第13話 執事とメイドのいる大豪邸に連れてこられた件
レブルが連れられたのは、勇者パーティの本拠地だ。
勇者パーティは王国政府から指定された優秀な首領が、各地から優秀な人材を集めて構成される。
要するに、勇者パーティは政府公認の団体。
この広々とした豪邸も、彼らのために政府から与えられたものだったりする。
高さのある壁と堀で囲まれていて、入り口には大きな門。
正面には政府から派遣された見張りが24時間勤務している。
レブルがこうしてパーティの本拠地に足を踏み入れるのは、実は初めてだった。
これまでは冒険者ギルドで待ち合わせることがほとんどで、バイトとして、放課後だけの付き合いだったからである。
仮に彼が正式なパーティメンバーとして登録されることになれば、レブルもこの豪邸で生活することができるわけだ。
――まあ、この豪邸に住むなんて、僕には無理な話だけど。
レブルは単に謙虚なだけではない。
彼には純粋に欲がなかった。
豪華な暮らしをしたい、美味しい料理を食べたいというような、人間なら当然抱くような憧れや欲が、彼には足りなかったのだ。
「その少年は関係者ですか?」
「この人はレブル・コスキート。俺の大先生だ」
「大先生?」
「今日は客としてここに招いている」
「かしこまりました」
門番をしていた男はシャドウの説明に頷くと、反対側にいる門番に合図をして門を開いた。
初めて入る勇者パーティの大豪邸に、胸を躍らせるレブル。
門をくぐると、巨大な噴水のある庭が広がっていた。
そして、庭を抜けるとそれ以上に巨大な大豪邸が。
ベルタが暮らしている家もそれなりに大きなものだが、それとは比べものにならないほどのサイズ感だ。
こちらはメンバー5人どころか、メイドや執事まで一緒に暮らしているというから規模が違う。
「凄いですね……いつもここで生活してるんだ。へぇ」
「レブル大先生も明日には住めるようになるぜ」
「いやいや、まさかねぇ……」
苦笑いで済ませようとするレブル。
彼にもシャドウが本気でそう言ってきているのが伝わっていた。
仮に住めると言われたとしても、その誘いに乗らないのがレブルだ。
「あんたの学校からも近いし、都合が悪いこともないでしょ。なんでそんな頑固なわけ?」
「そう言われても……」
ナディアが呆れた表情でレブルに問い詰めるが、シャドウが制止したことで彼女も落ち着いた。
――ほんと、意味わかんない。
他を圧倒できるだけの力、またそれだけの立場を与えられながら、調子に乗ることなく謙虚であり続ける。ナディアには到底できないことだ。
だからこそ、レブルという欲のない少年が不気味に映った。
「レブルちゃん……?」
大豪邸の玄関に入ると、そこには困惑した様子のカリーナがいた。
彼女は今日も、王都の外れの森にレブルの捜索に行こうとしていたのだ。
ホーク、ホーネットと共に毎日出かけていたが、今日はふたりが別件で不在のため、シャドウたちが戻ってくるタイミングで外出しようと考えていた。
「良かったぁ!」
涙をポロポロと流しながら、勢いよくレブルに飛びかかる。
豊満な胸がレブルに当たったことで、柔らかいクッションとなって衝撃がやわらいだ。
何度も頬にキスをし、抱きしめるレブルが本物なのか確認する。
どうやら本物だったらしい。
この困ったような若干引いているような表情は、間違いなく彼女の知っているレブルのものだ。
「ふたりが見つけてくれたの?」
シャドウとナディアを見て、感謝に満ちた笑みを浮かべるカリーナ。
「実は――」
大豪邸の玄関で、シャドウは全てを話した。
ずっと前からレブルのことを嫌っていたこと。
前回のダークウルフの依頼は自分が偽造したこと。
そして、二手に分かれてレブルを穴に落として殺そうとしたこと。
誤算だったのは、レブルが生きていたことだ。殺されたどころか、ピンピンした様子でギルドまでやってきた。
「……」
話を聞いている間も、カリーナはレブルを抱きしめ続けていた。
一度も話を中断することなく、最後まで真剣な表情で話を聞いていた。
最初に彼女の頭を駆け巡ったのは、シャドウとナディアに対する激しい怒りだ。
愛する弟分であるレブルは何も悪くないのに、パーティの先輩であるシャドウたちに殺されそうになった。
実際はまったく通用しなかったわけだが、殺そうとされた事実は変わらない。
自分より年上で、それでいてパーティの先輩であるシャドウとナディアに対し、本気で攻撃を仕掛けることも考えたが、そんなことをしてもレブルは喜ばないだろうなと冷静になる。
カリーナはレブルの頭を優しく撫で、ゆっくりと彼の体を離した。
「レブルちゃんは……このふたりのこと、どう思ってるの?」
「僕はどうも思ってないよ。ちょっといたずらされただけだし」
「いたずらって……」
穴に落とされたのが自分だったら死んでいただろうなとカリーナは思う。
レブル以外の人間であれば、間違いなく死んでいる。
そんなレベルの殺人未遂を、ちょっとしたいたずらで済ませることができるなど、信じられない。
だが、カリーナはすでにレブルが異常であることに気づいていた。
それは首領のホークも同様だ。
「全ての判断はホークさんに任せるわ。もちろん怒ってるけど……まずはレブルがここにいるだけで十分」
そう言って、カリーナはレブルと同じような、寛容な笑みを浮かべた。
数時間後。
本拠地に帰還したホークは驚いた。
レブルが平気な顔をしてリビングにいるのだ。
カリーナにくっつかれながら、シャドウに熱い眼差しを向けられながら。
――どういうことだ……?
一緒に任務を終えて帰ってきたホーネットと共に、シャドウの説明を聞く。
そして――。
「シャドウ、ナディア、訓練室に来い。お前たちのやったことの罪の重さを、しっかりとわからせてやる」
鬼のような顔をした赤髪オールバックの青年は、ふたりを引きずって訓練室に連れていった。
「ふたりはどうなるの?」
カリーナに聞くレブル。
リビングに残ったカリーナとホーネットは、静かに溜め息をこぼした。
「ホークさんは曲がったことが大嫌いなの。ふたりがレブルちゃんにやったことみたいに」
「それで、ふたりは訓練室で一体――」
「地獄。私はそれしか知らないわ」
カリーナはホークに怒られた経験がない。
だからあくまでも、噂に聞いた話だ。
だが、シャドウの話を聞いて徐々に変わっていくホークの表情を見れば、彼がどれだけ腹を立てているのかはわかった。
「それはそうとレブルちゃん、せっかくだし、今日はここに泊まっていったら?」




