第4話 敵のボスを倒して盗賊団を解体してしまった件
口から血を流し、白目をむいて失神している盗賊団の男たち。
ついさっき目を覚ましたアイシスには、この状況が何を意味しているのかわからなかった。
「どういうこと……?」
王都最強と言われている盗賊団の団員が、こうも簡単に倒されるなど、あり得ない。
彼女の理解が追いつかないまま、視線は中央にポツンと立っている少年を捉えた。
どうやらレブルは無事なようだ。安心はできたものの、まだひとりだけ強敵が残っている。
盗賊団のボスであるイブだ。
ソファに座ったまま、無様に散った団員たちを眺めている。
その表情は曇るどころは晴れやかで、この状況を楽しんでいるようでもあった。
――きっと、イブが癇癪を起こして仲間に手を出したんだわ。そうよ、そうとしか考えられないじゃない。
なぜ癇癪を起こしたのか。
なぜ怒りをぶつける相手が仲間たちだったのか。
それを深く考えようとすると頭が痛くなるので、できるだけ考えないようにするアイシス。
「起きたのかい?」
「レブル……? これ、もしかしてあんたがやったの?」
「そうだけど」
「……」
言葉が出ない。
レブルの自然体な様子からは、さっきまで戦っていたような痕跡は見受けられない。
しかし、理解はできなくても納得はできた。
イブが癇癪を起こして仲間をボコボコにしたというより、ずっと自然だからだ。問題なのは、王都最強の盗賊団を相手にして圧勝した、レブルの実力。
「あんた、何者なの?」
「そんなに驚くことでもないよ。チンピラを相手するくらい、どうってことないし」
「チンピラって、こいつらは盗賊団ストレイ――」
アイシスの言葉は、イブの豪快な笑い声によってかき消された。
「チンピラ……チンピラか。確かに、お前ほどの実力者にとっては、あいつらは取るに足らない雑魚だったのかもしれん」
「おじさんは違うってこと?」
「少なくとも、あいつらの百倍は強い」
巨漢のその言葉に、レブルは頷く。
「そっか。それなら、大したことないね」
そう言って、持ち前の素早さで間合いに入った。
気づけばレブルの拳は、イブの目の前に――。
「ぬるい」
高速の拳を見切り、横に顔を傾けることで攻撃をかわすイブ。
レブルの拳は空気を切り、拠点の壁や屋根が全て吹き飛ぶほどの風を発生させた。
「嘘……」
目の前で起きていることが信じられない。
アイシスは風をよけるため地面に顔を伏せながらも、レブルとイブの戦いをしっかりと両目で見ていた。
「確かに、思ってたより強いね」
「誉めてくれるのか?」
イブが剣を抜く。
それを見ていたレブルは、ちょっと前に倒した盗賊の剣を拾い上げ、再び間合いに飛び込んだ。
剣と剣がぶつかる。
火花が散る。
レブルの剣捌きは見事だった。剣術に詳しくないアイシスでも、彼の動きが洗練されたものであると一目でわかったほどだ。
無駄のない、シンプルな動き。
しかし、その中には徹底的に叩き込まれた剣術の基礎があり、経験に裏打ちされた根拠ある自信が現れている。
「これ以上遅れるわけにはいかないから、決着をつけさせてもらうよ」
「――ッ」
イブはそこに、剣術の高みを見た。
目を閉じていても戦えるくらいに、動きが体に染み込んでいる。
表情を変えることなく、淡々と相手の攻撃に応じる姿は、一流の剣士を彷彿とさせた。
巧みな剣捌きでイブの大剣を弾き飛ばし、背後に回り込んで首元に自分の剣を当てるレブル。
「……降参だ」
剣を交えて感じた、圧倒的な実力差。
盗賊団のボスであるイブにとって、レブルという少年との出会いは衝撃的なものだった。
これほどまでに強い少年が、特に話題になることなく存在していた。
そもそも、なぜこんなにもレブルは強いのか。
イブも、そしてアイシスも。
この場で疑問に思うことは同じだった。
「レブル、どういうこと? どうして……」
「僕も別に戦えないわけじゃないからね。チンピラくらい簡単に倒せるよ」
「だから、こいつらはチンピラじゃなくて、あのストレイキャットの一員なのよ! そしてその男はボス!」
「冗談はやめてくれよ。このおじさんが例の有名な盗賊団のボスだって?」
「そう言ってるでしょ!」
アイシスはすっかり憤慨している。レブルがなかなか自分の言うことを信じようとしないからだ。
盗賊団のボスであるイブに、脅しのような視線を向ける。
それは、自分が盗賊団ストレイキャットのボスであることを証明しろ、という意味の視線だったんだろう。
しかし、イブは笑うだけだった。
注目されていなかった少年の圧倒的な実力。そして、その少年にあっけなく敗北を喫してしまった自分の弱さに。
「おじさんも何も言わないじゃないか。本物の盗賊団も、こんなチンピラの集まりに勘違いされたら嫌だろうね」
「……」
アイシスは諦めた。
少なくとも今の状況では、レブルが自分の言うことを信じることはない、と。
「それじゃあ、気をつけて」
「……うん」
王都までは馬車で戻ってきた。
もうすっかり深夜になっていて、街の中心部は酒場の営業が盛り上がっている。
馬車はストレイキャットのものを使い、イブが御者となって馬車を動かした。彼はすっかりおとなしくなり、下手に反抗しようなどとは考えていない様子。
アイシスは王国政府に身柄を引き渡すことを提案したが、レブルに却下された。
チンピラは失敗をして学んでいくので、そこまでしなくてもいいという意見がほとんどだったが、自分があとでバイト先に連行するためでもあるんだろう。
彼に助けられたアイシスは、レブルに従って盗賊団を見逃すことにした。
――17歳の子供に負けて、そう簡単に立ち直れるとは思わないし……。
ストレイキャットもいろいろとショックだっただろう。
自分を誘拐した連中であったとしても、アイシスはほんの少しだけ彼らに同情したのだった。
「レブル、その……」
「ん?」
手を振るレブルの前で、もじもじし始めるアイシス。顔をほんのりと紅潮させ、ついに口を開いた。
「ありがと……助けてくれて」
「大したことないよ。相手はチンピラだったし」
相変わらずのレブルの返事に、アイシス、そして馬車で待っているイブも溜め息を漏らした。




