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【痛みの帝王】 〜65歳で全ての激痛を経験した男、異世界で“痛みを操る”チートを得て成り上がる〜  作者: ボルトコボルト


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第20話 護衛依頼の崩壊──聖獣の前で膝をつく下劣な男

 商人は振り返り、驚いた顔でドロルを見た。

 荷馬車の横で護衛の段取りを確認していたらしく、書類を手にしたまま固まっている。


「えっ……キャンセル、ですか?」


 ドロルは静かに頷いた。

 その表情は怒りではなく、冷静な判断をした者の落ち着きがあった。


「はい。来た早々に暴言を吐かれました。

 とても三日間、チームワークで共同護衛ができるとは思えません。

 商人さんに迷惑がかかる前に辞退した方が、リスクがないと判断しました」


 商人は困惑し、視線を横にそらした。

 そこには、先ほど暴言を吐いたBランク冒険者──タルトが立っている。

 腕を組み、ふてぶてしい顔でこちらを睨んでいた。


「おい小僧! 勝手に辞めんなよ!」

 タルトは怒鳴りながら一歩踏み出した。


 しかし、その前に窮奇が静かに立ち塞がる。

 巨大な影がタルトの前に落ち、空気が一瞬で張り詰めた。


「主殿に近づくな」


 低く、地を震わせるような声。

 タルトは反射的に後ずさりし、足がもつれて地面を踏みしめた。


「な、なんだよ……従魔のくせに出しゃばるんじゃねぇ……!」


 声は震えていたが、虚勢だけは保とうとしている。

 その姿が余計に滑稽だった。


 その時──

 商人と話していた女性が慌てて駆け寄ってきた。


「待ってください!」


 長い金髪を揺らしながら、真剣な表情でドロルの前に立つ。

 Bランクパーティのリーダーらしく、落ち着いた雰囲気がある。


「私はシルク。Bランクパーティ『栄光の誓い』のリーダーです」


 ドロルは軽く会釈した。

「ドロルです」


 シルクは深く頭を下げた。


「本当に申し訳ありません。タルトの暴言は、私たちのパーティの恥です。

 どうか、護衛依頼をキャンセルしないでいただけませんか?」


 タルトは不満げに舌打ちした。


「おいシルク! なんでこいつに頭下げてんだよ!」


「黙りなさい、タルト!」

 シルクは鋭い声で叱りつけた。


 タルトはビクッと肩を震わせたが、すぐに不満げに顔を背けた。


 シルクは再びドロルに向き直り、必死に訴える。


「私たちはCランクで長く苦労して、やっと先日Bランクに昇格したばかりなんです。

 これからという時に、こんな汚点を残したくありません。

 聖獣と一緒に依頼を受けられるなんて、滅多にあることではないんです。

 どうか……考え直していただけませんか?」


 その言葉には嘘がなかった。

 シルクは本気で困っている。

 タルトの暴言が、パーティ全体の信用を落とすことを恐れているのだ。


 しかし──ドロルは静かに首を振った。


「……あなた方の事情について、暴言を吐かれた俺には全く関係ありません。

 しっかりギルドにクレームは上げます」


 シルクは息を呑んだ。

 その表情は絶望に近い。


「そ、そんな……」


 ドロルは淡々と続けた。


「護衛は共同作業です。

 その最初の段階で、あれほどの暴言を吐く人間がいるなら、三日間の護衛は成立しません。

 商人さんに迷惑がかかる前に辞退するのが最善です」


 シルクは唇を噛み、肩を震わせた。

 タルトは横でふてぶてしく腕を組んでいる。


「おい小僧……そんなに偉そうに言いやがって……」


 窮奇が一歩前に出ると、タルトは黙った。

 その顔は青ざめ、汗が額を流れている。


 ドロルは窮奇に声をかけた。


「窮奇、ギルドに戻るぞ」


「うむ」


 去り際、ドロルは商人に向き直った。


「タルトという男は、食中毒で護衛の使い物になりませんよ。

 別のパーティを雇い直すことをお勧めします」


 商人は目を丸くした。


「え? ショクチュードク?」


 シルクも驚いて声を上げた。


「食中毒……?」


 ドロルは振り返らず、淡々と説明した。


「腹痛、嘔吐、下痢、発熱。

 歩くこともままならず、護衛どころではありません」


 その瞬間──


「ぐおっ!!」


 タルトが腹を押さえ、膝をついた。

 顔は真っ青になり、口から涎を垂らしながら苦しんでいる。


「な、なんだこれ……! 腹が……腹があああああっ!」


 周囲の冒険者たちがざわついた。


「おい、どうしたんだあいつ!」

「急に倒れたぞ!」

「まさか、本当に食中毒……?」


 シルクは慌てて駆け寄った。


「タルト!? しっかりして!」


 しかしタルトは地面に転がり、涙と鼻水を垂らしながら叫んでいる。


「うぐっ……! 腹が……! 助け……助けてくれぇ……!」


 その惨めな姿に、周囲の視線は冷たかった。


「自業自得だな」

「あれだけ偉そうにしてたのに……」

「聖獣の前で調子に乗るからだよ」


 ドロルは振り返らず、窮奇と共にギルドへ向かって歩き出した。

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