第11話:森の王者、空を渡り街へ。混乱と恐怖と従魔の影
森の奥で従魔契約を結んだ直後。
ドロルは窮奇に命じた。
「キラーベアを狩って持って来い」
「承知しました、ドロル様」
白い翼を広げた窮奇は森の奥へ飛び去り、
ほどなくして――
巨大な影が空を覆った。
---
◆ キラーベアを咥えて戻る窮奇
「グルルル……持って参りました」
窮奇が戻ってきた。
その口には――
森の王者キラーベアの巨体。
ドロルは思わず目を見開いた。
「……デカいな。窮奇と変わらない大きさだ」
窮奇は誇らしげに胸を張った。
「当然です。森の王者を倒すなど、我にとっては造作もないこと」
その態度は自慢げで、どこか傲慢だった。
だが、従魔契約の光がまだ身体に残っているせいか、
ドロルの前では決して牙を剥かない。
---
◆ 血抜きの準備
ドロルはキラーベアの巨体を見ながら腕を組んだ。
「解体しても、冒険者ギルドまで持って行くのどうしよう」
窮奇は即座に言った。
「街まで運びますか、ドロル様」
「そうしてもらおうか。
だけど血抜きはしたほうが良いな」
ドロルは腰のナイフを抜いた。
キラーベアの首元に刃を入れると、
濃い血がどろりと溢れ出した。
「窮奇、ちょっと後ろ足を持って飛び上がってくれ」
「承知しました」
窮奇はキラーベアの後ろ足を咥え、
翼を広げて飛び上がった。
だが――
上空で旋回した瞬間、
キラーベアの血が風に乗って四方へ飛び散った。
「グルッ!? 血が……!」
窮奇はホバリングができず、
空中でふらつきながら必死に体勢を保とうとする。
ドロルはため息をついた。
「ホバリングできないのか……」
「す、すみません……!」
仕方なく、
近くの大木にキラーベアを引っ掛けて血抜きを行った。
---
◆ 窮奇、腹が減る
血抜きが終わる頃、窮奇がドロルを見た。
「……ドロル様。
少し……お腹が空きました」
その声は、従魔らしく控えめだったが、
どこか情けなさも滲んでいた。
ドロルは肩をすくめた。
「まあ、いいか。
少しくらいなら食っていいぞ」
「ありがとうございます!」
窮奇は嬉しそうに森へ飛び去った。
---
◆ 街へ向かう準備
しばらくして窮奇が戻ってきた。
腹が満たされたのか、翼の動きが軽い。
「戻りました、ドロル様」
「じゃあ、血抜きしたキラーベアを抱えて飛んでくれ。
俺は歩いてついていく」
窮奇はキラーベアを抱え、
空へ舞い上がった。
だが――
ドロルの歩く速度が遅すぎて、
窮奇は何度も振り返っては待つ羽目になった。
「……ドロル様、遅いです」
「俺は飛べないんだよ。
先に街の手前で待っててくれ」
「承知しました」
窮奇はキラーベアを抱えたまま、
街へ向かって飛び去った。
---
◆ 街の手前で起きた“事件”
街の手前で待ち合わせ――
そのはずだった。
しかし。
街の門の上で見張っていた冒険者が、
空から近づく巨大な影を見つけた。
「な……なんだあれは……!?」
白い翼を持つ虎。
その虎が――
森の王者キラーベアを抱えて飛んでくる。
冒険者は絶叫した。
「街に魔物が来たぞ!!
キラーベアを抱えてる!!
窮奇だ!!」
その叫びは街中に響き渡った。
---
◆ 街の大騒ぎ
● 住民の悲鳴
「虎だぁぁぁ!! 翼のある虎だぁ!!」
「キラーベアを抱えてる!? なんで!? なんで!?!?」
「街が滅ぶ!! 逃げろ!!」
住民は家から飛び出し、
子どもを抱えて走り、
荷物を放り出して逃げ惑った。
---
● 衛兵の混乱
衛兵たちは慌てて門を閉めた。
「閉門!! 閉門!!」
「弓を構えろ!!」
「いや、効かねぇだろ!!」
「どうすんだよ!!」
街は完全に警戒態勢に入った。
---
● 冒険者ギルドの大わらわ
ギルドでは、受付嬢が蒼白になり、
ギルドマスターが怒鳴り散らしていた。
「全冒険者を門前に集めろ!!」
「窮奇が街に来てるぞ!!」
「キラーベアを抱えてるってどういう状況だ!!」
冒険者たちは武器を構え、
門前で陣形を組んだ。
「来るぞ!!」
「戦闘準備!!」
「いや、勝てるわけねぇだろ!!」
「でもやるしかねぇ!!」
街は完全に戦闘態勢だった。
---
◆ そして――ドロルが歩いてくる
その騒動の中、森の奥から、
ゆっくりと歩いてくる影があった。
ドロルだった。
窮奇が街の手前で待っているはずが、
街はすでに大騒ぎになっていた。
ドロルは眉をひそめた。
「……なんだこの騒ぎ」
窮奇はキラーベアを抱えたまま、
門の前で困ったように立っていた。
「ドロル様……
街が……騒いでおります……」
その姿は、
かつて森の王者を喰らった聖獣ではなく――
ただのドロルの荷物持ちだった。




