第18話 軽い剣の素振りで学園図書館を半壊してしまった件
大会当日までの2週間。
バイトのない日はアイシスに呼び出され、毎回異なる剣術講師と剣を交えるレブル。
しかし対決するたびに講師は怯えて帰っていくので、十分な訓練ができずに終わってしまうのだった。
「おかしいわね……このままだと、本番まで間に合わないわ」
「みんなもう諦めてるんだよ、きっと」
「そんなわけないもの! 毎回レブルに怯えた感じで帰っていくから、多分レブルが強かったから――」
「都合のいい解釈だね、それは」
「……そんなことないのに……」
拗ねたような顔で呟くアイシス。
無論、レブルには聞こえていた。
「アイシスが僕に期待してくれているのは嬉しいけど、大会っていうのは普段の成果を見せる場であって、付け焼刃の技を出しても自分の成長には繋がらないよ」
「急にまともなこと言わないでよ……」
弱気になったアイシスを見て、レブルが優しく微笑む。
いつもは強気なアイシスの弱気な姿は、いつも以上に可愛く映った。
「何よ?」
「可愛かったから、つい」
「――ッ」
カーッと顔を赤く染めていく。
また始まった。胸の鼓動が止まらない。
「馬鹿っ!」
アイシスは頬を膨らませながらレブルを睨みつけ、そのまま帰っていった。
――それにしても、明後日が本番かぁ……。
剣の素振りを軽く繰り返すレブル。
彼が剣を振るたびに、周囲の大気は揺れ、学園の窓ガラスが割れる。
――最下位にはならないように頑張ろう。
気合いを入れるため、最後に少しだけ強く素振りした。その被害は学園図書館の半壊である。
家に帰ったレブルは、今から夕食を作らなければならないことを思い出して溜め息をついた。
保存していた食材はもうない。
近くの売り場に買いにいかなければならないようだ。
ちなみに、勇者パーティでバイトを続けることになったので、ベルタの家にはもう泊まっていない。ベルタはなかなか諦めてくれなかったが、これまで通り、レブルは一人暮らしを望んでいた。
無論、勇者パーティの正式メンバーになるという話も断っているので、あの豪邸に住むこともない。
トントン。
食料を買いにいくかと立ち上がったレブルの耳に、ドアをノックする音が入ってきた。
トントントン。
最初はゆっくりとしたノックだったが、2回目は少しだけ強い。
慌ててドアを開ける。
「お兄様、来ちゃいました」
てへぺろしながらドアの前に立っていたのは、つい先日レブルの妹的ポジションになったセリカだ。
彼女は勇者パーティの豪邸に住むメイドで、レブルが泊まった際は専用メイドとしてあてがわれた。
一度泊まって以来会っていなかったが、こうしてセリカの方から会いにくるとは。
レブルは兄的ポジションとして、少しだけ嬉しくなった。
「来ちゃったんだね」
「はい、お兄様に会いたくて」
可愛い妹だ、とレブルは思った。
本当に妹がいたらこういう感じだったのだろうか。
親も兄弟もいない孤児のレブルにとって、妹のような存在ができることは新鮮だった。
メイド服を着たセリカは、ふわっとレブルの胸元に飛び込む。そのままペタッとくっついた。
「私の頭、撫でてください」
微笑ましい気分になりながら、優しく妹の頭に手を当てる。
「にゃー」
レブルの心が癒された。
「そういえば、どうやって僕の家を――」
「尾行しました」
「……尾行したんだね」
「はい!」
レブルは衝撃を受ける。セリカの尾行にはまったく気がつかなかった。完全に不覚だ。
「上手に尾行できていましたか?」
「うん……上手すぎるくらいだよ」
Sランク冒険者であるベルクの尾行にも気づくレブル。
そんなレブルが可愛らしいメイドの尾行に気づかなかったとは。
頭を撫でながら、恐ろしい女の子だと一瞬動揺するレブル。
「ここに来る許可は取ったのかい?」
「いえ、勝手に来ちゃいました。でも、お兄様の専属メイドであることは変わらないので、いいですよねっ」
それはレブルが判断することではないが、とりあえず頷いておく。
立ち話をするのもアレなので、レブルは楽しそうに揺れるセリカを家に入れた。
ついにやってきた王都三大学園合同大会。
ビクトリア学術学園、ビクトリア剣術学園、ビクトリア魔術学園の生徒が一斉に集まる。
会場は剣術学園の巨大な闘技場だ。
生徒は6年生だけが集められているので、十分に収容できる。
実は前日にそれぞれの学園の生徒同士によるトーナメントも行われているため、代表生徒同士の頂上決戦は大会2日目であった。
「見て。あれが剣術学園の代表選手、ブルバードとイナズマよ」
控え室にいるレブルとアイシス。
距離を取って準備運動をしている少年ふたりを指さしながら、アイシスが説明する。
ライバルになる剣術学園の代表生徒、魔術学園の代表生徒のことはしっかりと把握していた。
「そしてあの女子生徒ふたりが魔術学園のオーラとシルフィ」
「ちゃんと調べたんだね」
「レブルには優勝してもらわないといけないから当然よ。だから全力でやりなさいよね」
「……わかったよ」
レブルとアイシスでは熱力に差がある。
もちろんレブルも頑張ろうとは思っているが、本気で優勝を目指そうと思っているわけではない。
ただ、優勝できるものならしたい、という気持ちはある。
「剣術学園のイナズマが近づいてきたわ」
「え?」
チラチラ見ていたことがバレたのか、不機嫌そうな顔で接近してくる剣術学園の代表生徒。
逆立った金髪に赤いメッシュが入った、派手な男子生徒だ。
きつい目つきは乱暴そうな印象を与える。
「おい、お前らが学術学園の代表か?」
「そうだけど。文句があるなら言ってみなさいよ」
強気な態度に対してさらに強気に出るアイシス。
「戦えもしないくせに、よくこんな大会に出ようと思ったな。同情するぜ」
「はぁ? あんた、何様のつもり?」
「同情してやってるだけだ。最下位は確定だもんな」
「ちょっとレブル、このクソガキに言ってやりなさい!」
「僕はいいよ。彼の言うことも一理あるし」
さらっとした返しをするレブルに、アイシスがキレる。
「あんたどっちの味方よ? もういいわ! 絶対優勝しなさい! 優勝しないと許さないから!」
「……」
そんなやりとりを見て笑ってしまうイナズマ。
それは嘲笑だった。
「優勝とか調子乗ったこと言うなよ。お前も大変だな。こんなうるさいメスガキにピーピー言われて」
「そうかな。アイシスは優しくて賢い女の子だと思うけど」
「……まあいい。その女が最下位になれば、お前が最下位になることだけは回避できるぞ。せいぜい頑張れ」
「どうも」
突然メスガキ呼ばわりされたことに腹を立てたアイシスだったが、その直後にレブルが自分を庇ったとわかって胸がキュンとする。
すっかり情緒不安定だ。
しかし、彼女の怒りは消えていなかった。
「レブル、優勝するのは確定事項だけど、あのクソガキと戦う時はとことんボコボコにしなさい。できるものなら……わたしがあいつをぐちゃぐちゃにしてやりたいわ」




