第31話 魔王から友達みたいに思われちゃってる件
ギルドから勇者パーティへの直接的な依頼である魔王ロードキングの討伐。
ホークの説明によると、つい最近、王都近郊の山で魔王軍の集団が土地を開拓しているという情報が入っているとのこと。
土地の開拓。
それ自体は別に悪いことではない。
セレスト王国がその山の所有権を持っているわけではないからだ。
しかし、問題はその場に魔王ロードキングがいたという情報である。
「魔王ロードキング……情報は少ないが、邪知暴虐の魔王であると聞いている」
「……本当ですかね?」
しけた顔で話を聞くレブル。
彼は実際にロードキングと面識があるのだ。魔王はバイト先で最も偉い上司でもある。
そんなレブルからしてみても、魔王=悪い奴という印象はない。
「見たこともないからわからないが……魔王だぞ? この世界の悪を凝縮したような存在に決まってる」
「はぁ……」
「ギルドはレブルの参加を特例的に認めた。というか、むしろレブル抜きでの任務実行を禁じた。だからどうしても、お前の協力がいる」
「……」
どうしてこんなことになっているのか。
レブルは顔をしかめながら考える。
――この前の大会で優勝したからかな……。
考えられる可能性として最も高いのは、先日の王都三大学園合同大会。
むしろ、これしか考えられない。
王国騎士団や王都魔術師同盟から、レブルの情報がギルドに漏れていてもおかしくはないのだ。
――困ったことになったなぁ……。
「断るっていう選択肢はないんですよね?」
「頼んでおいてアレだが、絶対に受けてもらわなければならない。じゃないと俺たちが怒られる」
「そうですか……わかりました」
「受けてくれるのか?」
「いつもお世話になっていますし、強制任務なら……断るわけにもいかないので」
ギルドを敵に回すわけにはいかない。
そもそもレブルには断るという選択肢が用意されていないのだ。
「大丈夫よ、レブルちゃん。魔王なんて、レブルちゃんなら一撃で倒せるわ」
「それは大袈裟だよ」
この時点でレブルは自分の実力に対しての認識を改めていた。
もしかしたら、自分が思っている以上に自分は強いのかもしれない。
そう思い始めているのである。
しかし、自分が強いとわかったところで、彼が魔王を討伐していいことにはならない。
――まずはマグナさんに相談しよう。
今日の勇者パーティでの仕事は、この依頼を受けることだった。
よって、これにて本日のバイトは終わりである。
「レブル大先生、魔王討伐、楽しみにしてるぞ!」
シャドウによるお見送りを受けながら、ギルドを出る。予定していた時間よりも早いが、レブルはそのまま魔界でのバイトに行くことにした。
何度も通った裏道を抜け、王都を出る。
まだ太陽も沈んでいないが、これは緊急事態だ。
任務の決行は明日とのことだったので、いち早く報告しなければならない。
――レブル……?
しかし、この焦りがレブルの調子を狂わせることになる。
普段通りであれば絶対に気づくはずの尾行に、レブルは一切気づかなかったのだ。
彼が裏道に入るところをたまたま目撃した師匠のベルタ。
レブルの動向が気になった元保護者は、バレることを覚悟で尾行を決めた。
――王都を出る抜け道……まさか、レブルがこんな道を知っていたとはな……。
最初は面白がって見ていたベルタだったが、魔界への入り口に躊躇なく入っていくレブルの様子を見て、これはただ事ではないと顔をしかめた。
「レブル君、今日は異常に早いが、何があった?」
魔界に入ったレブルは、早速魔王軍幹部のところへと向かった。
魔界といえど、雰囲気は地上とさほど変わらない。
地下に栄えた都市――それが魔界だ。
太陽の光が入らない分、光魔術が都市全体を照らしてる。
魔界の住人が光魔術に弱いというのは、単なる迷信だ。実際は強力な光魔術を使う魔族も大勢存在する。
そして、レブルの魔力も定期的に魔界を照らす光魔術に分け与えるようにしていた。彼の魔術は異常にパワーが強いため、以前よりも魔界は明るくなっている。
「ロードキングさんに伝えたいことがありまして」
「表情から察するに、深刻な事態のようだ。ついてきたまえ」
「あ、血は吸わなくていいんですか?」
「キミがいいと言うのであれば……吸いたいのだが」
そして始まる吸血タイム。
マグナの美しい顔が緩み、一瞬にして雰囲気が柔らかくなる。
「素晴らしい味だ」
一言感想を述べると、彼はそのままレブルを連れ、魔王に面会するために魔王城への馬車を手配した。
「土地の開拓……そうかぁ、なるほど」
魔王の間。
魔王城の最上階に位置しており、最も豪華な造りの部屋こそ、魔王が君臨する魔王の間である。
巨大な玉座には、魔王ロードキング本人が座っていた。
その前には跪いて敬意を示すレブルとマグナがいる。
「この前、レブルに言われたじゃん。魔界に娯楽施設とか作ったら盛り上がるかもって」
「あ、はい」
「確かにそうだよなーって思ってさ、魔界に作ろうと思ったら土地がなくて……で、結局地上にある山に作ろうかってことになったんだよね」
魔王とは思えないほどフランクな口調で話すのは、ロードキング本人。
見た目はレブルと同じくらいの少年で、レブルと同じくらいの背丈。
髪色は黒髪で、瞳の色は炎のような紅。
種族はマグナと同じでヴァンパイアなので、容姿はヒューマンとほとんど変わらない。
「ていうか、跪かなくていいって前にも言ったじゃん。オープンな会社目指してるんだから、魔王軍は。レブルはただのバイトだし、敬語とか使わなくていいよ」
「はぁ」
レブルは勇者パーティによる魔王討伐任務について、一通り話し終わっていた。
ロードキングもマグナも、レブルが勇者パーティでもバイトしていることを知っている。
だから、レブルの話を聞いてもそこまで驚くことはなかった。
「いつかはこうなるだろうって思ってたからね。先代の魔王がいろいろと暴れすぎちゃったせいで、人間は魔族のこと嫌ってるし」
「なるほど」
そこまで深刻な事態でもなかったのかと、拍子抜けするレブル。
しかし、次の魔王の一言で、レブルの中の深刻度はさらに高くなった。
「というわけでレブル、説得するなりなんなりして、工事中の魔族を襲わないように調整してくれる?」




