第33話 美人なエルフのお姉さんに拾われた件
「レブル、あの少年は本当に魔王ロードキングなのか?」
「それは間違いないです」
「そうか……」
魔王の間。
マグナとレブルは、ベルタを魔王の前に案内した。
ベルタほどの人物であっても、魔王に会ったこともなければ、対峙したこともない。
魔王というのは唯一無二の存在ではなく、それぞれの領土ごとに存在するというのが基本だ。
しかし、魔王ロードキングは王都でも有名だった。
邪知暴虐の魔王として知られ、Sランク冒険者が束になってかかっても勝てないほどの実力の持ち主だと噂されていた。
そんな伝説的な存在が、目の前にいる。
敵意はない。完全に無防備だ。
「レブルの師匠だと聞いたよ。よろしくね」
「よろしく……?」
「俺っちは魔王ロードキング。この領地を治めるリーダーであり、魔王軍の最高責任者でもある」
親しげに自己紹介を始めたロードキング。
ベルタはまだ、彼がロードキングだとは思えなかった。
レブルに視線を送り、再び確認する。
「影武者ではないのか……?」
「正真正銘の魔王です。信じてください」
そう言いつつも、レブルはベルタの気持ちをよく理解していた。
誰だって最初は疑う。
頭の中に思い描いていた魔王のイメージとはまったく違うのだ。
もしかしたら、世界のどこかには世間のイメージ通りの魔王も存在するのかもしれない。
しかし、邪知暴虐の魔王とまで言われて恐れられている魔王が、まさかこんな愛想のいい少年だとは……誰も思わないであろう。
「わかった。その言葉を信じよう」
ベルタはとりあえず、レブルの言うことを信じた。
彼が騙されているという可能性もゼロではないが、レブルは鈍感ではない。
自分の実力に関しては少々鈍感なところがあったとしても、相手の狙いを正確に読み取ることができるほどの鋭さはあるのだ。
「それで、俺っちに何の用?」
「……もし本当に貴様が魔王ロードキングであるというのなら、ひとつ聞きたい」
「ひとつでいいの?」
「それなら、3つほど聞かせてもらう」
ロードキングは気さくに笑顔を作ると、せっかくだからとベルタたちをテーブル席に案内した。
テーブルの上には豪華な料理が並べられていて、王都では見ないような独特な食べ物も見ることができる。
「僕たちが食べてもいいのかい?」
「もちろん。いつも世話になってるし」
距離感の近い魔王と弟子。
彼の高い実力を考えれば、魔王のことを恐れていないのにも納得できた。
ベルタは警戒を続けながらも、魔界の料理を口に運ぶ。
「美味い」
「それは良かった。一流のシェフにお願いしてるからね」
「シェフというのは全員魔族なのか?」
「それって、質問ひとつ目?」
「いや……これは……」
「冗談だって。気になることなんでも聞いて」
フレンドリーを極めた魔王。
話しやすく、相手への配慮ができている。ここまでコミュ力の高い魔王など、世界中のどこを探しても見つからないだろう。
ベルタは感心した。
確かにロードキングと名乗る少年から漂っている魔力は本物だ。
レブルと同じように、静かだが圧倒的なオーラを放っている。
「ちなみに、シェフは一部ヒューマンやドワーフがいる。何年か前に雇ったんだよ」
「魔族は人間に対しても友好的だと考えてもいいのか?」
「いい質問だね。少なくとも、俺っちの領地の住民は友好的だと思うよ。俺っち自身もね」
「ではなぜ、邪知暴虐の魔王などと言われている?」
「知らんよ、そんなの。勝手に言ってるだけでしょ。根も葉もない噂って怖いよね」
「……」
実際に魔王ロードキングを見たという人間は少ない。
ベルタはそんな人間に会ったことがなかった(レブルを除く)。
人間の持つ魔王への残虐なイメージが、無害な少年を恐ろしい悪の権化に仕立て上げてしまったのだ。
「その誤解は早く解いた方が良いと思うのだが」
「でも、俺っちがいきなり現れて、怖くないから仲良くしようね~って言ったら、みんなどう思う?」
「……」
「逆効果な気がするんだよね」
ロードキングの言う通りだと、ベルタも思ってしまった。
「レブルから事情は聞いている。私の方からギルドを説得することもできるが、どうだろうか?」
「それは嬉しいけど、大丈夫?」
「何がだ?」
「上手く説得できなかったら、魔王軍と繋がりがあるとか言われて、立場的に危うくなるかもしれないよ。俺っちとしても、それはちょっと嫌だな」
「……」
ベルタの記憶の中にある、かつての記憶がよみがえる。
それは、彼女がエルフの国を追放された頃の記憶だった。
『お前はエルフの中で異端の存在だ。その濁った考えはエルフの国全体を曇らせる』
セレスト王国の外れに、エルフのみで形成された、小さな国が存在する。
エルフの国とも呼ばれ、山の中にこもり、他種族を寄せつけない生活を長く続けてきた。
ベルタはそこの第三王女として生まれた。
ハイエルフである彼女は、幼い頃から質の高い教育を受け、エルフの中でもトップクラスの実力を誇る剣士兼槍使いとして有名になる。
しかし、今からおよそ10年前。
彼女が83歳の時である。
エルフの閉鎖的で、他種族に対して差別的な考え方や方針に疑問を抱いたベルタは、山にこもってないで他種族との交流を深めるべき、との主張を集会で行った。
その結果が追放だ。
彼女の考えに賛同する者は、ひとり残らず国を追放された。
ハイエルフであるベルタもその地位を剥奪され、国の外へ追いやられたのである。
追放され、まずは生きることを考えなくてはならなくなったベルタ。
狩りは得意なので、食料には困らない。
動物の肉は腹持ちが良く、1日に1回程度の食事で空腹を満たすことができた。
そんなサバイバル生活を続けて1週間。
いつの間にかセレスト王国の小さな港町に辿り着いていたベルタは、貧しい暮らしをする孤児の少年に出会った。
「少年、食べ物が欲しいか?」
「……」
黙ったまま、コクリと頷く小さな少年。
薄汚れた服を着ていて、本来は艶があって美しいはずの金髪はくすんでいる。外見から察するに、5歳から7歳程度の年齢だろう。
「私についてこい」
ベルタは少年に背を向けて歩き出した。
「待って」
やっと声を出したかと思うと、ベルタの手をギュッとつかむ。
その様子を見て、ベルタは美しく整った顔を優しく崩した。腰をかがめ、少年を見つめる。
「少年、名前は?」
「レブル」
小さな7歳の少年は、エルフのお姉さんに綺麗な青い瞳を向けた。




