第25話 絶世の美少女を丸焦げにして恋焦がれさせてしまった件
学術学園代表のレブルVS魔術学園代表のシルフィ。
ふたりが行うのは魔術対決だ。
普通に考えれば、魔術学園出身のシルフィが圧倒的に有利である。
しかし、会場全体に広がる雰囲気は、レブルの勝利もあり得ると期待するようなものに変わっていた。
それは少し前の剣術対決。
レブルが学術学園の生徒とは思えない、騎士団顔負けの剣捌きを披露して圧勝したことが大きく影響している。
「とりあえず、凍らされることがないように頑張るよ」
レブルのその言葉を最後に、戦闘開始のコールがされた。
会場全体の注目が、レブルとシルフィだけに集まっている。
全員、シルフィの高い魔術の実力を知っていた。
しかし、レブルの魔術の実力に関しては、知っている者がひとりもいなかった。
「そうおっしゃるのなら、骨の髄まで凍らせてあげますわ」
「意地悪なことするね」
シルフィが魔術を行使する。
これまで、シルフィに挑んだ挑戦者たちを一瞬で氷漬けにした必殺技。
彼女の足元から一気にレブルの方へ向かう冷気。それは一瞬にしてレブルを覆い尽くし、あっけなく凍りつかせた。
巨大な氷の結晶に囲まれ、自分も完全に氷漬けになってしまうレブル。
会場の全員が溜め息を漏らした。
それは、期待が外れたことの溜め息というよりは、レブルが魔術まで優れていなくて安心したという意味の溜め息がほとんどであった。
大したことないですわね、と勝ち誇った笑みを浮かべるシルフィ。
審判もレブルの敗北を大々的に宣言しようとした、その時だった。
「――ッ! これは……」
シルフィの表情が一変する。
余裕の笑みから、険しい表情へと歪んだ。
「まさか……わたくしの氷を溶かして……」
「手加減はしないんじゃなかったのかい?」
「え……」
「僕を殺さないようにぬるい氷にしてくれたことはありがたいけど、少し拍子抜けしてしまったよ」
氷はもうない。
溶けて水になり、戦場の地面に浸み込んでしまった。
いつも通りあっさりとした顔を見せるのは氷漬けになったはずのレブルだ。
彼は一切濡れておらず、髪の毛まで乾ききっていた。
凍りついたのは会場とシルフィだった。
あれだけの威力の氷魔術を食らっておきながら、平気な顔をして立っているのだから。
無論、シルフィは手を抜いていない。
むしろ、これまでの戦い以上に気合いを入れて魔術を行使した。それは前までの戦いを見ていた観客にもわかっている。
だからこそ、全員が困惑していた。
あの威力の魔術を平気な顔で回避できる――いや、堂々と受けながらも、それを無効化できる力。それをレブルは持っていたのだ。
「次は僕の番だね」
レブルは悪意のない笑みを浮かべる。
――来る――ッ!
命の危機を感じたシルフィは、防御のために土魔術を行使して壁を作った。だが、それでもきっと足りないだろう。
そこで、氷魔術でさらなる防御の土台を作りつつ、風魔術を放ってレブルを自分から遠ざけようとした。
しかし――。
「燃えろ」
レブルは一切動じない。
最高質力の風魔術を当てているというのに、レブルの足が動くことはない。2本の足で立ったままだ。
燃えろ、という一言だけで行使される、炎魔術。
戦場全体が紫の炎に包まれる。
シルフィも、魔術を行使した張本人であるレブルも、その炎の中に入っていた。
『直ちに戦闘を中止してください! この勝負はレブル・コスキートの勝利です! ですから、直ちに戦闘を中止してください!』
会場に響くアナウンス。
それを聞き、レブルは魔術の行使を中断した。
質力の調整はできないものの、オンとオフの切り替えはできる。
炎が一瞬にして消え、そこには煙を上げながら倒れるシルフィの姿があった。観客の間で悲鳴が上がる。
だがその悲鳴は、シルフィを称賛するものではない。
全身大やけどをし、すっかり焦げてしまったシルフィの姿。
ファンにとって、シルフィの美しい姿がこうして一瞬にして崩れ去るという光景は……悪夢だ。
『治癒師の方々は、直ちにシルフィ選手の治癒を!』
医務室で待機していた治癒師たち。
10人以上の治癒師が、シルフィのもとへ駆け寄る。
「これは……不可能だ。治癒できない」
「もう手の施しようが……」
治癒師たちの絶望を見て、観客も絶望する。
今まさに起こっているのは、取り返しのつかない悲劇だ。
「いや、王都で1番腕のいい治癒師がいるだろう? ナディア・エリクソンを連れてこい!」
動揺し、焦り、絶望する会場。
そんな中、ひとりだけ平常心を保っている少年がいた。
それこそ、この悲劇を生み出した張本人であるレブルだ。
真剣勝負だったため、彼の責任にはならないが、シルフィがこうなったのは彼に原因がある。
「ナディアさんは今日、王都の外で活動中です」
「はぁ? どうして君がそんなことを――」
「一応僕も勇者パーティと関わりがあるので」
「だいたい、君のせいでこんなことになったんだぞ! わかっているのか?」
「真剣勝負で手を抜くことは相手に対する侮辱です」
レブルはそう言い、まだかろうじて意識を保っているシルフィの額に触れる。
「コスキートさん……いえ……レブルさん……」
「無理して話さなくてもいいよ」
「あなたは……凄いお方なのですね……」
「これでも、僕は少し怒ってるんだよ。シルフィさんに対して」
口ではそう言うが、表情は優しい。
「……」
「優しさがそうさせたのかもしれないけど、君は僕との対決で手を抜いた。違うかい?」
「……わたくしは……本気でした……」
「変に気を遣わなくていいよ。僕はわかってるから」
全然わかってない。
そうシルフィは思った。
だが、それを主張する元気はない。もうこのまま死んでしまうのかもしれない。
「とりあえず、ナディアさんが来るのは無理だと思うから、僕が治療してみるよ」
周囲の冷たい視線を浴びながら、レブルは魔術を行使する。
彼は普段から治癒魔術を使うナディアを見て、こっそり学習していた。
そして彼の魔術はいつの間にか、ナディア並みの高度な治癒魔術にまで昇華されていた。
シルフィの全身に広がる黄金の輝き。
焼けた皮膚を潤わせ、傷ついた臓器を癒し、エネルギーを送る。
そして――。
「レブルさんっ」
気づけば、シルフィは体を起こしてレブルに抱きついていた。
その姿は以前よりも美しく、さらに肌のハリが増したように輝いている。
「わたくしに、魔術を教えていただけませんか?」
「え?」
唐突な頼みに、固まるレブル。
シルフィの頬はほんのり火照っていて、鈍感ではないレブルは何かを予感した。
「魔術だけでなく……他のことも、いろいろと」
《キャラクター紹介》
・名前:シルフィ・ブラウエン
・性別:女
・年齢:17歳
・種族:ヒューマン
・身長:166cm
ビクトリア魔術学園の優等生で、氷魔術を得意としている。魔術学園では男女を問わず絶大な人気を誇るマドンナ的存在。




