四街道クロスポイント――読み違えた作戦参謀
千葉県四街道市。
千葉市と佐倉市に挟まれ、都心からもアクセスしやすい住宅都市でありながら、古くから街道が交わる交通の要衝として知られる街である。大型商業施設、住宅街、物流道路、旧道、緑の残る一角が混ざり合い、派手さはないが、動線を読むには意外と厄介な場所だった。
ヒロ室に入った情報は、ジェネラス・リンクの関係者が四街道市内で極秘の受け渡しを行うというもの。
参加メンバーは、一条知佳、柏木理世、水無瀬澪、南部沙羅、月島小春、館山みのり、杉山ひかりのグレースフォース、そして神代なつめ。
なつめは高知市出身。現在は千葉市花見川区在住で、国道16号線界隈は庭のようなものだった。土佐の突進娘と呼ばれるだけあって、言動はガサツ。だが、周囲をよく見ており、意外にも説明がうまい。
作戦会議で、知佳がモニターに地図を映した。
「過去の逃走パターン、交通量、監視カメラの死角、配送車両の動きを重ねると、敵は北側の物流エリアへ逃げる可能性が高いです」
理世は腕を組む。
「今回は違いますわ。四街道の旧道側へ流れるはずです」
知佳は首をかしげる。
「そうかな。物流道路の方が逃走後の車両接続が速いと思うけど」
理世は涼しい顔で言う。
「敵もそれを読まれることは分かっています。今回は裏をかいてくるでしょう」
みのりが控えめに言った。
「理世さん、知佳さんのデータ、けっこう当たりますよ」
小春も頷く。
「コネチカットパイセンの予測、怖いくらい当たるぞ」
理世は少しむっとする。
「統計は万能ではありませんわ」
澪がぼそっと言う。
「意地」
理世が振り向く。
「何か?」
「別に」
沙羅は面白そうに笑っている。
「また始まりましたわね」
ひかりは資料を見ながら冷静に言う。
「双方の案を折衷する形もありますけど」
理世はきっぱり言った。
「今回は私の作戦でいきます」
作戦はこうだった。
澪と沙羅が囮。
ひかりが陽動。
みのりとなつめが挟み込む。
小春が周辺誘導。
知佳は後方からデータ補助。
なつめは地図を見ながら、腕を組んで唸った。
「うーん、理世の言う道も分からんことはないけんど、こっち逃げたらズドーンと16号に出られるき、ワシならこっち行くがやけどな」
理世は言った。
「敵は単純ではありません」
なつめはあっさり返す。
「単純な道が一番逃げやすいこともあるがよ」
小春が笑う。
「なつめさん、めちゃくちゃ現場っぽい」
なつめは胸を張る。
「この辺は庭みたいなもんじゃき」
任務当日。
四街道の街は一見穏やかだった。買い物客、駅前の人波、郊外道路を走る車。だが、その裏でジェネラス・リンクの工作員が動いている。
ひかりが陽動を開始し、澪と沙羅が予定通り敵の注意を引く。
小春は通行人を自然に誘導し、みのりが冷静に周辺を確認。
理世の作戦は序盤、見事にはまった。
「予測通りですわ」
理世が小さく呟く。
だが、その直後だった。
敵が旧道へ向かわない。
急に進路を変え、北側の物流道路方面へ流れた。
知佳が予測していたルート。
理世の顔色が変わる。
「……進路変更?」
小春が無線で叫ぶ。
「理世、パイセンの方に行ったぞ!」
澪が静かに言う。
「だから言った」
沙羅がため息をつく。
「これは少々まずいですわね」
ひかりも冷静に報告する。
「陽動が外れました。敵、車両接続地点へ向かっています」
理世が指示を立て直そうとするが、敵の動きが速い。
その時、なつめの声が無線に響いた。
「待っちょれ! そっち行ったら次の交差点で詰むき!」
みのりが聞く。
「なつめさん、本当ですか?」
「ほんまじゃ! そこから先は道がグネグネしちゅうけど、車はスッと出られん! ワシが先回りする!」
なつめは走った。
擬音交じりに説明しながら走った。
「ここをダーッと行って、信号をスパーンと抜けて、駐車場の横をギュイーンと回れば先に出られる!」
小春が無線で呟く。
「説明が雑なのに分かるの何なんだよ」
知佳が感心する。
「地元感覚ってすごいね」
なつめは本当に先回りした。
物流道路へ抜けようとした敵の前に、突然現れる。
「はい、そこまでじゃ」
敵が驚いて足を止める。
そこへみのりが回り込み、澪と沙羅が後方を塞ぐ。
ひかりが逃走補助車両を止め、小春が周囲の一般人を安全圏へ下げる。
任務完了。
結果的には成功だった。
だが、作戦としては理世の読みが外れたことは明白だった。
帰還後、ヒロ室ミーティングスペース。
理世は珍しく黙っている。
知佳が穏やかに言った。
「任務は成功したし、理世さんの初期配置も悪くなかったと思うよ」
理世は視線をそらす。
「慰めは不要ですわ」
そこへなつめが缶コーヒー片手にやって来る。
「理世」
「何ですの」
なつめは遠慮なく言った。
「今回は偶然うまくいっただけじゃ」
室内が静まる。
「おんしゃ頭はえいがやろ」
理世が固まる。
「……」
「ほいたら意地張るなや」
小春が口を押さえる。
「なつめさん、直球すぎる」
彩芽はいないのに、いたら絶対「刺さったべさ」と言いそうな空気だった。
なつめは続ける。
「知佳の数字、当たっちょったろ。なら使えばえい。全部信じろとは言わん。けんど、見んふりするがは損じゃ」
理世は唇を結ぶ。
知佳は慌てて言う。
「なつめさん、そんなに強く言わなくても」
なつめは知佳を見る。
「知佳は優しすぎるがよ。こういうんはズバッと言わんと分からんき」
小春が頷く。
「確かに理世にはズバッと行った方が効く」
理世が睨む。
「小春さん」
「はい黙ります」
沙羅は扇子でも持っていれば仰いでいそうな顔で笑う。
「これは珍しく痛快ですわね」
澪は静かに言う。
「データは見た方がいい」
ひかりも頷く。
「知佳さんの分析と理世さんの作戦が合わされば、もっと精度が上がると思います」
みのりも柔らかく言った。
「四街道は道が複雑です。知佳さんのデータとなつめさんの土地勘、どちらも必要でした」
理世はしばらく黙った。
そして小さく言う。
「……次からは、もう少し参考にしますわ」
小春が即座に突っ込む。
「もう少し?」
なつめが眉を上げる。
「まだ意地張るがか」
理世は顔を赤くする。
「全面的に信用するとは言っていません!」
知佳は笑った。
「それで十分だよ」
なつめは肩をすくめる。
「まあ、今日はそれで許しちゃる」
理世は小さくため息をついた。
「なぜ私が許される立場なのですか……」
任務は成功。
理世のプライドは少し傷ついた。
だが、知佳の統計データを無視できないことは、また一つ明らかになった。
そしてヒロ室には、新しい教訓が残った。
四街道では、数字と土地勘を両方使え。
そして土佐の突進娘に説教されると、孤高のシロガネーゼでも黙る。
小春は最後に笑いながら言った。
「理世、次からコネチカットパイセンの資料、ちゃんと読めよ」
理世はそっぽを向く。
「参考程度に、ですわ」
なつめが即座に言う。
「素直じゃないのう」
知佳は隣で、上品にニコニコしていた。
この二人の雪解けは、まだ少し先らしい。




