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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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敗北を知るクイズ女王、ヒロ室へ――一条知佳、再び本気の場所を見つける

『太平洋横断ジャンボクイズ』ワシントンDC準決勝。


一条知佳は敗れた。

だが、その負け方があまりにも鮮烈だった。


コンマ数秒の早押し差。

相手は京都の名門私大クイズ研究会主将・森脇航平。

知佳は押し負けた直後、ほんの一瞬だけ悔しそうな顔を見せた。けれどすぐに笑顔へ戻り、勝者をまっすぐ称えた。


「航平くんに押し負けたのなら仕方ないです。強かったです。決勝、勝ってください」


その姿が全国の視聴者を撃ち抜いた。


翌日のニューヨーク決勝では、航平が社会人クイズ王・高槻誠司との激戦を制して優勝。優勝インタビューで「一番辛かった場面は?」と問われた航平は、即座にワシントン準決勝での知佳との勝負を挙げた。


この一連の流れで、知佳は一躍“負けてなお記憶に残るクイズ女王”になった。


放送後、世界は少し変わった。

大学へ行けば声をかけられる。電車に乗れば振り返られる。本屋で経済学の本を見ていれば、隣から「テレビ見ました」と言われる。喫茶店では、注文より先に「サインください」と言われた。


一般人の女子大生なのに、半分タレントのような扱いである。


知佳は正直、嫌ではなかった。

元々、注目されることは好きだった。素人参加番組の常連で、テレビカメラにも慣れている。ファンレターが届けば嬉しいし、街で声をかけられれば笑顔で応じる。


ただ、数カ月経つと、胸の奥に妙な空洞ができた。


授業は楽しい。

経済学も統計学も面白い。

取材もある。ちょっとしたテレビ出演もある。

友人と食事をしても笑える。


それでも、何かが足りなかった。


夜、知佳は録画したワシントン準決勝を見る。

高槻誠司。森脇航平。早乙女涼太。そして自分。

四人が本気で一問に向かっていた。


勝ちたい。

前へ進みたい。

負けたくない。

でも相手も強い。


あの心臓が痛くなるような緊張感。

全員が同じ目的へ向かっている空気。


知佳はふと呟いた。


「もう一回、ああいう場所に行きたいな」


そんな時、目に入ったのが戦隊ヒロインプロジェクト新規募集の告知だった。


地域振興。

健全な青少年育成。

治安維持。

全国の仲間たちとともに活動。


普通なら、クイズ女王の進路としては遠すぎる。

一橋の才女なら、大学院、研究職、企業、官庁、アナウンサー、いくらでも選択肢はある。


だが知佳は、そこに書かれた文言を見て、なぜか胸が鳴った。


「これかもしれない」


数週間後。

東京・新橋のヒロ室。


面接室には、芹沢遥室長、安岡真帆、小宮山琴音が並んでいた。


扉が開く。

入ってきたのは、黒髪ショートボブの上品な女子大生。整った顔立ちで、清楚。だが目は勝負師のそれだった。テレビ慣れしているため、面接でも過度に緊張していない。


遥が書類を見る。


「一条知佳さん。学生クイズ王として有名だら」


知佳は丁寧に頭を下げる。


「よろしくお願いいたします」


真帆が淡々と質問する。


「応募理由を教えてください」


知佳は少しだけ考えた。用意した模範解答はあった。地域貢献、青少年育成、知識の還元。言おうと思えば何でも言える。


でも、知佳は正直に話した。


「もう一度、本気になれる場所に行きたいんです」


三人の目が少し変わる。


知佳は続けた。


「ジャンボクイズの準決勝で負けました。悔しかったです。でも、あの四人で戦っていた時間が、人生で一番楽しかったんです」


「勝った負けた以上に、全員が同じ場所を目指して、全力で向き合っていた。それが忘れられません」


「戦隊ヒロインプロジェクトなら、地域振興も、青少年育成も、治安維持も、みんなで同じ方向を向いて本気で取り組めるんじゃないかと思いました」


遥は黙って聞いていた。

真帆も手元の資料を見るのをやめた。

琴音はすでに、ほぼ採用の顔をしていた。


さらに知佳は、戦隊ヒロインプロジェクトの理念や過去の活動を細かく理解していた。地域イベントの効果、子供向け啓発の重要性、ヒロインの知名度が地域へもたらす波及効果。経済学と統計学の視点から、さらりと語る。


真帆が珍しく前のめりになる。


「データ分析もできますか?」


知佳は穏やかに頷いた。


「来場者予測やSNS反応分析くらいなら。イベントごとの効果測定も面白いと思います」


琴音が小声で言う。


「便利すぎるずら」


面接が終わり、知佳が退室すると、三人はしばらく黙った。


最初に口を開いたのは琴音だった。


「10点満点中100点ずら。明日から来てほしい」


遥も笑う。


「同感だら」


真帆も即答。


「採用です。分析担当としても、前線ヒロインとしても使えます」


その場で合格が決まった。


そしてこの日、偶然ヒロ室には上京していた赤嶺美月がいた。

遥が呼ぶ。


「美月、新しい仲間だら」


知佳が廊下へ出てくる。

美月は数秒固まった。


「あっ……ジャンボクイズの人やん!」


知佳は少し照れる。


「見てくれてたんだ」


「見た見た! 家族で見てた! めっちゃ凄かった!」


美月の声はいつもより少し弾んでいた。


「うち、あの時思ってん。この人、強いなぁって。同じ年やのに、負けても相手褒めてて……格好ええなって」


知佳は意外そうに目を丸くする。


「ありがとう。嬉しい」


美月は照れ隠しのように腕を組む。


「まあ、これから一緒に活動するんやろ? ほな、うちが色々教えたるわ」


「お願いします」


「ただし、クイズでは手加減してな」


知佳はにこりと笑った。


「勝負なら、手加減はしないよ」


美月は一瞬固まる。


「……あ、そういうタイプか」


近くで聞いていた琴音が静かにメモした。


「美月、初対面で威勢よく行くも、知佳の勝負師気質を察知」


真帆が頷く。


「今後、面白くなりそうですね」


美月はなんだかんだで嬉しかった。

テレビで見ていたクイズ女王と、これから同じ戦隊ヒロインとして活動できる。

それは少し誇らしく、少し楽しみで、少しだけ緊張することだった。


知佳もまた、ヒロ室のにぎやかな空気を見ながら思った。


ここには、あの準決勝とは違う種類の熱がある。

誰か一人が勝つためではなく、みんなで何かを成し遂げるための熱。


ワシントンで終わったと思っていた物語は、終わっていなかった。


一条知佳は、もう一度本気になる場所を見つけた。

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