第34話 選ばれし者にしか抜けない剣を簡単に抜いてしまった件
作戦の決行日がやってきた。
この作戦というのは、勇者パーティによる魔王討伐作戦のことでもあり、魔王ロードキングによる勇者パーティと冷静に話し合おう作戦のことでもある。
レブルとしては、何がなんでも魔王討伐を進めるわけにはいかない。
ロードキングは簡単に負けてしまうような魔王ではないが、勇者パーティの強さを知っている身としては、安心できなかった。
「レブル、今日は授業を休めって、どういうこと?」
「そんなことは言ってないよ」
今日も授業はあるのだが、レブルは重要任務のために休みを取っている。
ギルドから学園に直接話が入っているため、公欠という扱いになっていた。
しかし、今日休んだところで公欠にならないアイシスも、なぜかレブルに合わせて休んでいる。
「でも、わたしの実家に用事があるのよね?」
「それはそうだけど……」
ふたりは今、アイシスの実家にいた。
貴族フィリシン家の屋敷である。
ちなみに、ここに来ているのは勇者パーティのメンバーも同様だ。
パーティ全体でフィリシン家に用事があった。
「急に押しかけてすまない。今日行われる討伐任務で、どうしてもフィリシン家の剣が必要なんだ」
「フィリシン家の剣……あの剣のことですか?」
王都で最も有名な勇者であるホーク。
そんなホークの迫力に負け、アイシスは先ほどまでの勢いを失う。
彼女が指さしたのは、屋敷の居間の壁に堂々と飾られている細い剣だ。
「そうだ。あれが伝説のフィリシンソードで間違いない。フィリシン家の者か、剣が持ち主として認めるほどの実力を持った人間しか抜くことはできない、という剣だ」
フィリシンソード。
それは、伝説の剣と言われ、代々フィリシン家に受け継がれてきたものだ。
アイシスは詳しいことを知らなかったが、ホークはよく知っている。
実際、アイシスが少し前に盗賊に誘拐されたのも、家宝であるフィリシンソードが原因だった。伝説の剣を手に入れるため、盗賊団は令嬢を誘拐したのだ。
――伝説の剣なのに、こんなところに飾られててもいいのかな?
盗まれたら一大事であるフィリシンソード。
そんな貴重な剣を、こんなに目立つところに堂々と置いてもいいのか。
黄金の鞘に納まった剣を見ながら、ボーッと考えるレブル。だがここで、彼はあることに気づいた。
――誰もあの剣を抜けなければ、魔王討伐は諦めるってことだよね。
魔王討伐任務のもうひとつの条件。
ひとつはレブルを参加させることだったが、もうひとつはフィリシンソードを使用することだ。
だが、伝説の剣を使うためには、まず鞘から抜かなくてはならない。
それができなければ、勇者パーティは魔王討伐を諦めるしかないのだ。
「この剣はフィリシン家の当主である私でも、調子によって抜ける日と抜けない日がある。勇者パーティの面々とはいえ、簡単に抜けるものではないはずだ」
そう言って、アイシスの父であるフィリシン家当主、ベンリィ・フィリシンが剣を鞘から抜く。
表情はつらそうで、腕がプルプルと震えていた。
「なるほど、面白いな。その剣、まずはオレが抜いてみよう」
やる気が湧いてきたと言わんばかりに、堂々と剣を受け取るホーク。
彼は勇者パーティの首領であり、王都でも有名な勇者だ。
そんな男が、伝説の剣を抜けないなんてことは――。
「――ッ。無理だ。びくともしない」
足を踏ん張ってまで引っ張ったが、どうしても剣は鞘から離れない。接着剤でくっついてしまっているようだ。
ホークで無理なことに驚きつつも、やる気満々なシャドウが挑む。
だが、結果はホークと同じ。抜けない。
その後もカリーナ、ホーネット、ナディアと続くが、誰も剣を抜くことができずに終わってしまった。
――本当は喜んだらいけないのかもしれないけど……良かった。
これで、彼らが魔王討伐に行くことはない。
作戦のAとBもいらなかったなと思いながら、この場を去ろうとするレブル。
だが、勇者パーティの面々及びアイシスは彼を逃がさない。
「まだあんたがやってないわよね。レブルなら簡単に抜けるんじゃないの?」
「アイシス、この少年が例の……婚約者候補か?」
「そうよ、お父様。レブルは確かに貴族じゃないわ。でも、彼は強くて賢くて、わたしのことを愛してくれるの」
話が勝手に進んでいることと、アイシスの妄想が含まれていることに気づきつつも、何も言わずに逃げ出すチャンスをうかがっているレブル。
カリーナは責めるような目で彼を見た。
「レブルちゃんは私と婚約してるわよね?」
「僕は誰とも婚約してないよ。まだ結婚とか考えるつもりはないからね」
「話が違うようだが? アイシス、この少年は本当に強くて賢いのか?」
「それだけは間違いないわ! レブル、わたしのお父様にあんたの強さを証明しなさい!」
アイシスはいつも強引だ。
「それなら、まずはアイシスが抜いてみたらどうだい?」
「わたしはフィリシン家の娘よ。抜けないはずが――あれ?」
何度も鞘から引っ張るが、抜けない。
ホークたちの時よりも少しだけ動いているように見えるが、抜けないことに変わりはない。
「まだ剣に認められていないようだ。わかっているとは思うが、私がこの剣を抜いたところで、使用者として認められるのは私だけだ。君たちが使おうとすれば再び剣は鞘に戻る」
「面白い剣ですね」
「さあ、レブルといったな。お前の強さを証明してみせろ」
「……」
これは逃げられない。
抜けてしまう予感がしたレブルだったが、そんなに都合よく抜けるはずがないと考え直し、剣の柄に手をかける。
――あれ? 手応えがない……?
そして、あっさりと剣を抜いてしまった。
フィリシン家当主のベンリィが抜いた時とはまったく違う。
まるでレブルの方がふさわしいと剣が伝えているかのような、そんな手応えのなさだった。
「まさか……そんなはずは……」
「さすがレブル大先生! 抜けると思ってたぜ」
絶句するベンリィ。
ガッツポーズをして自分のことのように喜ぶシャドウ。
「レブル、よくやった。これで魔王討伐に向かうことができる」
ホークは知っていた。レブルなら、簡単に抜いてしまうだろう、と。
この結末が予測できていたわけだ。
ホークは清々しい笑みを浮かべながら、レブルにグッドサインを送った。




