第32話 魔王から殴ってもいいよと言われてしまった件
無理難題を要求した魔王ロードキング。
そのあたりはさすが魔王だとレブルは思った。
だが、ロードキングは勇者パーティを裏切れと命じたわけではない。
あくまで温和に済ませたいと思っているのだ。
ここで攻撃を始めてしまうと、お互いにとっていい結果が待っていない。
勇者パーティと魔王軍との対決。
一体どちらが勝利するのか。勝敗の鍵を握るのは、レブルである。
結局のところ、レブルが味方につくか敵になるかで、戦況は大きく変わってくるのだ。魔王もそれをよく知っていた。
「調整って……僕はどうすればいいんだい?」
ロードキングに指示された、敬語は使うなという命令をしっかり守るレブル。
魔王の見た目は十代半ばの少年なので、何も知らない人から見ればただの少年同士の会話だ。
「ね。どうすればいいんだろうね」
「丸投げだね」
「レブルの方が俺っちより頭いいじゃん。考えてよ」
魔王の無茶ぶり。
レブルはすっかり窮地に立たされた。
ここで、レブルの直接的な上司でもあるマグナが口を開く。
「魔王様、恐れながら……これだと我が軍の目指す企業スタイルではないような気がしますが」
「た、確かに……」
魔王軍のモットーはどんな人の意見もよく聞き入れ、尊重すること。
そして、上司は部下に対して無茶ぶりをせず、手本を示して背中で語ること、である。
魔王がその方針に逆らうというのはどういうことか。そうマグナは言いたかった。
その指摘を素直に受け取るロードキング。
「ごめん、レブルが優秀すぎて、考える仕事全部丸投げしようとしちゃった」
「……」
頭をかきながらてへぺろする魔王。人間界でのイメージとはまったく異なる、フレンドリーすぎる魔王だった。
「よーし、それならこうしよう!」
声を張り上げ、玉座から降りるロードキング。
「決行は明日なんでしょ? だったら、とりあえず俺っちは工事現場に向かうから、レブルは勇者パーティの人たちを連れてきて」
なんだそんなことかと、レブルは呆気に取られた。
「とりあえず、俺っちが話してみるから。それで通用しなかったら、レブルが軽く俺っちのこと殴って」
「え?」
「軽くでいいよ。てか軽くじゃないと俺っちが死ぬから」
「殴るのには賛成できないよ」
「いやいや、殴るっていうか、撫でる感じでいいから。そしたら、俺っちが倒れて、戦闘終了。一件落着。はい魔王は倒されました」
「それで勇者パーティの人たちが納得してくれるとは思わないけど」
「これは作戦Aが上手くいかなかった時の作戦Bだから。多分話し合いで解決すると思うよ」
――それはないと思うけど……。
そもそも、こんな少年のような見た目のロードキングを、ホークたちが魔王だと信じるのか。
レブルも最初は信じられなかったくらいだ。
魔力量やパワーが桁違いであることがわかれば、少しは納得してもらえるかもしれないが……考えたところで、レブルの不安が消えることはない。
「よし、完璧な作戦だね。AだけじゃなくてBまで用意するなんて、策士だなぁ、俺っち」
満面の笑みを浮かべて満足する魔王を前に、レブルは何も文句を言えなかった。
魔界から地上に出る。
入り口も出口も同じ岩だ。
「レブル、これはどういうことだ?」
「師匠……」
こっそり地上に出たつもりだったが、待ち伏せされていたのならしかたがない。
ベルタはレブルが出てくるのをずっと待っていた。
この岩の下にあるのが魔界ではないかという疑いを持ちながら。
「まさか……魔王軍と通じているわけではないだろうな?」
「……」
周囲を見回し、見物人が誰もいないことを確認する。しかし、警戒は続けた方がいい。
王国騎士団や王都魔術師同盟、学園の生徒など――レブルへの関心が高まっている存在は多いのだ。
金髪金眼の美女エルフと一緒にいては、人目のつかない場所であっても目立ってしまう可能性がある。
「少し場所を変えませんか?」
レブルは再び、岩に手を当てた。
魔界に案内されることになったベルタ。
まさかの展開に、これまでにないほど驚いている。
レブルのことは自分が1番よく知っていると思っていた。しかし、レブルには他の誰にも知られていない、秘密の顔があったのだ。
それが魔王軍との接触である。
何か恐ろしいことに巻き込まれているのではないか。
そうベルタが警戒し、心配するのもしかたがない。
「せっかくなので、魔王さんとマグナさんにも会ってください」
レブルがベルタを連れてきたのは、ついさっきマグナと別れた場所だ。
まださほど時間がたっていないため、マグナはまだ近くにいた。
「レブル君、そちらのエルフは何者だね?」
「僕の師匠のベルタ・クリスタンテさんです」
「ベルタ・クリスタンテ……キミがたまに口にする師匠のことか。バレたのであればしかたない」
――レブルが、私のことを話している……! 直接私には言えないような、秘めた想いも話しているということだろうか……。
ベルタは一切口を開かず、マグナの言葉から勝手な妄想を広げていた。
魔界に来たのは初めてだ。
雰囲気は悪くなく、思っていたよりも空気が綺麗であることから、ベルタの中の警戒心もほんの少しだけ解けてきている。
レブルがまた魔王に会いたいと言ったので、馬車に乗って魔王城まで移動した。
ベルタはレブルの前に腰掛ける美形のヴァンパイアに牽制するような視線を送りながらも、相変わらず口は開かない。
「どうやら、ボクはあまり好かれていないようだ。レブル君、キミの師匠にこの魔界のことを説明してくれたまえ」
馬車の中の沈黙を破ったのはマグナだった。
レブルに魔界及び彼の役割の説明を促す。
ベルタは最後まで黙って聞いていたが、内容には驚きっぱなしだった。
――まさか、魔王軍にまで実力が認められていたとは……。
弟子であるレブルを誇りに思うと同時に、複雑な気分になる。レブルは魔界での経験を、これまでずっと隠してきた。
――私に黙って恋人を作っていたりは……していないといいが。
魔王との対面を前にして、ベルタの頭の中はレブルのことでいっぱいだった。




