第21話 剣術学園と学術学園の友情は成立する件
闘技場に広がったのは、大歓声ではなく、困惑。
30秒ほど、誰も何も言わなかった。
静寂が闘技場全体を包む。
ようやく冷静になったのか、観客が次から次に口を開き始める。レブル・コスキートは、一体何者なのか、と。
そして――。
1分もすれば今の状況くらいは整理できるようになってきた。
レブルの勝利で、イナズマの負けだ。
深いことを考えるのは後回しにして、とりあえずはこの結果を受け入れようとしている観客たち。
学術学園の生徒だけでなく、会場にいる全ての生徒、教師が声を上げてレブルの勝利を称賛した。
一方、敗北したばかりのイナズマは、戦場の中央で力なく座り込んでいた。膝の力が抜け、立っていられなくなったのだ。
「大丈夫かい?」
そんな敗者のイナズマに、勝者は優しく手を差し伸べる。
「……ああ」
イナズマはそんなレブルの手を弾くようなことはせず、素直にその手を握り、ふらつく足で立ち上がった。
まだ彼もこの結果を受け入れられていない。
自分が圧倒的な力量差で負けたことが、信じられなかった。
「これは……現実なのか?」
「残念ながら、現実だよ。でも、しかたないよね」
「……しかたない?」
「剣が脆くなっていたんだろう? 運営の人に言えば、もう一度新しい剣で再戦させてくれるかもしれないし、今からでも――」
「いや……俺の剣は新品だった。この試合のために、最高の状態にメンテナンスしてあった……」
「なるほど……武器職人を悪く言うつもりはないけど、新品の剣であれだけ砕けやすいのは危ないね。剣を買う時は気をつけた方がいいよ」
「……」
勝ったのにも関わらず、レブルは喜んだ様子を見せなかった。
それどころか、簡単に砕け散ったイナズマの剣に問題があったとして、再戦を促してきたのだ。
ひねくれた考えを持つ者であれば、このレブルの余裕の行為を挑発として受け取ってしまうかもしれない。
しかし、イナズマは感激した。
他者を思いやる器の大きさ、そして、レブルのこの振る舞いこそが、貴族の間でよく言われる『ノブレス・オブリージュ』なのではないかと。
「レブル、名乗り遅れたが、おれはイナズマ・ストライカー。お前を友と呼ばせてくれ」
今度はイナズマの方から手を差し出した。
彼の鋭い目つきは柔らかくなっていて、以前よりも親しみやすい。
「お前の友人には悪いことを言った。あとで本人に謝罪しておく」
「そうだね。アイシスも怒ってたよ」
「ああ、調子に乗りすぎたな」
レブルはしっかりとイナズマの手を握り、握手を交わした。
それは、学術学園と剣術学園の代表選手同士が、お互いの実力を認め合った瞬間だった。
『きゃー! この2ショット、尊い!』
『イナズマ様とレブル君のカップル……なにこれ、そそるじゃない!』
『不良系イケメンと優男系美少年!』
ふたりが握手する姿を見て、豊かな想像力を膨らませる一部の女子生徒たち。
彼女たちにとっては、この瞬間がこの大会における瞬間最大風速であった。
レブルとイナズマの再戦は行われなかった。
それもそのはず。
イナズマの剣は有名な鍛冶師が時間をかけて作った特注の剣であり、頑丈さには定評があったからだ。
そもそも、剣の性質チェックは試合前に行われていて、問題なしと判断された以上、剣に不備があったと主張して再戦を求めることはできない。
そしてもちろん、イナズマは再戦する気などないし、自分の敗北を完全に認めきっていた。
「よくやったわ、レブル! 最後にあいつと仲良くなってたのはどうかと思うけど、見てて気持ち良かった!」
「ありがとう、アイシス。でも、今回の勝利はたまたまだよ。イナズマの剣が脆くなっていたからね」
「はぁ? まだそんなこと言ってるの? いい加減自分が凄いって自覚しなさいよ!」
「自分の力を過信しすぎると成長が止まる――そう師匠が言っていたんだ」
「師匠って、ベルタ・クリスタンテのこと?」
「あれ? 言ったことないはずだけど……なんで知って――」
「え、あ――なんとなく? そうじゃないかって思っただけ」
アイシスは以前、レブルがシャドウたちと話しているのを見ていた。
そこでベルタが彼の師匠であると知ったのだ。
あの尾行は気づかれていたわけだが、レブルは何を聞かれていたのかまでは深く考えていなかったらしい。
「と、とにかく、あれだけ剣術ができるなら、ブルバードって生徒にもきっと勝てるわ! これで優勝は確実ね」
「どうだろうね。今回は運が良かっただけだと思うけど」
「いいから、とにかく勝ちなさいよね!」
次に行われるのも、剣術学園のもうひとりの代表選手であるブルバードとの対戦だ。
筆記では最下位と、あまり好スタートではなかったが、剣術に関してはイナズマに引けを取らないほどの実力の持ち主だと言われている。
そんなブルバード戦を前に、レブルは気を引き締め直した。




