第29話 男子からも女子からも教師からもモテている件
「前々日及び前日の大会はよくやった。日頃の努力の成果がしっかり出せていたと思う」
朝。
大講義室に集められる6年生たち。
アイシスとレブルは前回と同様、最前列に座らされている。
学年主任のスティードの表情は、いつも以上に晴れやかだった。
「特に代表選手であるレブルとアイシスには、大きな拍手を送ってやってくれ」
講義室全体を包む大きな拍手。
レブルの名を呼ぶ歓声も入っていた。
「いやぁ、しかし……今回の大会はとんでもない結果だったなぁ。レブル、アイシス、前に出てくれ」
予想通りスティードの横に並ぶことになったレブルたち。
注目されることにはもう慣れている。
しかし、3日連続でここまで多くの視線を浴び続けることは初めてだ。
「アイシスもレブルも、筆記勝負では圧倒的な実力を発揮して1位と2位を独占してくれた。よくやった」
巻き起こる拍手。
そして――。
「レブル……剣術に魔術……正直、まだ信じられん。彼こそが、今大会のMVPであり、歴史上初となる王都三大学園合同大会の完全覇者だ。学術学園代表のな!」
講義室に、レブルの優勝を祝した音楽が鳴り響く。
学園音楽隊の特別生演奏だ。
それに混じって上がる黄色い歓声、拍手、レブルコール。
隣に並ぶアイシスはまったく注目されていなかったが、レブルの凄さが全員に伝わり彼女も誇らしい気分になっていた。
彼の実力を最初に知ったのは、この中では間違いなく自分だ。
ちょっとした優越感にも浸っている。
これから多くの女子に目をつけられる可能性が高いが、最初からレブルを支えていたのは自分なのだと。
「レブル、あんた、嬉しくないの?」
アイシスは嬉しさのあまり表情を緩めていたが、レブルは違った。
いつもの淡々とした表情で、歓声を受け止めているだけだ。
「少し大袈裟な気がするんだ。剣術と魔術の基礎ができていただけで、ここまで褒められるのも……なんだか申し訳ない気分になる」
「あんたは本当に凄いから堂々としてなさいよ!」
「別に落ち込んでいるわけじゃないから、励まさなくてもいいよ。でもアイシスはいつも優しいね」
「――ッ……レブルは自分を過小評価してると思うの。優勝できたのはあんたの実力なのよ」
「運がいいという意味では、確かに僕の実力なのかもしれないね」
ここまで来ると嫌味にも聞こえる。
だが、レブルの表情は至って真剣だ。
前から諦めていることには変わりないが、やはりどう頑張っても彼は謙虚を貫き通すらしい。溜め息をつき、学園のヒーローになっているレブルを見つめる。
この集会が終われば、レブルは大勢の生徒に囲まれ、自分が話しかける隙なんてなくなってしまうだろう。
そう予測したアイシスは、お祭りムードになって逆に正面への注目が少なくなっている今、ある賭けをすることにした。
「レブル」
「ん?」
「実はわたし……前からレブルのことが――」
「まだまだニュースはあるぞ! ふたりとも、前に出てきてくれ」
アイシスが大切なセリフを言おうとした瞬間、タイミングが悪いことに、学年主任が口を開いた。
彼の指示を受け、ふたりの女子生徒が前に向かってくる。
レブルたちが座っていた席からはちょうど反対側にある前方の席だ。
まったく気づかなかったが、アイシスもふたりの女子生徒のうちひとりは知っている。
昨日、戦った相手だ。
透き通るような白銀の髪。男子も女子も魅了する、清楚で整った顔立ち。
「シルフィ・ブラウエン……どうして……?」
シルフィを含むふたりの女子生徒は、レブルを挟むようにして横に並び、大勢の生徒の注目を受け止める。
「見覚えがあるかもしれないが、ふたりは魔術学園の生徒……だった。昨日まで」
どよめく生徒たち。
それはつまり……そういうことなのか、と。
「彼女たちは今日から学術学園の生徒になった。シルフィ・ブラウエンとオッティ・ランドールだ!」
主に男子生徒から凄まじい勢いの歓声が上がる。
美少女転入生がふたりも入ってきたのだ。嬉しくないはずがない。
しかし、次の瞬間、大講義室全体が静寂に包まれることになる。
「皆様、ごきげんよう。シルフィ・ブラウエンですわ。レブルさんの魔術に魅了され、彼と一生を共にするために、学術学園に転入しましたの」
「オッティ・ランドールです。魔術学園から来ました! レブル君と愛を誓い合い、将来結婚の約束をした婚約者です!」
通常通り、授業が行われる。
大会は休日に行われていたものだが、振り替え休日はない。
シルフィとオッティは転入生のための研修を数日受けることになるので、レブルたちとは別行動だ。
『レブル君……そのぅ……転入生のオッティさんと婚約してるっていうのは本当なの?」
『おいレブル、お前はアレなのか? 実は裏で女遊びをしてましたっていうクズ男なのか?』
『そんなわけないだろ。レブルはきっと、頭の中がお花畑のヤバい女に絡まれてるだけだ』
『あーなるほど。いつもアイシスに絡まれてるしな』
『それで納得できるな』
女子からも男子からも話しかけられるレブル。
ちなみに、今は授業中だ。
『レブル君、放課後、ちょっと私の研究室に来てくれる?』
生徒たちの勝手な私語など気にすることなく、レブルに放課後の約束をさせようとする女教師。
以前から優等生として注目されていたレブル。
だが、今回はまるで状況が違う。
勉強ができるだけではないのだ。彼は剣術も魔術も、プロ並みの実力を持っている。
教師も注目しないはずがない。
「すみません、放課後はバイトがあるので難しいです」
申し訳なさそうな顔をすることなく、レブルは淡々と断る。
その流れのまま、オッティとの関係性についても言及した。
「オッティさんは僕に命を救われたと思っていて、その恩を返そうといろいろしているみたいなんだ。これも一時的なものだと思うよ」
「それじゃあ……婚約はしてないんだよね?」
「僕は貴族じゃないし、将来の結婚についてはまったく考えてないかな」
「「「「良かったぁ」」」」
近くの女子生徒から漏れる安堵の声。これはひとりだけのものではなかった。
その様子を見ながら、少し離れた席に座るアイシスは唇を噛みしめる。
――レブルと婚約してるのは……わたしなのに……!
それはアイシスの勝手な妄想であった。




