第17話 薄汚れた店と聖獣使い──老婆の腰痛と竜騎士の装備
蒼鱗亭で一泊した翌朝。
ドロルと窮奇は、迷宮都市ならではの豪華な朝食をゆっくり味わった。
地底湖の白身魚のムニエル、魔力草のスープ、迷宮茸のオムレツ──どれも驚くほど旨く、身体の奥まで温まる。
「……こんな朝食、初めてだな」
ドロルは思わず頬を緩めた。
窮奇は大きな肉を噛みながら、満足そうに低く唸った。
「主殿、ここは良い宿だ。儂も気に入った」
「俺もだよ。ゆっくり眠れたし、食事も最高だ」
食事を終えた二人は、ローラから紹介された道具屋へ向かった。
しかし──宿の豪華さとは正反対の光景が広がっていた。
迷宮都市の裏通り。
石畳は欠け、壁は黒ずみ、通りには古い木箱が積まれている。
その一角に、紹介状に記された店があった。
「……ここ、だよな?」
ドロルは看板を見上げた。文字はかすれ、扉は軋み、窓には埃が積もっている。
窮奇は鼻を鳴らし、眉間に皺を寄せた。
「主殿……薄汚いぞ。儂の爪より汚れている」
「言うなよ……ローラさんの紹介なんだし、きっと理由があるんだろう」
恐る恐る扉を開けると、店内はさらに薄暗く、棚には古びた道具が雑然と並んでいた。
そして──奥の椅子に、不気味な老婆が座っていた。
背中は丸まり、白髪はぼさぼさ。
しかし、目だけは鋭く、こちらをじっと見つめている。
「……なんじゃい。客かい」
しゃがれた声が、湿ったような響きを伴って店内に広がった。
ドロルは紹介状を差し出し、丁寧に頭を下げた。
「冒険者ギルドのローラさんから紹介されました。マジックバッグを探していて……」
老婆は紹介状を受け取ると、目を細めて読み始めた。
「ふん……ローラの紹介か。なら、悪いようにはせんよ」
そう言いながら立ち上がろうとしたが──
「……っ、い、痛たた……腰が……」
老婆は腰を押さえ、苦しそうに顔を歪めた。
ドロルはすぐに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよ……この腰痛は長年の持病でね……。
マジックバッグを取りに行くのも一苦労なんじゃ……」
ドロルは少し考え、静かに言った。
「根本原因は治せませんが……痛みだけなら、軽くできます」
老婆は驚いたように目を見開いた。
「……そんなこと、できるのかい?」
「少しだけ、スキルで」
ドロルは老婆の腰に手を当て、ペインのスキルを発動した。
淡い光が広がり、老婆の身体がわずかに震える。
「……あ、あれ……? 痛くない……! 本当に痛くないよ!」
老婆は腰を曲げ伸ばししながら、涙を浮かべて喜んだ。
「なんてこった……こんなに楽なのは何十年ぶりだよ……!」
窮奇は低く唸り、満足そうに言った。
「主殿の力だ。感謝するがよい」
老婆はドロルの手を握りしめ、震える声で言った。
「……あんた、恩人だよ。マジックバッグ、格安で売るよ。ローラの紹介より安くするよ!」
奥から持ってきたマジックバッグは、見た目こそ地味だが、容量は大きく、魔力の消費も少ない上物だった。
「本当にいいんですか?」
ドロルが尋ねると、老婆は鼻を鳴らした。
「いいんだよ! あんたのおかげで腰が軽いんだ! こんな嬉しいことはないよ!」
老婆はさらに棚を漁り、別の箱を持ってきた。
「それと……風を防ぐゴーグルと防風衣が欲しいんだろ?
竜騎士が使ってたやつがあるよ。デザインも洗練されてて、性能も抜群だよ」
箱を開けると、黒い革と金属で作られた美しいゴーグルが現れた。
窮奇は目を細め、低く唸った。
「……悪くない。儂の飛行にも耐えられそうだ」
「これも格安で売るよ! 恩人だからね!」
さらに老婆は服と靴を取り出し、魔法付与を始めた。
「防風の魔法はどの防具にも付けられるよ。
この最高級の服に付けてあげる。
靴には衝撃吸収の魔法を付けておくよ。落下のリスクも減るからね」
魔法付与の光が部屋を照らし、窮奇は満足そうに鼻を鳴らした。
「主殿、これで飛行が楽になるぞ」
「本当に助かるよ……」
老婆は最後に、鞍と鐙の職人の紹介状を書いてくれた。
「鞍と鐙は扱ってないけど、腕の良い職人を紹介するよ。
ローラの紹介した職人と同じだね。
あの職人は都市から離れた村にいるんだ」
紹介状を受け取ったドロルは深く頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
老婆は手を振りながら笑った。
「礼なんていらないよ。腰痛を消してくれた恩人なんだからね!」
こうして、ドロルと窮奇は道具屋で必要な装備を整え、
次は革職人の村へ向かうことになる。




