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隻眼公爵と魔眼泥棒の花嫁  作者: 千山芽佳


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2通の手紙

 

 王城から王都の片隅にある子爵家の屋敷に、空間移動したリュシカ。

 空間移動は、闇の魔術師が得意とする魔術である。


 慣れ親しんだ実家に着くや、真っ直ぐと自室に向かってベッドへと倒れこんだ。


 ベッドの上には長くうねった黒髪が流れ、少しつり上がった目を両手で抑えると、小さな唇から息を吐き出した。


「疲れた……」


 両手がバフンと布団に落ちた。


「リュシカ? 帰ったのか?」


 ノックの音で起き上がる。父が声をかけてから部屋に入ってきた。


「休んでいたのか。そのままでいい」


 同じ闇の魔術師である父は、近くで娘の魔力を関知して、自身も王城から空間移動してきたという。


 父は王太子の政務官として仕えていた。


「魔眼狩りの嫌疑はすぐ晴れたと聞いたが、何か問題でもあったのか?」

「あー、魔術学校の同窓に呼び止められて、少し話をしていたの」


 本当は絡まれていたのだが、余計な心配はさせたくなかったので誤魔化した。


「それにしても、なぜ魔術師であるお前が疑われたんだ? 少し考えれば不可能と分かりそうなものを」

「私が呪術の研究を熱心にしていたからだって」

「闇の魔術師だからとそれだけの理由で拘束するとは……」


 父も杜撰な捜査に呆れていた。


 スペンシア家は代々闇の魔術師を排出していた。

 闇の魔術師は主に、空間魔術と呪いの魔術、秘薬の調合に長けているので、他の属性の魔術師よりも疑われる材料が揃っていた。


(我が家の近くが事件現場なのと、お父様が王太子の側近だからというのは敢えて言わないでおこう)


 怨恨も視野にいれての捜査中、スペンシア家の名前が出たことで、魔捜は安易な考えに傾いたのだろう。


 巷では王太子と公爵の後継争いが噂されており、王国の創設者であったウィザリーのように、最強の魔法術師である公爵を王にと望む者も少なくはない。


 王弟である公爵と王太子は比べられることもあるが、父の話を聞く限り、叔父と甥の関係は良好のようだ。


 外野があることないこと好き勝手に騒いでいるだけなのだが、スナーフのようなバカには見抜けないのだろう。


「そういえば、さっき呪術の研究と言ったか?」


 父が目敏く気づき、リュシカは笑顔を張り付けたまま固まった。


「……何の呪術だ?」

「あ! お父様、お仕事の途中で抜け出して来たんだからそろそろ戻らないと。王太子殿下には私が大変感謝をしていたとお伝えください」

「お前にまで苦労をかけて……」


 リュシカの誤魔化しは父には通用せず、何かを察したのか目頭を押さえていた。


「もー法律と倫理に反したことはしてないって。それに今は侯爵家の侍女になれたし、呪術の依頼は受けてないから」


 侯爵家の名前が出ると、父は視線を泳がせて、気まずそうな空気を纏った。


「その事なんだが、悪い知らせと良い知らせがある」

「?」


 父は懐から2通の手紙を取り出した。


 1通目は、侯爵家から侍女を解任するという知らせ。


「解任!?」


 無実であっても一度疑いをかけられた闇の魔術師を、大事な娘の側にはおけないという、世間体まで考慮した侯爵家の判断であった。


「そんなぁぁ! どうしよう!? 次の宮廷魔術師採用試験は一年後なのに、こんな中途半端な時期に職を失ったら困るよぉぉ!」


 魔術師や魔法師は、その能力を買われて国の各機関で働く者がほとんどだ。


 しかしスペンシア子爵家は、先代が事業に失敗して大きな負債を抱える貧乏貴族である。


 父や兄のように、名誉と補償はあっても給金はそれなりの宮廷勤めより、金持ち貴族の家で厚待遇の方が割りがよいとリュシカは考えたのだ。


 若い内は侍女として働き、借金の返済を終えたなら魔術師として国際機関でキャリアを積む。


 そのように人生設計を立てていたというのに、スナーフのせいで台無しにされた。


「一度ならず二度までも……あいつ、呪ってやる!」

「こちらを確認してからにしなさい。2通目の手紙はウィストン公爵家からだ」

「ウィストン? 閣下の?」


 自分で読みなさいと手紙を差し出される。

 リュシカは首をかしげて手紙を受け取り、封を開けた。



『リュシカ=スペンシア様


 この度は、当主の問題に巻き込む形となってしまい、誠に申し訳ございませんでした。

 当主はリュシカ様の侍女解任の報をいち早く知り、責任をもって次の職を斡旋するよう命じられました。

 いくつか条件の良い仕事をご用意出来ます。

 ご興味がございましたら、バークレー領の公爵邸まで使いをお寄こしください。

             

        ウィストン公爵家 執事 ジョハン』



 路頭に迷ったリュシカに、公爵家が仕事の斡旋をしてくれるというのなら、願ってもない申し出だった。


 ただし、若干怪しいと思はなくもない。


 だが職を失った今、選り好みしている余裕はなかった。


「先ずは話を聞いてみよう!」


 リュシカはお給金が高くてご飯がおいしければ御の字だと期待に胸を膨らませた。


 そして、欲望丸出しで公爵領近くまでの移動術式を用意すると、着の身着のまま自ら(・・)足を運んだのであった。


 

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