第26話 剣術学園に転入してほしいと土下座された件
王都三大学園合同大会は、学術学園代表、レブル・コスキートの優勝で幕を閉じた。
レブルは魔術対決において、シルフィもオーラも完膚なきまでの実力差で叩き潰したのだ。
学術学園の生徒が大会を制した。
それだけでも前例のないビッグニュースだというのに、レブルの剣術と魔術は学生のレベルを遥かに超えているということで教師陣の話題となった。
視察に来ていた王国騎士団と魔術師同盟の関係者たち。
彼らもレブルと接触する機会を待ち構えている。
「ねえレブル、これ、どういうことなの?」
表彰式が終わり、代表選手が一度控え室に返されたタイミング。
アイシスはレブルの今の状況を見て、すっかり憤慨していた。
「シルフィさんはまだ完全に回復してないみたいだから、僕が責任を持って支えているんだよ」
「レブルさんの言う通りですわ。まだ全身が痛くて」
レブルの腕に寄りかかり、ほぼハグをするような形でくっついているシルフィ。
彼女はどう見ても元気そうで、その表情はこれまで以上に生き生きしているようだった。
「ちょっとあんた、今の立場を利用してレブルに近づこうとか考えてないでしょうね?」
「何のことですの? わたくしはただ、レブルさんに介抱されているだけですわ」
「あ、わたしも今足くじいたわ! レブル、介抱しなさい」
「それでレブルさんが騙されるわけないでしょう? あなた、もしかしてレブルさんのことが――」
「うるさいわね! べ、別にあんたが嘘ついてるのを注意しただけでしょ!」
ちなみに、レブルはふたりの会話の中心にいる。
ふたりに挟まれながら、無表情で話を聞いていた。
――早く終わらないかなぁ……。
美少女ふたりによる、自分をめぐる言い合い。
多くの男子が望むシチュエーションなのかもしれないが、レブルの頭の中には面倒という言葉しか浮かんでこなかった。
「レブル、ちょっといいか?」
ここで、同じように控え室に返されたイナズマから声がかかる。
彼はすっかりレブルのことを友と認めているようで、少し前まで放っていた嘲笑するような雰囲気はまったくない。
「イナズマ君が呼んでるから失礼するよ。アイシス、僕の代わりにシルフィさんを支えててくれないかな?」
「はぁ? なんでわたしが――いえ……わかったわ」
反発しそうになったが、意外とすんなり頷くアイシス。
――レブルとこの女を引き剥がすチャンスよね。
もしここでアイシスが断れば、シルフィはずっとレブルにくっついていることになる。
それだけは避けたかった。
釣れない男レブルは、シルフィをアイシスに任せて友人についていく。
「レブルさん……!」
「もう歩けないフリはやめなさいよね」
「……しかたありませんね」
「ほら、やっぱりピンピンしてるじゃない」
「レブルさんには内緒ですよ」
「絶対チクってやるんだから」
「あら、意地悪ですのね」
アイシスとシルフィとの間に火花が散っている。
お互いにテンポよく言い合っているが、どこか波長が合うような、そんな気がしていた。
「急に呼び出して悪かったな」
「いいタイミングだったよ。むしろ僕が感謝したいくらいだ」
「そうか……それでだな、レブル。もしお前が良ければ、剣術学園に転入してみないか?」
「転入?」
他の代表選手からは距離を取り、イナズマは控え室外の通路にレブルを呼び出した。
そこで、剣術学園への転入を提案したのである。
「はっきり言って、おれはこれまで、自分より剣術ができる同学年の生徒に出会ったことがなかった」
真剣な表情で告げるイナズマ。
「確かにブルバードはいい好敵手だが、俺との直接勝負で勝ったことはない。だから、結局のところ俺より強い同級生はいなかったわけだ」
「なるほど」
「でも、そこにお前が現れた。もし1年生の時からお前と出会っていれば……調子に乗ることもなく、もっと日頃の鍛錬に力を入れていたんじゃないかって思うんだ」
イナズマはレブルの強さを受け入れた。
実力が劣っているということは確かに悔しかったが、それ以上に、嬉しかったのだ。
自分よりも強い同級生。
しかも、その実力は騎士団や勇者にも通用しそうだ。
そこまでの実力差があると知ってしまうと、対抗心よりも、純粋な敬意が強くなっていく。
「剣術学園の転入っていうのは……学術学園を辞めなければならないってことかい?」
「それは……そうなると思うが……」
「それなら、その誘いは受けられないかな。嬉しいけど、とりあえず僕は学術学園を首席で卒業したいからね」
「首席で卒業――まあ、レブルなら当然できるだろうな」
「そうとも限らないよ。前回は試験の総合成績でアイシスに負けたからね」
話の趣旨が変わり始めている。
それを察知したイナズマは、もう一度だけレブルにお願いするべく、地面に膝をついた。
それは所謂、土下座だ。
「頼む! 学術学園に通いながらでも剣術学園に通えるよう、おれがどうにか教師に言ってみる! もしそれで許可が下りたら、お前も剣術学園に――」
「その必要はない」
「――ッ」
通路に響く渋い声。
それは明らかに生徒のものではなく、レブルの知る教師のものでもなかった。
通路の曲がり角から姿を見せたのは、レブルでさえも気配を感じ取ることのできなかった、白髪の老剣士である。
イナズマは彼の姿を見た瞬間、驚きのあまり口を開いたまま固まってしまった。
「イナズマ君、この人は誰だい?」
「……」
老剣士に聞こえないように小声で聞くが、イナズマは絶句している。
「儂はハヤブサ・シューティングスター。王国騎士団長をしている」
老剣士の肩書きを聞き、イナズマの動揺ぶりには納得できたレブル。
しかし、彼の頭の中には別の驚きがあった。
――このおじいさん、現役の剣士なんだ……生涯現役ってこういうことなのかな。




