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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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987/1042

青海と青梅を間違えたクイズ女王――一条知佳、湾岸ステージでいじられデビュー!

東京都江東区・青海。


湾岸エリアのイベント広場には、朝から妙な熱気が漂っていた。合同アイドルイベント、ご当地PRステージ、ダンスユニット、そして戦隊ヒロインプロジェクトの特別ステージ。客席にはアイドルファン、家族連れ、近所の買い物客、そして戦隊ヒロイン目当ての観客が入り混じっている。


ただし、スタッフが最初に大きく注意した。


「本日は青海です! 青梅ではありません!」


舞台袖で小春が笑った。


「毎回誰か間違えるらしいよ」


美月が鼻で笑う。


「そんなアホおるんかいな」


彩香が横から冷静に言う。


「今日、そのアホが出る気がする」


その予感は、すでに当たっていた。


控室には、月島小春、館山みのり、杉山ひかり、赤嶺美月、西川彩香、白石陽菜、松本美紀が集まっていた。そこへ、少し息を切らした一条知佳が入ってくる。黒髪ショートボブに、上品なブラウス、ミニスカート、膝下ロングブーツ。知的で清楚、いかにも“学生クイズ女王”という雰囲気だ。


ただし、第一声がよくなかった。


「すみません。青梅じゃなかったんですね」


全員が止まった。


美月が腹を抱えた。


「おった! アホおった!」


彩香が呆れる。


「文京区の才女が中央線で西へ行くな」


知佳は上品に笑ってごまかした。


「中野で気付きました」


「早いんか遅いんか分からんわ!」


ひかりは優しくフォローする。


「間に合ったから大丈夫です」


みのりは真面目に言う。


「次から青海は海、青梅は山って覚えるといいです」


「それ、覚えやすいですね」


知佳が感心すると、美月がまた笑う。


「そこ感心するとこちゃう!」


そんなドタバタのまま、ステージは始まった。


MCは江戸っ子ギャルの月島小春。クラブDJのようなテンションでマイクを握る。


「青海のみんなー! 今日は青梅じゃないぞー! 湾岸エリア、盛り上がってるかー!」


客席が沸く。


「今日は戦隊ヒロインプロジェクトに新メンバーが初登場! 学生クイズ女王! 歩く百科事典! そして伝説の――コネチカット妥協の一条知佳、登場だぁ〜☆」


拍手の中、知佳が上品に登場する。姿勢は美しく、微笑みも柔らかい。観客から「テレビで見た!」「本物だ!」という声が飛ぶ。


知佳はマイクを持ち、にこりと笑った。


「皆さん、こんにちは。一条知佳です。……ところで、コネチカット妥協って何ですかぁ?」


会場が一瞬止まり、すぐ爆笑に変わる。


小春が即座に突っ込む。


「知佳パイセンが答えられなかったやつ!」


知佳は急に真顔になる。


「違います。答えは知っていました。押し負けたんです!」


美月が横から乗る。


「出た! 言い訳!」


彩香も続く。


「コネチカットさん、負け惜しみは見苦しいで」


「見苦しくないです。事実です」


綾乃はいないのに、なぜか彩香が京都っぽく上品ぶって言う。


「ほな、今日は“押し負けない”ように頑張っておくれやす」


「彩香さん、京都じゃないですよね?」


つかみは完璧だった。観客は一気に知佳を“堅そうなクイズ女王”ではなく、“いじっても笑って返してくれる人”として受け入れ始める。


続いて、人気者の白石陽菜がステージ中央へ呼ばれた。小動物のような可愛さで、客席からは大きな拍手が起こる。


小春が聞く。


「陽菜ちゃん、青海は初めて?」


陽菜は目を輝かせる。


「はい。青い海って書くので、海の真ん中かと思ってました」


一同、沈黙。


「船で来るのかなって……」


客席がざわつき、次の瞬間、大爆笑。


美月が膝を叩く。


「陽菜、天才や!」


彩香は冷静に言う。


「地理以前の問題や」


知佳は笑いをこらえながら、優しく説明する。


「陽菜ちゃん、ここは陸地だよ。東京湾の埋立地なの」


陽菜は本気で驚く。


「埋めたんですか!? 海を!?」


「うん。すごく簡単に言うと、人工的に土地を作った場所」


「じゃあ、海だったところに私たち立ってるんですか?」


「そうだね」


陽菜は足元を見て、少し不安そうにする。


「沈みませんか?」


会場、さらに爆笑。


知佳は穏やかに答える。


「大丈夫。今日このイベント中に沈む確率は、ほぼゼロです」


美月が即座に言う。


「ほぼって言うな! 子ども怖がるやろ!」


彩香も笑う。


「統計学者、余計な正確さを出すな」


知佳は少し照れた。


「安心してください。沈みません」


このやり取りで、知佳の“知的で優しいお姉さん”感が一気に伝わった。陽菜の壮大なボケを馬鹿にせず、分かりやすく説明する。その上で美月たちにいじられても、上品にニコニコしている。


だが、いじりは終わらない。


小春が客席に向かって言う。


「ちなみに知佳パイセン、今日ここへ来る時、青海と青梅を間違えました!」


観客が「ええーっ!」と笑う。


知佳は観念したようにマイクを持つ。


「はい。中央線快速に乗りました」


会場、大爆笑。


「中野で気付きました」


美月が叫ぶ。


「中野で気付いて偉いみたいに言うな!」


彩香も畳みかける。


「下手したら奥多摩方面やぞ」


美紀が真面目に心配する。


「間に合ってよかったですね」


ひかりは微笑みながら、


「青海と青梅、イベントあるあるですね」


みのりは急に分析する。


「でも、検索で一文字違いですから、間違える人は一定数います」


知佳が嬉しそうに頷く。


「そうなんです。ヒューマンエラーとしては自然で――」


美月が遮る。


「言い訳を統計にするな!」


会場は笑いに包まれた。


ここまでで、知佳の上品なインテリ感はほぼ崩れた。しかし、それは悪い意味ではなかった。むしろ親しみやすい。観客は、ステージ上で笑われながらも柔らかく返す知佳に好感を持ち始めていた。


そして後半、知佳の本領が出る。


小春が振る。


「じゃあ知佳パイセン、そろそろ頭いいところ見せてください!」


大型モニターに資料が映る。


「本日のイベント来場者分析」


知佳はマイクを持ち、表情を少し切り替えた。


「今日の青海エリアの合同イベントですが、事前SNS投稿、過去同規模イベントの来場者数、天候、交通アクセス、出演者のファン層を見て、来場者はおよそ四千二百人前後と予測しました」


観客がどよめく。


「時間帯別では、午後二時から三時に人流が最も詰まります。特に物販ブースと飲食エリアの動線が交差するので、そこに誘導スタッフを増やすと安全です」


スタッフ席がざわつく。実際にそこは混み始めていた。


「また、今日の観客層は二十代女性と家族連れが多めです。なので、戦隊ヒロインとしては、派手な戦闘演出よりも、親しみやすいトークと写真対応の方が反応が良いと思います」


美月が感心する。


「急に賢い!」


彩香が突っ込む。


「元から賢いねん」


小春が笑う。


「さっきまで中央線で迷ってた人と同じとは思えない!」


知佳は涼しい顔で言う。


「迷子と分析は別です」


会場から大きな拍手が起こる。


この瞬間、知佳のキャラクターが完成した。

上品で知的。

でも天然でいじられる。

優しく説明できる。

そして本当に頭がいい。


イベント終盤、全員で簡単なクイズコーナーを行う。知佳が観客の子どもに問題を出す。


「青海の“海”は何を表しているでしょう?」


小さな男の子が答える。


「うみ!」


知佳は笑顔で拍手する。


「正解。今日はそれで満点です」


美月が横から言う。


「優しいなぁ。うちらには厳しいのに」


「美月さんにはもう少し難しい問題を出します」


「やめて!」


終演後、控室。


知佳はソファに座り、心底満足した顔をしていた。


「楽しかった〜」


小春が隣に座る。


「パイセン、初ステージ大成功ですよ」


「ありがとう。みんながいじってくれたから、緊張しなくて済んだ」


美月が得意げに胸を張る。


「せやろ。うちがコネチカットを育てたんや」


彩香が即座に言う。


「育てたんやなくて、いじっただけや」


ひかりが優しく笑う。


「でも、すごく親しみやすく見えたと思います」


みのりも頷く。


「分析も見事でした。知佳さんらしいステージでした」


陽菜は少し恥ずかしそうに言った。


「青海が沈まなくてよかったです」


全員がまた笑った。


知佳も笑った。

全員で一つのステージを作る。

誰かがボケ、誰かが突っ込み、誰かが支え、観客も一緒に笑う。

それは、彼女が戦隊ヒロインプロジェクトに求めていたものに近かった。


同じ方向を向いて、楽しい場を作る。

その中で自分の知識も、失敗も、愛嬌も全部使える。


知佳は満足げに呟いた。


「ここ、いい場所ですね」


美月が笑う。


「ようこそ、コネチカットパイセン」


知佳はもう訂正しなかった。


「はいはい。よろしくお願いします」


こうして、学生クイズ女王・一条知佳のイベントステージ初登場は、笑いと知性、そして青海と青梅の勘違いを残して、大成功のうちに幕を閉じた。

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