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隻眼公爵と魔眼泥棒の花嫁  作者: 千山芽佳


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2/10

事情聴取

 

 この世界には、魔力を宿した魔法師と魔術師が存在していた。


 魔法師は、生まれた瞬間から魔力をその身に宿し、内なる力で呪文によって能力を発動する。

 魔術師は、魔力に適正のある者が体内で魔力を錬成し、魔方陣や術式によって能力を発動した。


 いずれも魔力は瞳に宿すとされ、宝石のような瞳は、【魔眼】と呼ばれていた。


 瞳の透明度や輝きは魔力量を示し、色はそれぞれの属性を示した。


 魔力が込められた魔眼は人々を魅了し、収集家(コレクター)に狙われることもしばしば。

 魔眼が魔道具や魔道兵器にも使われることから、魔眼狩りという犯罪が昔から後を絶たなかった。


 そんな犯罪や魔獣の脅威から国民を守るため、ウィストン=ライリー=バークレー公爵が、国土全体を守護壁で覆ったのだ……が、当の本人が魔眼狩りにあったのだから驚きである。


 そして、あろうことか国家を揺るがす大事件の犯人に、一介のうら若き闇の魔術師リュシカ=スペンシアが、王城に連行されたのであった。



「で? なーんで私が拘束されたわけ?」


 魔捜の取調室で、机をバンバンと叩きながら抗議するリュシカ。


 その相手は魔術学校の同窓で、現在は魔捜に所属する地属性の魔術師スナーフ=ロッドだ。


 リュシカは取調室にいたが、それは彼女の意思であった。


 というのも、侯爵家で連行されてすぐ、コーデリアが王城で働くリュシカの父に連絡をしてくれた。


 その後、父が仕える王太子が便宜を図ってくださり、リュシカは不当な取り調べを受けることなく、すんなりと拘束は解かれたのである。


 しかし何故リュシカは疑われて連行されたのか。


 帰りにスナーフに呼び止められたので、理由を聞くために取調室に留まったのだった。


「宮廷魔術師になったと聞いてはいたけど、まさか魔捜とはね。公平性の欠片がない奴を採用するなんて魔捜は深刻な人手不足のようね」

「それはこっちの台詞だ、金の亡者の黒魔術師め。バルモントのご令嬢に秘薬でも盛ったのか?」

「名誉毀損で訴えるわよスニャンフ」

「スナーフだ!」


 二人はテーブルを挟んで睨みあった。


「ったく、会えば減らず口ばかり。話を聞く気があるのかよ」


 リュシカは背もたれにかかりながら足を組み、一通り文句は言えたのでどうぞ進めてください、と手で促した。


「ごほん。我々は公爵閣下の魔眼を盗んだのは闇の魔術師と結論付けた」


 魔術の特性上リュシカも否定しない。


「続けて?」 

「お前は学生の頃、研究室に籠って怪しげな呪術を日夜開発していた」

「論文の研究ね。あんたに横から掠め取られて無駄に終わったやつ~」 

「何が論文だ。俺はお前の研究室で怪し気な呪術の資料を見たんだ」

「は? まさか忍び込んだの?」


 スナーフは自身の違法性には答えず、研究室で見た物をリュシカに問い詰めた。


「その中でも、念入りに創られた呪術の対象者である3人を調べた」

「3人? 4人じゃなく?」

「ああ。3人だろ?」

「……続けて」

「彼らは貴族学校に通う男子学生で、卒業後に結婚を控えていた」


 ところが、卒業間近になると欠席が続き、友人達とも連絡が途絶え、消息不明になったという。


「お前の仕業だな!」

「はぁ? まさかそれで人のことを花婿殺しって呼んだわけ?」

「そうだ!」


 リュシカは呆れを通り越して憐れみの目を向けた。


「殺してない。まぁ、再起不能にはしたけど……」 

「認めたな!」

「話聞いてた?」

「【魔法魔術統制法 第十二条 魔法魔術師は正当防衛及び国家許可下を除き、一般市民に対して身体的危害を加えてはならない】」

「ご丁寧に読み上げなくても知ってますぅ」


 リュシカは腕を組み、溜め息を溢してソファに寄りかかった。 


「正直に話す。呪術でバイトをしていたの。あんたのせいで授業料が免除にならなかったから。貴族学校の学生達は依頼を受けて呪ったの」

「闇バイトか……」

「闇の魔術師のバイトを闇バイトって略さないでくれる? だけど全て法の範囲内でやったことよ」

「再起不能にしたと自白しただろう!」

「あのさー、私って魔眼泥棒の疑いで連行されたのよね? さっきから私のバイトを問い質してるけど、閣下の魔眼狩りと何の関係があるわけ?」


 スナーフの呼び止めに応じてまで聞きたかったのはそこである。


「闇の魔術師は空間移動や秘薬、呪術などの暗躍に適した能力を持っている。だから研究室で長期間に渡り綿密な計画を立てればーー」

「私にも可能かって? どんなに時間と労力をかけても不可能よ。それがわからないって言うならあんたは魔術師として失格ね」

「なんだと!? 公爵閣下の魔眼が盗まれたのは、スペンシア子爵家の近くなんだぞ!」

「……そうなの?」


 それは初耳だった。


 スナーフが言い過ぎたと後悔しているのが表情でわかる。

 怒りで口を滑らせてしまったようだ。


「私を疑った経緯はなんとなくわかったけど……、私じゃない。私は閣下を尊敬してる」

「……」

「それから、私が怪しいと疑った元凶である花婿3人。今頃元気に結婚の準備を進めているはずだから、確認してみて」

「なん……だと!?」


 リュシカは話は終わりとばかりに立ち上がった。


「待て! まだ終わっていない!」

「これは任意よ。既に拘束は解かれているんだから、これ以上私を引き留めることは出来ないはず」

「ーーっお前を引き留めるよう任務が課せられている!」

「それなら、あんたに指示した人に『スペンシアは無実無害の善良な闇の魔術師でした』って報告しなさい」


 それでも、スナーフは手をかざして床から蔦を出そうとした。


(同じ手に引っ掛かるかっつーの)


 今度はリュシカの方が素速く指を動かし、スナーフの術を解術して無効化した。


「くそっ!」 

「捜査頑張ってね、スナップ=ロッド」

「スナーフだ!」


 リュシカは足元に術式を発動させた。

 黒い光が全身を包み、次の瞬間にはリュシカのいたソファには誰もいなくなった。


 

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