは首を傾げた。
「え? 何だろう」
シルクはドロルの腰に差してあるショートソードを指差した。
「その剣……どう見ても粗悪品よね?
大量生産の数打ち品で、しかもボロボロ。
とてもCランク冒険者が持つ武器じゃないわ」
ドロルは苦笑した。
「これは……冒険者になる前に、スラムの不良から奪ったやつで……
必要に感じなかったから、そのまま使ってるんだ」
サリーが目を丸くした。
「えっ!? 前衛でお願いしたけど、実は後衛だったりする?」
ドロルは困ったように頭を掻いた。
「どっちだろ……自分でもよく分かってない」
サリーはさらに驚いた顔で続ける。
「キラーベアを倒してるんだよね?」
ドロルは即座に首を振った。
「いや、倒したのは窮奇だよ」
シルクとサリーは同時に固まった。
「えっ……?」
ドロルは淡々と続けた。
「最近までEランクで、ついこの間Cランクになったばかりなんだ。
冒険者になったのも最近で……」
サリーは口をぱくぱくさせながら言った。
「え? ドロルさんってそんなに強くないのかぁ……
じゃあ、お姉さんが守ってあげるわよ」
窮奇がすぐに反論した。
「いや、主は強いぞ。儂を力でねじ伏せて眷属にしているからな」
サリーは叫んだ。
「ええええええ! 聖獣より強いのおおおお!?」
ドロルは慌てて手を振った。
「いやいや、たまたまで……」
窮奇は真顔で言った。
「たまたまで儂は殺されそうになったぞ」
「……煩い! 黙れ!」
ドロルが怒鳴ると、窮奇は背筋を伸ばした。
「はい! 黙ります」
馬車の中に笑いが広がった。
シルクもサリーも、緊張が解けたように肩を揺らして笑っている。
ドロルは窓の外を見ながら、心の中で静かに呟いた。
(……武器も手に入れなきゃ)
森の静けさの中で、馬車はゆっくりと進んでいく。
聖獣が並走する護衛旅は、思いのほか穏やかで──
しかし確実に、次の展開へと向かっていた。




