第28話 魔術学園の優等生が学術学園に転入してきた件
王都三大学園合同大会の翌日。
いつも通りビクトリア学術学園に通学するレブル。
しかし、その道中、レブルが歩いているちょうど隣に、貴族が乗るような豪勢な馬車が停車した。
「ごきげんよう、レブルさん」
「シルフィさん、どうしたんだい?」
馬車から流れてくるレッドカーペット。
モデルのように華麗に歩きながら近づいてきたのは、魔術学園のシルフィ・ブラウエンだった。
本来ならば魔術学園に通学しているはずのシルフィ。
学術学園と魔術学園はどちらも王都にある。
しかし、レブルの家を起点にすると、方角は真逆だ。
「実はわたくし、魔術学園を退学しましたの」
「……」
「そして、今日からわたくしも、学術学園の生徒ですわ」
「……え?」
目を丸くして驚くレブル。
シルフィは魔術学園6年生のトップであり、代表生徒だ。
そんな彼女が、学園生活を1年半残し、わざわざ学術学園に転入してきた。
実際、魔術学園から学術学園に転入する例は珍しくない。だが、それは自分に魔術の才がないと自覚し、自信を失った者たちがほとんどだ。
魔術師としての将来が有望なシルフィ。
魔術学園の優等生が学術学園に転入してくるなど、前代未聞のことである。
「あのまま魔術学園にいた方が、将来的にも安泰だと思うんだけど」
レブルは遠慮することなく、純粋に思ったことを口にした。
誰もが同じことを思うだろう。
「いいえ、レブルさん。わたくしの魔術など、レブルさんに比べたらまだまだですわ。ですから、レブルさんをもっと近くで観察して、強さの秘訣を知りたいと思ってしまいましたの」
「そう言われても、魔術の繊細な制御なんて、僕は得意じゃないし――」
「仮にそうだとしても、あれだけの威力、普通は出せませんわ」
会場全体を包み込んでしまうような、紅蓮の炎。
その威力は凄まじく、氷魔術で全身を保護したシルフィでさえ、全身に大やけどを負ってしまったほどだ。
しかも、レブルはその大けがを一瞬にして治癒した。
一流の治癒師にしかできないような魔術を、淡々とした表情で使っていたのだ。
王都魔術師同盟からスカウトが来るのも当然である。
「わたくしは自分の魔術をさらに磨くため、学術学園に転入することを決めたのです。ですので、ずっとあなたと一緒に生活をさせていただきますわ」
「……は?」
冷静なレブルでさえも、シルフィの言葉には驚愕した。
一緒に生活をする、という言葉の解釈。
それはつまり、学園以外でも一緒に暮らすというニュアンスなのか。
学術学園の制服で、学術学園の生徒鞄を持つシルフィは、誘導するようにレブルの腕を取った。
「というわけで、学術学園まで馬車で送らせていただきますわ」
馬車の扉を開ける。
するとそこには――。
「やあやあレブっち、昨日ぶりだね~」
王都魔術師同盟幹部、リーフ・キャメロンの姿があった。
「なるほど。君たち、グルだったんだね」
「実は昨日、リーフさんから魔術師同盟へのスカウトのお話をいただきまして。それでレブルさんの話になり……こういう流れに……」
少し負い目を感じているのか、徐々に声が小さくなっていくシルフィ。
レブルの隣にシルフィが腰掛け、その正面に股を広げてリーフが座っている。
「昨日からレブっちのことずっと調べてたらさ、家もオンボロだし、生活にも余裕がないし、大変そうじゃん。だから、魔術師同盟がバックアップしてあげるよ」
「それは別に――」
「まあまあ、遠慮しなくていいって。ここにいるシルフィちゃんと一緒に暮らせるようにしておいたから、きっと楽しいよ~」
いつの間にかシルフィと暮らすことが確定してしまっている。
これはまずいと思い、慌てて否定に入るレブル。
「それはダメです。僕の家には一応メイドもいるし――」
「メイド? なにそれ初耳」
「妹みたいなものなので、兄として可愛がってあげる必要が――」
「レブルさん……一緒に暮らしている女性がいらっしゃるのですか?」
馬車の中の空気が一瞬にして暗くなる。
女性ふたりの視線は冷たく、どこか狂気を含んでいるようでもあった。
レブルは変な誤解をされていることを想像しながらも、あえてその誤解を解かないことで諦めてもらうことにした。
馬車から降りたレブルとシルフィ。
結局、シルフィたちがレブルのことを諦めることはなかった。
もう魔術学園を辞めて学術学園の手続きを済ませてしまったシルフィ。後戻りはできないのだ。
しかし、日常生活の束縛だけは阻止することができた。
その決め手は妹系メイドであるセリカである。
「レブルくーん!」
学術学園の門をくぐるレブルに、突然かけられた女性の声。
ここにもまた、シルフィと同じことをしている美少女がいた。
「覚えてますか? 私、昨日レブル君に命を救われたオッティです! あの時は名乗ることを忘れておりました!」
「もちろん覚えてるよ。命を救ったっていうのは大袈裟だけどね」
「そんなことありませんよ! 私はあれから、レブル君のことしか考えられなくなっちゃったんです。結婚しましょう」
「オッティさん? どうしてあなたが学術学園に――?」
オッティもまた、魔術学園の生徒だった。
しかし、やったのはシルフィとまったく同じことである。
魔術師同盟の後ろ盾があるシルフィよりも手続きが面倒ではあったが、彼女も同様に学術学園への転入を許されたのだ。
「それはこっちのセリフですよシルフィさん。どうして私の未来の旦那様であるレブル君と、腕を組んで歩いているんですか?」




