第39話 王都中の注目を浴びて戦うことになった件
魔王エレクトラは、規格外のパワーと魔力を誇る、魔界でも高名な魔王のひとりだ。
それだけの実力を持つ魔王が、なぜ隣の領地の魔王であるロードキングに直接手を出さなかったのか。
それは、太陽の光のない空間において、ヴァンパイアであるロードキングが圧倒的に有利であるからである。
魔界の環境では、ロードキングは不死身だ。
傷を負ったりすることはあっても、回復は早いし、絶対に死ぬことはない。
だから手を出そうにも出せなかった。
しかし、今回は都合がいい。
部下にこっそりロードキングの監視をさせ、地上に出るタイミングを見計らっていたのだ。
ヴァンパイア対策もしっかりとした上で、ロードキングが弱体化する地上での戦い。ここで負けるわけにはいかない。
――まわりの人間たちは何だ……?
だからこそ、彼の周囲にいる人間3人の存在は想定外だった。
思っていた以上に手強い。
槍使いのヒューマンと、とんでもない美貌を誇る同じく槍使いのエルフ。
このふたりの連携攻撃は、即席のものだとは思わせないほどの威力を放っていた。
一方の攻撃に対処している隙に、もうひとりの槍使いは死角に回って斜めに攻撃を仕掛けてくる。
そして、ロードキングはそれを笑顔で観戦していた。
魔王と戦いに来たのに、手下の魔族ですらない人間たちと戦わされるなど、エレクトラにとっては屈辱的だ。
「いい加減お前も戦いに参加しろ! こいつら先にぶっ殺すぞ!」
怒りが頂点に達したエレクトラは、杭を地面に置いて大剣を抜く。
これまではヴァンパイア対策のために慣れない杭で戦うことにしていたが、ここからは本気だ。熟練している大剣の扱い。
この戦術の変化により、ホークとベルタのペースが乱れた。
攻撃が予測され、圧倒的なパワーで返される。
そして――。
「ちゃんと戦えば大したことないヤツらだったか。次はお前だ! ロードキング!」
「まだ僕が残ってるよ」
「はぁ? お前、このふたりが倒れてるのがわからんのか? ただの人間ごときが、俺様に勝てるはずが――」
「それもそうだけど、戦うように言われてるから」
「怖かったら逃げてもいいんやぞ!」
「おじさんは優しいね。でも、僕は戦うことを選ぶよ。師匠とホークさんに、成長した姿を見せるために」
ベルタとホークは致命傷こそ免れたが、血を流して地面に倒れていた。
エレクトラの大剣を受け止めきれなかった結末だ。
それをすぐ近くで見ていながらも、金髪の少年、レブル・コスキートは少しも怯える様子がない。
これはどういうことかと、ロードキングを見るエレクトラ。
「さっき言ったじゃん。金髪の少年は、俺っちの手にも負えないって」
金髪の少年ことレブルは凄まじい勢いでエレクトラを圧倒した。
純粋なパワーでも、レブルの方が上。
魔力量でも、レブルの方が上。
これは、エレクトラが戦いを通じて出した結論である。
このまま逃げた方がいいのか、少年をどうにか封じ込めてロードキングを殺すチャンスをつかみにいくのか。
彼の中での究極の選択。
最終的にエレクトラは逃げ帰ることを選択した。
だが、仮に魔界に逃げ帰ってしまえば、そのままロードキングの追跡を許してしまい、不死身となったヴァンパイアキングに自分が命を狙われるかもしれない。
それだけは避けるため、魔界に帰るルートを変更する。
防御を繰り返し、エレクトラの考えはまとまった。
確かにレブルの攻撃は威力が半端ではないが、防御に徹すれば魔王としてのフィジカルで防げないことはない。
あとは隙を見て逃げ出すだけである。
ベルタとホークが立ち上がったタイミング。
もうこれ以上この場にいるのは危険だと判断したエレクトラは、ロードキングたちに背中を向けて逃げ出すことにした。
「師匠、あの方角は……王都ですよね?」
「まさか、魔界に帰るために王都を横切るつもりか――?」
「そうなると、王都がとんでもないことになるぞ。オレたちが阻止しないと――」
エレクトラの移動速度速い。
昔から逃げ足はとにかく速かったのだ。
このまま王都を横切って街を荒らすことができれば、そちらの対応に忙しくなって自分の追跡を諦めるはず。
彼はそう考えた。
「俺っちも追いかけたいところだけど、魔王がふたりも王都に来たら、やべぇーってなんない?」
「いや、むしろこれはチャンスだ。ここで活躍すれば、貴様の活躍が認められ、魔王ロードキングが国民に受け入れられるかもしれない」
ベルタの言葉に、ロードキングが頷く。
「それか、余計に恐れられるかだね」
「ここは賭けに出るしかない」
「どうかな? レブルだけでも上手くやれると思うけど――」
「貴様は絶対に来い!」
「はーい」
ベルタに首根っこをつかまれた魔王。
これもまた異様な光景だが、ロードキングが怒ることはない。
大人しくエルフに引っ張られるつもりのようだ。
王都が混乱の渦に包まれる。
魔族が侵入してきたことは一度もない城塞都市。それがセレスト王国王都だ。
しかし、魔王となると話は別だった。
襲来に気づいた騎士団が遠距離攻撃を仕掛けたところで、全て回避されるので効果がない。
剣を振るった風圧で壁をぶち破り、そのまま堂々と王都に侵入した魔王エレクトラ。
彼のいかにも魔王という感じの見た目もあって、国民は悲鳴を上げて逃げ惑った。
王国騎士団が魔王の侵攻を阻止しようと試みるも、軽く撫でられて終わる。魔王エレクトラは理不尽なまでに強い存在だった。
――それにしても、騎士団弱すぎだろ……。
手応えのない騎士団と交戦しながら、エレクトラは思う。
――あの槍使いふたりもそこそこ強かったが……あの金髪のガキはなんだったんだ?
改めてレブルの強さについて考える。
あれは明らかに、人間の限界を超えていた。
どういう幼少時代を過ごし、どういう訓練を受ければあれだけ強くなれるのか。少しずつ興味が湧いてくる。
「エレクトラ、そこまでにしとこうよ」
「お前は――ロードキング! もう来たのか!?」
「俺っちの弱体化なめすぎでしょ」
「てっきり、ヒューマンのレベルまで弱くなるものだと思ってた……」
「それは心外だな」
エレクトラの前に立っていたのは、人畜無害そうな黒髪の少年と……金髪の少年だ。
「お前も……来るの速すぎだろ!」
「普通に走ってきただけだよ」
「はぁ?」
馬に乗って移動したとしても1時間はかかる距離だ。
ヒューマンのレブルは息切れすらしていない。
『レブル!』
『レブルさん!』
『レブル君!』
魔王エレクトラと対峙するレブルと魔王ロードキング。
周囲の一般人からしてみれば、無謀な状況。
だが、レブルを知っている者からすれば、それは唯一の希望だった。
王都中の注目が、この戦いに降り注いでいた。




