第一話:胃痛公爵の、初めての「ハンバーガー」
深夜二時、カルバン公爵は『国家最高聖域』に守られたバーのドアをくぐった。
かつてはストレスで胃痛に苦しんでいた彼だったが、蓮れんのモヒートですっかり回復し、今夜はとても元気そうだった。
「マスター、今夜は少しお腹が空いてな。この国の硬い干し肉やパサパサのパンではない、何か美味い夜食はないか?」
蓮は静かに微笑み、カウンターの奥の鉄板に火を入れた。
「かしこまりました。お酒にも合う、現代の特別なサンドイッチをお作りします」
蓮が用意したのは、ジューシーなひき肉のパテ、濃厚なチーズ、そしてふんわりと焼いた丸いパン。
そう、現代の「チーズバーガー」だ。
じゅうじゅうと肉の焼ける極上の香りと、とろけるチーズの匂いが店内に広がり、公爵のお腹がグゥと鳴った。
蓮は、溢れる肉汁を包むための小さな紙袋を添えて、公爵の前に差し出した。
「『バー・フード・バーガー』でございます。手で持って、思い切りかぶりついてみてください」
「ほう、これを手づかみで……」
上品な貴族である公爵は一瞬戸惑ったが、意を決して大きな口でガブリと一口食べた。
その瞬間、公爵の目がカッと見開かれた。
「な、なんだこの美味さは……!?」
口の中に一気にあふれ出す、濃厚な肉汁の旨味。カリッと焼かれたパンの甘みと、チーズのコクが完璧に絡み合っている。この世界の「ただお腹を満たすためだけの固い食べ物」とは次元が違う、悪魔的な美味さだった。
「肉汁が……パンに染み込んで、手が止まらん! 礼儀など気にしていられるか!」
最高権力者であるはずの公爵が、口の周りをソースだらけにしながら、まるで子供のように夢中でハンバーガーを平らげてしまった。
「お気に召して光栄です。お肉の油をすっきりと流す、冷たい炭酸水レモンソーダをどうぞ」
公爵はソーダを一気に飲み干し、プハァと満足げに息を吐き出した。
「マスター、私はもう、王宮の豪華な宮廷料理には戻れんかもしれん。これからは毎週、この『はんばーがー』とやらを食べにくるぞ!」
国のトップである公爵が、現代のジャンクフードの美味さに完全に胃袋を掴まれてしまった、微笑ましい夜のひとときだった。




