第18話 川辺の工房と小人たち──聖獣の馬具は革の鎧
窮奇の背に乗り、革職人の村へ向かう。
迷宮都市ギエラを離れると、景色は一気に穏やかになり、どこにでもあるような田園風景が広がった。
畑、家畜、木造の家々──この世界ではごく普通の村だ。
「……静かだな」
ドロルは風を受けながら呟いた。
窮奇は翼をゆっくりと動かしながら、低く唸った。
「主殿、こういう場所は嫌いではない。儂の羽ばたきがよく響く」
村の上空に差し掛かると、村人たちが驚いたように空を見上げた。
聖獣が飛んでいるのだから当然だ。
村の広場に降り立つと、村人が恐る恐る近づいてきた。
「し、聖獣様……? ど、どういったご用件で……?」
ドロルは丁寧に頭を下げた。
「革職人の工房を探しています。川の近くにあると聞きました」
村人はすぐに案内してくれた。
「川沿いをまっすぐ行けば、小人族の工房があります。腕は確かですよ」
川のせせらぎが聞こえる道を進むと、木造の大きな作業場が見えてきた。
その周囲には、小さな影がわらわらと動き回っている。
「……あれが、小人族か」
ドロルは目を細めた。
窮奇は鼻を鳴らし、少し不満げに言った。
「儂の寸法を測るのは面倒だろうな。あやつら、騒がしいぞ」
作業場に近づくと──
まるでシンデレラの七人の小人のように、彼らは騒がしく働いていた。
「おい、そっちの革は乾燥が足りてねぇぞ!」
「針はどこいった!? 誰か持ってっただろ!」
「竜革の在庫、あと三枚しかねぇって言ってんだろ!」
ドロルが声をかけると、小人たちは一斉に振り向き、目を丸くした。
「せ、聖獣!? 本物の聖獣だ!」
「おいおい、どういう客だよこれは!」
「ローラ様の紹介状持ってるのか!?」
ドロルは紹介状を差し出した。
「ローラさんと、道具屋の婆さんから紹介されました」
小人たちは紹介状を覗き込み、次の瞬間──
「ローラ様の紹介状はたまにあるが……」
「婆さんの紹介状!? あの気難しい婆さんが紹介するなんて驚きだ!」
「こりゃ腕によりをかけないと婆さんに何を言われるか分かんないな!」
作業場が一気に騒がしくなった。
窮奇は不満げに翼を揺らした。
「儂は馬じゃないぞ。丁寧に扱え」
小人たちは慌てて頭を下げた。
「も、もちろんです! 聖獣様の馬具なんて初めてですよ!」
「馬具じゃないぞ」
窮奇が低く唸ると、小人たちはさらに慌てた。
「す、すみません! 聖獣様専用の装備です!」
ドロルは苦笑しながら窮奇の背を軽く叩いた。
「まあまあ、窮奇。頼むから協力してくれ」
「……主殿が言うなら仕方ない」
窮奇は渋々といった様子で姿勢を整えた。
小人たちは窮奇の周りを走り回り、寸法を測り始めた。
「翼の付け根は……うわ、でけぇ!」
「この胸板、竜革でも足りるか?」
「尻尾の付け根にも補強が必要だな!」
窮奇は少し恥ずかしそうに目を細めた。
「……儂は聖獣だ。あまり騒ぐな」
「す、すみません! でもすげぇ体格なんで興奮して……!」
寸法を測り終えると、小人の一人がサンプルを持ってきた。
「これが竜革で作った馬具のサンプルです。
馬具というより……革の鎧に近い防具ですね」
ドロルは目を見開いた。
「……すごい。これ、本当に馬具なのか?」
窮奇もサンプルをじっと見つめ、鼻を鳴らした。
「……悪くない。儂に似合うではないか」
小人たちは嬉しそうに笑った。
「聖獣様に気に入ってもらえるなんて光栄だ!」
ドロルはサンプルを手に取り、革の質感を確かめた。
竜革特有の硬さとしなやかさがあり、窮奇の体を守るには十分だ。
「……これなら、窮奇も安全だな」
窮奇は満足そうに頷いた。
「主殿、これを作らせるといい。儂も気に入った」
ドロルは小人たちに向き直った。
「お願いします。窮奇の装備を作ってください」
小人たちは一斉に胸を張った。
「任せてください! 婆さんの紹介状まであるんだ、手抜きはできません!」
そして──
あまりにも格好良いので、ドロルはついでに言ってしまった。
「……あの、俺の防具も……窮奇とお揃いで作れますか?」
小人たちは一瞬固まり、次の瞬間──
「お揃い!? 聖獣様とお揃い!? そんな注文初めてだ!」
「面白ぇ! やってやろうじゃねぇか!」
「竜革の在庫、全部出せ! 最高の防具を作るぞ!」
作業場はさらに騒がしくなり、
窮奇は少し照れたように翼を畳んだ。
「……主殿。儂とお揃いとは、悪くない選択だ」
ドロルは笑いながら頷いた。
「窮奇と一緒に戦うんだ。お揃いの方がいいだろ?」
こうして、窮奇とドロルは小人たちに装備を注文し、
完成を待つことになった。




