第35話 望まない結婚を強制されそうになった件
フィリシン家に代々伝わる伝説の剣。
当主のベンリィでさえもプルプル震えながら抜いたその剣を、レブルは力を入れてないかのようにあっさりと抜いてしまった。
まさかの結末に唖然とするベンリィ。
レブルから剣を回収し、もう一度自分で抜いてみるために試してみる。
しかし、以前よりも剣は重く、鞘から出ようとしない。
「継承権が……この少年に移った」
「ちょっとお父様、どういうこと?」
「この少年――レブルは剣に認められただけではなく、フィリシン家にも認められたということだ。レブル、ぜひ私の娘、アイシスと結婚してくれ」
レブルの両手を取り、熱い視線を送るベンリィ。
彼もすっかりレブルのことを認めてしまったようだ。
ただ家宝の剣を抜いただけだが、それがいかに凄いことか――ベンリィはよく知っている。
つまり、レブルはフィリシン家にとって必要不可欠な存在であり、アイシスと結婚してフィリシン家に婿入りしてもらうことが決定した。
「レブルちゃんは私と結婚するんですが」
「弟子として、レブル大先生の望まない結婚は認めないぞ!」
ここでベンリィに敵意を向けたのは、カリーナとシャドウだ。
レブルの腕を両側からしっかりとホールドし、勝手に結婚の話を進められている可哀想な少年を保護している。
「レブル、あんたはどう思うのよ? わたしと結婚できるなんて、嬉しいはずよね?」
「急に結婚の話をされても困るよ。僕はまだ学生だし、子供だからね」
「学生でも結婚する人はいるし、婚約してる人は大勢いるわ。というかむしろ、貴族の間ではそれが普通なの」
「僕は貴族じゃないよ」
「しかしレブル、君は私の義理の息子だ。婿入りしてくれれば、君の地位も――」
「全員、一旦落ち着け」
声を張り上げ、ベンリィ、アイシス及びカリーナたちの暴走を止めたのはホークだった。
「今、何よりも大事なのはレブルがフィリシンソードを抜いたってことだ。まずはその剣を持って魔王を倒しにいく。結婚とかの話はそれからだ」
――できれば結婚とかの話はまだしばらくしないでほしいんだけど。
レブルはこの展開に呆れつつも、とりあえずホークの言うことに頷いた。
魔王討伐に踏みきってしまうことにはなったが、これは想定内だし、作戦通り。
この後のレブルの立ち回りが最も重要だ。
「レブル大先生、頼むから俺に黙って婚約とかしないでくれよ」
「あんたはレブルの何なのよ?」
「俺はレブル大先生の弟子であり、パーティの先輩だ」
「弟子と先輩って両立できるわけ?」
「たまたま弟子が先にパーティに入ってただけだろ。実際両立してるんだからいいだろ別に」
シャドウとナディアによる言い合い。
これも勇者パーティには必要不可欠な要素なのかもしれない。
「そうかそうか……わかった。わかったぞ!」
ここで急に勝ち誇った笑みをこぼし、声を張り上げるベンリィ。
「もしこのフィリシンソードを持っていくのであれば、レブルには娘との結婚を宣言してもらおう」
「「「「「「――ッ」」」」」」
「ベンリィさん、ちょっとこの家燃やしてもいいかしら?」
「ふざけんな! レブル大先生を何だと思ってんだ!?」
「これはギルドからの命令だ。勝手な条件をつけて我々を足止めすることは許されないぞ」
炎魔術を行使しようとしているカリーナ。
ベンリィに殴りかかろうとしているシャドウ。
そして、ギルドからの命令であることを強調して、正論を振りかざすホーク。
これはさすがにヤバいと思ったのか、ベンリィはしょぼんとして、すっかり何も話さなくなってしまった。
「お父様、馬鹿じゃないの? これでレブルとレブルの仲間に嫌われたら、それこそ終わりよ!」
「す……すまないアイシス……」
娘にまで怒られてしまうと、立ち直るのには時間がかかりそうだ。
フィリシン家が燃やされる危機に一度は陥りながらも、勇者パーティは伝説の剣を手にした。
あとは魔王討伐に向かうだけだ。
魔王軍の目撃情報があった山へ向かう。
全員それぞれ武装しているが、全てはレブルの持つフィリシンソードにかかっていた。
無論、彼らも戦闘を全てレブルに任せるつもりはない。
しかし、結局はレブルが活躍して終わることになるだろうなと薄々感じていた。
だからか、いつも以上に緊張感がなく、気楽である。相手は邪知暴虐の魔王だというのに。
「それにしもその剣、全然抜けなかったな。レブル大先生はさすがだぜ」
「そんなことないよ」
「謙遜はいいっての。その剣で、魔王なんて一撃で倒してくれよな」
レブルへの期待。
シャドウはレブルの勝利を疑っていなかった。
だが、ある意味レブルの勝利は確定しているのかもしれない。作戦Bに移行した場合、レブルは魔王を殴ることになっている。
そして戦いは終わり、魔王は逃げていくというシナリオだ。
「魔王軍が見えてきたぞ……って、違うな。ただの少年だった」
「……」
ギルドから渡された封筒の中には、魔王軍が集まっているとされる場所の地図も同封されていた。
その地図を見てこの場所まで来たのだが、魔王軍らしき集団は見当たらない。
この土地がそれなりに開拓されて、なんらかの開発が行われていることはわかるが、肝心な魔王軍がいないとなると、話は変わってくる。
――勘違いだったのか……?
ホークは開発中の土地の前に座る、レブルと同い年くらいの少年を見ながら考える。
目撃者の勘違いだったか、魔王軍が人間の詮索に気づいて一時的に撤退したか。
とりあえず黒髪の少年に話しかけてみることにする。
「そこの君、少しいいか?」
「あ、うん。こんにちは」
「ここは魔王軍が立ち入っているとされている、危険な場所だ。君のような子供がここにいるのは危険だと思う」
「いや、普通に知ってるよ」
「知ってるって……魔王軍がここに来るのを見たことがあるって言うのか? 魔王ロードキングもそれに――って、さすがにそんなことは――」
「そうだね。魔王ロードキングって俺っちのことだし、そう考えればもうここにいるよね」
「そんなわけないだろう。魔王がこんな子供なはずがない」
「だいたい、人間の魔王に対するイメージが古すぎるんだよ。おとぎ話に出てくる邪悪の権化みたいな姿で想像するの、やめてほしいな」
この少年はどこか不気味だ。
どこからどう見ても普通の少年のように思えるが、何かを秘めているような気がしてならない。
ホークは少年への警戒レベルを引き上げた。
「ホークさん……この子……とんでもない魔力を持ってます……」
ここで、カリーナが口を開く。
先ほどから黙っていたのは、この少年の圧倒的な魔力量に動揺していたからだ。
「そりゃあ魔王だもん。魔力はいっぱい持ってるでしょ」
魔王ロードキングは、レブルにこそっとウィンクしながら、勇者パーティの面々に笑いかけた。




