表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
984/1055

クイズ女王は戦場で何を解く?――一条知佳、ヒロ室入りの理由

一条知佳は、東京都文京区が生んだ“歩く百科事典”だった。


文京区。

大学、出版社、古書店、庭園、坂道、落ち着いた住宅街。

派手さはないが、東京の中でも知性と文化がぎゅっと詰まった街である。


知佳の実家も、いかにも文京区らしかった。

父は大手出版社で学術書を担当する編集者。家の本棚には、世界史、経済学、哲学、統計学、民俗学、昭和芸能史、さらに古い百科事典まで、普通の家庭ならまず置かない本が詰まっていた。


幼い知佳は、それを漫画のように読み漁った。


「お父さん、この本、難しいけど面白いね」


父は嬉しそうに笑った。


「知佳、それは大学生でも途中で寝る本だぞ」


そうして育った知佳は、気づけば歴史も地理も文学も経済も芸能も雑学も強い、異常な知識量の女子大生になっていた。


東都を代表する国立名門大学で経済学と統計学を専攻する才女。

黒髪ショートボブ。整った顔立ち。上品で清楚。穏やかな性格で愛嬌もある。

キャンパスでは当然モテた。


ただし、同世代の男性には妙に厳しかった。


恋愛参加番組**『ねるとん赤鯨団』**に出演した時など、五人から告白されたにもかかわらず、知佳は笑顔で全員に言った。


「ごめんなさい」


司会者が慌てる。


「えっ、五人とも!?」


知佳はにこにこ。


「はい。皆さん素敵でした。でも将来的な交際成功率が低いと判断しました」


スタジオが凍った。


商社マンには、


「海外赴任リスクが高いです」


医学生には、


「生活時間帯が合わなそうです」


スポーツマンには、


「私より足が遅かったので」


クイズマニアには、


「アメリカ州都問題を間違えたので」


最後の男性は膝から崩れた。


司会者は頭を抱えた。


「この子、笑顔で全員切ったよ!」


しかし、知佳は子供やお年寄りにはとても優しい。

イベントで子供に質問されれば、必ずしゃがんで目線を合わせる。


「統計ってなに?」


と聞かれれば、


「たくさんの出来事を集めて、どうなりやすいか見る方法だよ」


と柔らかく答える。


お年寄りに道を聞かれれば、目的地まで一緒に歩く。

だから冷たいわけではない。むしろ優しい。

ただ、勝負事と恋愛判定になると、急に計算機の精度が上がるだけである。


そんな知佳が一躍有名になったのが、国民的人気番組**『太平洋横断ジャンボクイズ』**だった。


知力、体力、時の運。

数万人の挑戦者から勝ち上がり、知佳は準決勝ワシントンDCまで進んだ。


彼女のクイズ力は本物だった。

ひらめき、知識量、押しの鋭さ、勝負勘。どれも一級品。


ただし、時々とんでもない誤答をした。


フェニックス砂漠のバラマキクイズでのこと。


問題。


「世界最大の淡水湖は何でしょう?」


知佳は封筒を開けた瞬間、勢いよく叫んだ。


「琵琶湖!」


スタッフも挑戦者も止まった。


司会の福原功一アナは、しばらく無言で知佳を見た。


「知佳さん、今、“世界最大”って言いましたよ」


知佳は両手で顔を覆った。


「違うのは分かってたんです!」


福原アナは嬉しそうに毒を吐く。


「知佳は統計学専攻してるけど、統計は大丈夫か?」


砂漠に大爆笑が起こる。


知佳は真っ赤になりながら言い返した。


「統計は大丈夫です! 今のは湖です!」


この言い訳がまた視聴者に受けた。

強いのに抜けている。

賢いのにお茶目。

これが知佳の人気を決定づけた。


一方で、統計学に関しては本当に外さない。

確率、期待値、傾向分析、誤差、母集団、サンプル数。ここでは珍回答が出ない。


後にヒロ室で美月が聞いた。


「コネチカット、期待値って期待したらええ値なん?」


知佳は怒らずに説明した。


「名前はそう聞こえるよね。簡単に言うと、何回もやった時に平均でどれくらい得するかってことだよ」


隣であかりが目を丸くする。


「うち、初めて分かった気がします!」


知佳はにっこり。


「分かった気がする、は大事だよ」


その説明力には、教員志望の金城伊織すら舌を巻いた。


「知佳さん、教えるの上手すぎます」


知佳は首をかしげる。


「そうかな?」


「相手を馬鹿にしないで、分かるところまで降りて説明できる人は少ないです」


その言葉に、知佳は少し照れた。


だが、そんな知佳が戦隊ヒロインプロジェクトを選んだ理由は、進路として計算したからではない。


むしろ逆だった。


知佳は何でもできた。

クイズもできる。勉強もできる。人前にも出られる。分析も得意。容姿も愛嬌もある。


だからこそ、将来を決めきれなかった。


教員には興味がない。

普通のOLも違う。

官僚にもなりたくない。

アナウンサーもピンと来ない。

海外留学も、実は海外そのものにそこまで興味がない。


「大学院かな。経済学と統計学をもっとやるのも悪くないし」


その程度だった。


明確な目標を持つ伊織や、女子アナ志望のさつき、ひかりが少し羨ましかった。


そんな知佳の転機が、ジャンボクイズのワシントン準決勝だった。


高槻誠司。

森脇航平。

早乙女涼太。

そして知佳。


四人全員が本気だった。

全員が同じ方向を向いていた。

ニューヨーク決勝という一点へ向かって、知力も体力も運も全部ぶつけていた。


知佳は敗れた。

だが、人生で一番楽しかった。


帰国後、街を歩けば声をかけられる。

電車に乗れば振り返られる。

本屋でサインを求められる。


注目されることが好きな知佳にとって、それは悪くなかった。


でも、満たされない。


あのヒリヒリ感がない。

同じ方向を向いて本気になる仲間がいない。


そんな時、知佳は戦隊ヒロインプロジェクト新規募集の告知を見つける。


地域振興。

健全な青少年育成。

治安維持。

全国の仲間たち。


知佳は画面を見つめた。


「これだ」


新橋のヒロ室での面接。

芹沢遥室長、安岡真帆、小宮山琴音を前に、知佳は落ち着いて話した。


「私はもう一度、本気で同じ方向を向く仲間が欲しいんです」


「ジャンボクイズの準決勝みたいに、全員が本気で、同じ目標へ向かっている場所に行きたい」


「戦隊ヒロインプロジェクトなら、それができると思いました」


遥室長は静かに頷いた。


真帆は資料を閉じた。


琴音は小声で言った。


「10点満点中100点ずら」


その場で合格だった。


その後、富士川分室での研修でも、知佳は高い身体能力と根性を見せた。戦闘任務も問題なし。さらに統計学専攻を活かして、アナライザーとしても起用されることになった。


来場者予測。

SNS反応分析。

敵組織の出現傾向。

作戦成功率。

イベント効果測定。


知佳の分析はほぼ外れない。


美月は呆れる。


「歩く百科事典どころか、歩く電卓やん」


彩香は冷静に言う。


「腹立つけど、数字は信用できる」


知佳は笑う。


「腹立つは余計です」


完璧なようで、時々早とちり。

上品なようで、勝負になるとえげつない。

優しいのに、恋愛番組では全員落とす。

珍回答もするが、統計は完璧。


一条知佳は、ヒロ室にいなかったタイプのヒロインだった。


そして彼女は、ようやく見つけた。


自分が本気になれる場所を。

全員で同じ方向を向ける仲間を。

知力も、体力も、愛嬌も、ちょっとしたおっちょこちょいも、全部使える戦場を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ