第24話 危うく魔王軍でのバイトのことを言ってしまいそうになった件
魔術対決が始まる。
対戦形式は先ほどと同様、同じ学園の生徒を除く総当たり戦だ。
ちなみに、この大会の前日には、それぞれの学園単体によるトーナメント戦が行われている。
会場にいる全員が、シルフィ・ブラウエンの魔術の巧みさを知っていた。
彼女の妖艶な美貌と合わせて、彼女の魔術はまさに至高そのもの。
魔術学園でのトーナメント戦を勝ち抜き、優勝を飾ったのは当然シルフィであった。
毎年必ず、この王都三大学園合同大会は開催されているが、学術学園の生徒が筆記以外の種目で活躍したことはない。
剣術学園の生徒が魔術対決で優勝したり、魔術学園の生徒が剣術対決で優勝する。
それも珍しいことではあるが、これまでに何度か起こっていることだ。
だからこそ、学術学園の優等生レブル・コスキートは異質であり、例外的な存在だった。
前例のない学術学園の生徒による無双。
それを、レブルは作ってしまった。もし彼が魔術対決でも優勝するようなことがあれば――以後、伝説として語り継がれるであろう。
そして、誰も彼を放っておかない。
剣術学園及び魔術学園からのスカウトはもちろんのこと、王国騎士団や王国名誉魔術師同盟からも声がかかるのは間違いない。
実際、騎士団や魔術師同盟の代表者も、才能ある生徒をスカウトするために昨日から客席に腰を下ろしていた。
「レブル、あんたって、魔術使えるの?」
「一応ね」
まだ控え室にいるレブルとアイシス。
戦場では、シルフィとイナズマの魔術対決が行われている。
イナズマはそもそも魔術がそこまで得意ではないため、あっけなく敗北した。
アイシスはレブルが魔術を使えると聞いても驚かない。
学術学園は学問を研究するための学校だ。
魔術もまた、学問のひとつ。成績優秀な生徒が魔術を使えたとしても、驚くことではない。
それに、魔術というものは少しの才があれば努力で花開く。
レブルのことだから、そこら辺の魔術学園の学生より魔術ができるんだろうなと、そう勝手に思っていた。
「シルフィ・ブラウエンには勝てそう?」
冷や汗を流しながら聞くアイシス。
現在シルフィは、戦場で無双していた。
美しい顔は氷のように冷たく、得意の氷系魔術で対戦相手を凍らせている。
イナズマの後に登場したブルバードも、彼女の氷魔術に一瞬で敗北した。
――なんでわたしまで、あんな化け物と戦わなくちゃいけないのよ……!
運営への文句はこれで何度目だろうか。
そもそも、学術学園の生徒をこの大会に出場させることが間違っているのだ。
勝てるわけがないのに。
「魔術にちょっとだけ詳しい僕からしてみれば、シルフィさんの魔術は綺麗で、びっくりするくらい安定してる」
「それって……勝つのは難しいってこと?」
「そうだね。僕の魔術は安定しないんだ。質力を調整することが難しくてね」
質力の調整が難しい。
その言葉に、なんとなくレブルのことがわかってきたアイシスは嫌な予感を覚える。
しかし、彼女がレブルを心配したところで、結果は何も変わらない。
シルフィの無事を祈りつつ、とぼとぼと戦場に向かっていった。
アイシスは魔術が使えない。
非力な自分に苛立ちながらも、そもそも非力だとわかっていながら大会に参加させた学術学園を恨んだ。
そして、シルフィにあっけなく凍らされる前に、降参を宣言する。
痛い目に遭うことがわかっていながら、戦いを始めるなど馬鹿のすることだと判断したからだ。
「賢い選択をしましたのね。さすがは学術学園の優等生ですわ」
「……」
シルフィの称賛さえ嫌味に聞こえる。
実際、本当に皮肉を込めて言ったセリフなのかもしれないと思い、アイシスはシルフィを睨みつけた。
強者は相変わらず美しい笑みを浮かべ、アイシスを見つめ返すだけだった。
アイシスが無傷で退場し、いよいよシルフィへの最後の挑戦者である、レブルが入場する。
剣術対決では圧倒的な強さを誇ったレブル。
そんな規格外に対し、多くの期待の視線が向けられていた。
しかし、どちらかと言うと歓声はアウェーだ。
シルフィは特にファンが多い。同性も、異性も。
彼女の美貌と魔術は、魔術学園の生徒だけでなく、会場全体を魅力しているようだった。
多くの生徒を虜にするシルフィ・ブラウエン。
シルフィコールが鳴りやまない。
それでも、レブルに命を救われた魔術学園の女子生徒や、彼の剣術に惚れ込んだ剣術学園の生徒たち、同じ学術学園の生徒たちは、レブルを応援した。
『レブル君、この大会が終わったら、絶対絶対付き合ってください!』
目をハートにした魔術学園の女子生徒。
彼女のレブルへの恋は一時的なものではないだろう。
今後一生レブルを推していくと決めた。そんな熱い目をしている。
「歓声に耳を傾けるのも良いですが、対戦相手のわたくしのことも見ていただけませんか?」
「そうだね。失礼なことをしたよ」
「コスキートさんの素直なところ、気に入りましたわ」
誘惑するような官能的な表情。
セクシーな視線がレブルに突き刺さる。
しかし、レブルはこの程度で動じる少年ではない。
彼は圧倒的に女慣れしていた。本人に自覚はないものの、女性の誘惑を上手に流す術を身につけている。
「気に入ってもらえて光栄だよ」
爽やかスマイルで返すレブル。
これを見た観客がキャーと悲鳴を上げる。
「女性に人気だこと」
「君の人気には敵わないかな」
「ところで、魔術はどこで習得されたのですか? 学術学園の教育課程に魔術がありますの?」
「必修ではないけど、一応僕も取ってるよ。基礎的なことしかしないけどね。それに、僕が魔術を教わったのは、学校じゃなくて――」
ここで一瞬固まるレブル。
――危ない。魔王軍幹部のことを口に出すところだった……。
危うく魔王軍でのバイトのことを言ってしまいそうになり、口を閉じたのだ。魔王軍との関係がバレてしまってはまずい。
勇者パーティでのバイトのことならまだしも、魔王軍でのバイトのことだけは知られてはならない。
「どうしましたの?」
「なんでもないよ。シルフィさんのように精密な魔力コントロールはできないって言いたかったんだ」
「あら、意外でしたわ。剣術ではあれだけ繊細な動きをされていたのに」
「魔術と剣術は違うからね」
「根本的な意識には、通ずるところがありますわ」
魔術師は杖などを用いることで自身の魔術を大幅に強化することができる。
しかし、この大会において杖の使用は認められていなかった。
杖の性能によっても、勝敗は大きく変わってくるからだ。
それに、レブルやアイシスは自分の杖さえ持っていない。これはどう考えても不公平である。
よって、この魔術対決は純粋な自分の魔力と魔術のみでの対決になっていた。
「とりあえず、凍らされることがないように頑張るよ」
優秀な魔女であるシルフィ。
魔術学園卒業後は、魔術師としての輝かしい進路が待っていることだろう。
そんな魔術師との対決となると、自分も最大限の魔力質力で挑まなければならない。質力調整など、そもそも考える必要がなかったのだ。
最大質力の魔術を放てば、シルフィは受け止めてくれる。
戦闘開始の合図を前に、レブルは魔力を一点に集中させた。




