第27話 王国騎士団と魔術師同盟からのスカウトを断った件
レブルたちの前に突如として現れ、イナズマを動揺させた老剣士。
彼の名はハヤブサ・シューティングスター。
セレスト王国騎士団の団長であり、かつて剣聖と呼ばれていた最強の剣士だ。
レブルはその名前こそ知っていたが、本物のハヤブサが老人であるとは思っていなかった。てっきり30代くらいの熟練した剣士だと勝手に想像していた。
だが、対面してみたらわかる。
剣士として長年経験を積み重ねてきた貫禄。
そして、圧倒的強者としてのオーラ。
イナズマは彼の存在感に屈服し、地面に下げた頭を再び上げることすらできなかった。
そうなのだ。
普通の人間であれば、ハヤブサを前にしただけで動けなくなる。
普通の人間であれば。
「はじめまして。レブル・コスキートです」
本来であれば、レブルもイナズマと同じように地面に顔を伏せ、ハヤブサを直視できないはずだ。
しかし、彼は例外だった。
確かにハヤブサの強さは感じ取っている。
とはいえ、レブルは実際に魔王とも対面したことのある少年だ。王国騎士団長など、どうってこともない。
「汝の実力を見た。見事じゃった」
「二人称が汝の人とか存在するんですね」
「……」
古風な二人称を使ったハヤブサ。
思っていても言わないような感想だが、レブルはマイペースなのだ。
張り詰めたはずの空気が一瞬にして緩まる。
だが、ハヤブサも威厳を保たなくてはならない。咳払いをして、強引に話を進めた。
「レブル・コスキート、汝は剣術学園に転入せずとも、さらなる剣術の高みを目指すことができる。王国騎士団への入団に、興味はないか?」
「王国騎士団……ですか」
いきなり持ちかけられた規模の大きなスカウト。
実際のところ、勇者パーティにスカウトされることよりも、王国騎士団にスカウトされることの方が難しくて貴重だ。
王国騎士団に入るには、まず何かしらの剣術学園からの推薦が必要だ。
そして、推薦された生徒は難関の騎士団試験を受験し、合格した僅か1パーセントの剣士たちが騎士団員になることを許される。
母数は多いので、それでも人は集まるのだ。
王国の精鋭たちの集団こそ、王国騎士団なのである。
「でも、本当にいいんですか?」
せっかくの王国騎士団長からのスカウト。
こんな貴重で特別なチャンスに対し、レブルはやや消極的だった。
「それはどういう意味だ?」
「僕は確かにこの大会で優勝しましたが……ここにいるイナズマ君に勝ったのは彼の剣に不備があったせいだし、ブルバード君に勝ったのは彼が観客を意識した剣術を見せて勝利を放棄したからです」
「何を言っている……?」
顔をしかめて敗者に視線を送るハヤブサ。
目が合ったイナズマは、慌てて首を横に振った。
剣に不備があったのではない。
純粋にレブルの力が圧倒的だっただけだ。だが、それを本人に何度言っても、本気で受け取ってくれることはない。
ブルバード戦もほぼ同じ。
レブルの剣技が対戦相手よりも遥かに優れていた。それだけだ。
「汝の実力はこちらで確認した。学術学園に通いながらでも構わない。王国騎士団への入団に関してだが、本当に興味はないか?」
レブルに土下座したまま固まっているイナズマからしてみれば、夢のような誘いだ。
仮に彼がその誘いを受けたのであれば、一切迷うことなく首を縦に振るだろう。
しかし、レブルはなかなか頷かない。
何かと葛藤しているような、特に何も考えていないような。
どちらとも言えるような表情をして、30秒程度無言で考えた後、ようやく結論を出した。
「興味ないですね」
「――ッ」
「最近はいろいろあってまたバイト先で働けるようになったし、仮にバイトを増やすとしても王国騎士団なんて大変だろうし――」
「待て。バイトをしている……ということは、金銭的な余裕がないのか?」
「今はなんとかやっていますが、バイトがなかったら結構大変ですね」
「わかった。汝の生活費を出そう。その代わり――」
「そこまで世話になるわけにはいきませんよ。バイトは楽しいですし、いい経験にもなります」
そのバイトというのが勇者パーティへの臨時参加と魔王軍の手伝いであることは、ハヤブサもイナズマも知らない。
彼らがバイトと聞いて思い浮かべたのは、接客業や清掃員だ。
どんなバイトなのか聞こうともしなかった。
「ということなので、魔術師同盟の代表の方も、僕の勧誘は諦めた方がいいですよ」
さらっと。
ハヤブサの後ろの方に視線を送りながら言うレブル。
イナズマもその方向を確認してみたが、誰かがいるようには思えない。
しかし――。
「まさか気づかれるとはね。やるじゃん」
突然姿を現したローブ姿の女。
ローブを着ているのにも関わらず、スタイルの良さはなぜだかわかってしまう。
その女は、リーフ・キャメロン。
魔術師同盟の幹部で、スカウト担当だ。今日はシルフィのスカウトに来るつもりだったが、今はすっかりレブルの実力に惚れ込んでいる。
「あっけなく振られちゃった騎士団長さんには同情するよ。でも、レブっちは、まだうちの説明聞いてないよね?」
ニヤッと笑いながら、距離を詰めてくるリーフ。
レブルは警戒する様子こそ見せないものの、彼女の話に興味があるというような表情はしなかった。
「うちは魔術師同盟の幹部のリーフ・キャメロン。同盟、なんてちょっとお堅い感じだけど、実際は超気軽に働ける組織なんだよ~」
「僕の勧誘は諦めた方が――」
「うち、レブっちみたいに可愛い男子好きだからさ。同盟に入ってくれたらうちの権力ですぐに幹部にして、ずっと可愛がってあげるけど」
「それだと頑張りがいがなくなりませんか?」
「へ?」
予想外の反応に、困惑するリーフ。
こうなれば食いつくと思い込んでいた彼女にとって、レブルの返しはまさにイレギュラーである。
「そんな簡単に幹部になると、周囲からの嫉妬とかも大変そうですし……遠慮しておきます」
これ以上聞くつもりはないと言わんばかりに、一礼してから控え室に戻っていくレブル。
控え室外の通路に残ったのは、レブルに振られた剣術学園代表、王国騎士団長、魔術師同盟幹部の3人だった。




