第3話 武器がなかろうと複数人でかかってこようと大したことない件
王都で知らない者はいないであろう、最強の盗賊団ストレイキャット。
その拠点に連れてこられたレブルとアイシスは、ボスであるイブの前に立たされていた。
「レブル! 逃げて!」
危機感のないレブル。
そんな少年を調子に乗っていると勘違いし、立ち上がったイブ。
このままだと、レブルが巨漢にボコボコにされてしまう。そんな光景を、アイシスは望まない。
自分の腕を拘束していた男の手を振り払い、隣でただ立っているレブルの腕を取る。無謀だとわかっていたが、走り出した。
――レブルがこうなったのもわたしのせい。だから、レブルだけでも……。
そもそもこの誘拐の目的はアイシスだ。危機感のない隣の少年は、ただ巻き込まれただけ。それなのに、自分よりも酷い目に遭おうとしている。
強引に引っ張られ、イブから離されるレブル。
「逃げられると思っているのか?」
巨漢が嗤った。
汚い歯が露わになる。
――歯磨きくらいした方がいいよ。
アイシスに腕を引かれながら、レブルはそんなことを考えていた。
「レブル、逃げなさい!」
呑気な様子のレブルを押し出し、逃走を促す。自分は用済みになれば解放される可能性が高いが、彼が自由になる保証はない。
「行って! 早く!」
「え、ちょっとアイシス――」
「うるさいわね! 早く行き――」
アイシスはこれ以上何も言えなかった。
手下の男から平手打ちを食らい、そのまま気絶してしまったのだ。
彼女は非力だった。対抗する力も、術も、アイシスお嬢様は持っていない。
「アイシス……」
自らを犠牲にして、レブルを助けようとしてくれたアイシス。彼女が静かに地面に倒れる姿を見ながら、レブルの中の何かがプツンと切れた。
「……」
「どうした? 彼女が叩かれてご立腹か? あ?」
アイシスを叩いたチンピラが挑発してくる。
レブルは地面に片膝をつき、優しくアイシスを動かして楽に寝かせた。
「師匠が言ってたんだ」
立ち上がり、アイシスを叩いた男に向き直る。
「男であれ女であれ、力のない存在に手を上げるなんて愚か者のすること。そうなんだね、君は愚か者だったんだ」
「なんだと?」
レブルの物言いに、腹が立った男は瞬発的に殴りかかる。
だが――。
「僕にはいいよ。チンピラに負けるほど、僕は弱くないからね」
冷めた表情を変えないまま、男の拳を指2本で受け止める少年。
「な……!」
それを見たもうひとりのチンピラが、剣を抜く。
「いい加減にしろ! 斬られたいか?」
「斬られるつもりはないかな」
男ふたりが目視できないほどの速さで、腹に拳を叩きつける。
剣を振る暇もなく、男たちは地面に倒れた。ほんの一瞬の出来事だ。
「面白いガキだ。力を隠していたのか」
レブルの素早い動きを目の当たりにし、その実力を認めるような発言をするイブ。彼の表情はどこか愉快そうで、レブルに対して興味を持っているようだった。
「隠してたわけじゃないよ。大した力でもないし」
「謙遜か。ますます興味が湧いてきた」
「おじさんもこんなこと辞めて、真っ当に生きようよ」
「説教のつもりか」
「社会に対するちょっとした不満とか、理不尽に怒ることはあってもいいけど……女の子を誘拐するのは良くないと思うな」
レブルの説教は、まさにチンピラに対するものだった。
表情からは妙な悟りも受け取れる。
本当に17歳の少年なのか疑ってしまうほどだ。
そんなレブルに対し、イブは――。
「こんな面白いガキは見たことがない! アイシス嬢よりも価値のある子供が釣れたようだ」
口を大きく開け、全身を揺らしながら大笑い。
こんな状況でも平常心を貫く金髪の少年に、これまでにないほどの強烈な興味が湧いた。
ボスの笑い声は拠点全体に響き、ハンモックで寝ていた他の盗賊メンバーも起こしてしまったようだ。残り12名の盗賊たちが続々と集まってくる。
「お前、名前は何だ?」
「レブル」
「そうかそうか! レブル、ここにいる盗賊全員を倒してみろ! もしお前が勝てば、アイシス嬢もお前も逃がしてやる」
「別にいいけど、僕からも条件を出していいかな?」
「ほう?」
「僕が勝てば、おじさんには僕のバイト先の上司に会ってもらう。そして、僕が遅刻した理由を説明してもらうっていうのはどうかな?」
レブルの出した条件に、イブは笑いが止まらなくなった。
「大した自信だ。もしお前が俺様にも勝てたら、その条件をのんでやろう」
「交渉成立だね」
初めて見せる、レブルの爽やかな笑み。
ゆっくりと手首を回し、攻撃の構えを取った。
レブルの実力を知らない、さっき起きてきたばかりの盗賊団の団員は、ボスの命令だということでレブルに襲いかかる。
無論、剣を抜く必要などない。
相手は若い小柄な少年なのだから。
そして、彼らもただのチンピラではなく、王都最強の盗賊団ストレイキャットの一員。こんな少年に負けるはずがない。
王都を出た森の奥に位置する、盗賊団の拠点。
15名のエリート盗賊が集まるはずの空間で、ひとりの少年が圧倒的な存在感を放っていた。
剣が振られる。
矢が飛んでくる。
最初の2名は素手だった。
しかし、捉えられないほどのスピードの手刀で意識を刈り取られ、あっけなく散ったのだ。
――こいつは只者ではない。
強烈な警戒心が、ストレイキャットの盗賊たちの間で広がった。
武器を何も持たない少年に対して、武装した大人たちが襲いかかっている。この光景は異様だった。
「……ん」
殴り飛ばされたひとりが壁に叩きつけられ、爆音を響かせた。
その音と振動で目を覚ますアイシス。
叩かれた後頭部はまだズキズキ痛むが、レブルが無事かどうかわからない。
最悪の状況を覚悟して、ゆっくりとその水色の瞳を開いた。
《キャラクター紹介》
・名前:レブル・コスキート
・性別:男
・年齢:17歳
・種族:ヒューマン
・身長:166cm
ビクトリア学術学園の学生であり、生活費を稼ぐために勇者パーティと魔王軍でのバイトをこなしている。




