第11話 いつの間にか大先生になってしまっている件
「「レブル……?」」
冒険者ギルドに突如として現れた亡霊。
死んだはずのレブルが、自分たちが殺したはずのレブルが、今こうして話しかけてきている。
最初はそんな想像を膨らませたが、5秒もすればこの人物が本物のレブル・コスキートであることがわかった。
肌の色も良く、服装にも清潔感があり、少なくとも露出している部分の肌に傷はない。
そこから導き出される結論は、レブルはどうにかしてあの穴から脱出した、ということになる。
しかし、どうやって……?
「レブル、お前……死んだはずじゃ……」
「まさか。あれで死ぬわけないじゃないですか」
「……は?」
「僕を落とし穴に落としたのって、遠回しに僕を助けようとしてくれていたんですよね?」
嫌味のない笑み。
やや疲れているような表情なのはいつも通りだ。
いつも通りの優しい笑みを浮かべるレブルの一言。
シャドウもナディアも信じられない。
「ちょっと待って。あんた、まずどうやってあの穴から出たのよ?」
「そう言われても……ジャンプして――」
「ジャンプ!?」
ナディアの声がギルド内に響く。
周囲の冒険者の注目及び受付嬢からの注目を集めたが、それも一時的なものだ。
少しすれば周囲からの関心や興味も薄れていく。
「あの岩はどうやって突破した? あの状況で普通にジャンプしたら頭ぶつけて死ぬぞ」
今度はシャドウが問いかける。
「殴ったんですよ」
「殴った……?」
「ジャンプと同時に殴って、岩を吹き飛ばすんです。簡単に出られるような仕掛けを作ってもらってたみたいで」
無論、簡単に出られる仕掛けなどなかった。
レブルが勘違いしているだけだ。
シャドウは深い溜め息をついた。
レブルは異常だ。
彼の言っていることは馬鹿げている。
しかし、信じないわけにはいかない。実際ここにケロッとした顔で存在していることがその証拠だし、そもそもレブルが嘘をつくとは思えない。
嫌っていたとはいえ、レブルが嘘をつけない性格であることはしっかりと理解し、認めていたのだ。
「それで、遠回しに助けるとか助けないとかの話は?」
またナディアが聞いた。
レブルの発言に対する疑問その2である。
「実際僕はあのパーティのレベルに見合わないですし、ああいう形で僕を強制的にパーティから抹消して、新しいバイト先を探させようと――」
「もういい。それ以上言わないで」
ナディアは頭をぼりぼりかきながら、やってられないと酒をグイッと飲んだ。
ここで、シャドウもナディアも気づいた。
レブルが生きていてくれたことが嬉しい。
そして、彼を通して、何よりも重要なことを学ぶことができたのではないか。今後生きていく上で、本当に必要な教訓を得ることができたのではないか。
その教訓とは、受け入れることの大切さだ。
彼らはレブルに嫉妬していた。彼らはレブルを拒絶し、受け入れようとしなかった。
そして、自分のうちに秘めた嫉妬心を受け入れる努力も、彼らはしなかった。嫉妬心を受け入れられなかったことで、レブルを殺そうなどと、罪深き悪感情が生まれてしまったのだ。
「完敗だ」
シャドウはそう小さな声で言うと、椅子から勢いよく立ち上がり、地面に両膝をついた。
体が向いている方向はレブルである。
――こんなところで土下座するのか……。
土下座を察知し、すぐにやめさせようとするレブル。
だが、シャドウは頷かない。
正座したまま姿勢を正し、頭を勢いよく地面につけた。
「本当に悪かった!」
「……」
「こんなことで許してもらえるとは思ってない。首領たちにも本当のことを伝えるし、自首して刑務所に――」
「いや、そんなことしないでください。全然大したことないので」
「大したことないって――俺はお前を殺そうとしたんだぞ!」
さっきよりも強い周囲からの視線。
しかし、冒険者同士で殺し合いが起きることもよくある。
冒険者にとって、その話題はそこまで珍しいものではない。
勇者パーティに所属するメンバーがそれを口にしたことは問題かもしれないが、ホークが一緒にいなければ、シャドウが勇者パーティの一員であるという認識は薄い。
「そう言われても、あの穴に落ちたくらいで死ぬわけないし……ちょっとした嫌がらせみたいなものですよ。そんなに謝らなくても――」
「凄いなお前は! もう弟子入りしたいくらいだよ! てか弟子にしてくれ!」
「えぇ……」
気まずそうな表情を作り、困った様子を見せるレブル。
助けを求めるようにナディアを見る。
「あたしはあんたに弟子入りするつもりなんてないけど……悪かったとは思ってる」
「おいナディア、その言い方はないだろう。レブル大先生にもっと敬意を――」
「あんたはふざけんな! いい加減にしろ」
「俺のことはともかく、もっとしっかりレブル大先生に謝れ」
――いつの間にか大先生になってるんだけど。
レブルとしては、早くこの場を丸く収めたいところ。謝罪を受け入れ、また勇者パーティの補助メンバーとして受け入れてもらいたい。
「……あの時は思いっきり蹴ってごめん」
椅子に座ったままだったが、ナディアにしては真剣に謝った方だ。
彼女は反省するという言葉が嫌いで、人に謝罪することは滅多にない。
今回はさすがに罪の重さを感じたのか、本気で反省している様子だった。
レブルが現れる前までに見せていた後悔が、今の彼女に反省を促しているのだろうか。
「てか、なんであんたってこんな強いわけ?」
最後に――。
シャドウもナディアも、そしておそらくホークたちも。
レブルに抱く当然の疑問をぶつけた。




