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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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983/1043

コネチカットの向こう側――一条知佳、負けて始まるヒロイン伝説

民放キー局が年に一度だけ総力を挙げて放送する国民的クイズ番組、『太平洋横断ジャンボクイズ』。


その番組は、ただのクイズ番組ではなかった。


数万人の挑戦者が国内ドーム球場に集まり、総合司会のベテランアナウンサー・福原功一が、明朗快活な声で叫ぶ。


「ニューヨークへ行きたいかーーー!」


スタンドを埋めた挑戦者たちが、地響きのように応える。


「おおおおおーーー!」


福原アナは、そこで少し悪い顔になる。


「罰ゲームは怖くないかぁーーー!」


「怖くなーーーい!」


「本当かなぁ? 後で泣くぞ!」


笑いと拍手。

これが毎年恒例の開幕だった。


最初は国内ドーム球場での○×クイズ。続いて成田空港でのジャンケン。グアム行き機内のペーパークイズ。グアムの○×どろんこクイズ。ハワイの団体戦綱引きクイズ。サンフランシスコのゲストクイズ。ラスベガスのギャンブルクイズ。ロッキー山脈の大声クイズ。フェニックス砂漠のバラマキクイズ。ニューオーリンズの双子神経衰弱クイズ。フロリダのマラソンクイズ。


知力。

体力。

時の運。


そのすべてを振り絞った末に、数万人から四人だけが残った。


準決勝の地は、ワシントンDC。


残ったのは、濃すぎる四人だった。


まず、国家公務員の社会人クイズ王、高槻誠司。落ち着いた大人の風格があり、挑戦者たちの兄貴分。だが時々、信じられない珍回答を出す愉快な男でもある。


次に、京都の名門私大クイズ研究会主将、森脇航平。爽やかなイケメンで、押しも読みも知識も隙がない。番組スタッフが「決勝に絶対欲しい」と思っていた王道の学生クイズ王。


三人目は、都の西北の色男、早乙女涼太。ここまで運だけで来たと本人も認めている。ただし芸能問題だけは異様に強い。


そして四人目が、東都の国立名門大学に通う学生クイズ女王、一条知佳。


知佳は笑顔がキュートで愛嬌がある。だが勝負になると容赦がない。通過席の相手を落とす時にも、必ず「ごめんなさい」と律儀に言う。しかも、その「ごめんなさい」の後には、たいてい誰かが落ちる。


準決勝は名物、通せんぼクイズ。


ルールは単純だが、残酷だった。早押しで三ポイント取れば通過席へ進める。そこでさらに一問正解すれば、ニューヨーク決勝進出。だが、他の挑戦者に正解されると阻止され、ポイントはゼロに戻される。


福原アナが説明する。


「三ポイントで通過席。しかし、そこで勝てなきゃゼロに逆戻り。天国まであと一問。地獄まで一瞬。これが通せんぼクイズです!」


序盤、高槻が通過席へ進む。


問題が読まれる。


「1787年の合衆国憲法制定会議で、人口に比例した代表制を主張した案を、提案した州名から何プランというでしょう?」


高槻が押すより一瞬早く、知佳のランプが点いた。


「ごめんなさい。ヴァージニア・プランです」


正解。


高槻は通過阻止、ゼロポイントへ。


福原アナが笑う。


「知佳さん、謝ってから落とすのやめなさい!」


知佳はにこにこしている。


「でも勝負ですから」


高槻は苦笑した。


「怖いね、この人」


次に知佳が三ポイントを取り、通過席へ。


「逆に、各州が平等に代表を持つべきだと主張した案を、提案した州名から何プランというでしょう?」


今度は航平が押した。


「ニュージャージー・プラン!」


正解。


知佳、阻止。


一瞬だけ頬を膨らませたが、すぐに笑った。


「航平くん、強いですね」


福原アナがすかさず言う。


「知佳さん、悔しい顔が一秒だけ出ましたね!」


「出てません」


「出ました!」


スタジオは笑いに包まれる。


すると、まさかの涼太が通過席へ上がる場面もあった。


問題。


「1980年代にアメリカで大ヒットした映画『フットルース』で主演を務めた俳優は誰でしょう?」


涼太が異常な速さで押した。


「ケヴィン・ベーコン!」


正解。


福原アナが叫ぶ。


「なんでそこだけ速いんだ!」


涼太は得意満面。


「芸能は任せてください!」


だが通過席ではすぐに知佳が立ちはだかる。


問題。


「アメリカ独立宣言の起草委員会、いわゆる五人委員会の一人で、のちに第3代大統領となった人物は誰でしょう?」


知佳。


「ごめんなさい。トーマス・ジェファーソンです」


正解。


涼太、撃沈。


「また知佳さん!」


福原アナは楽しそうに言う。


「涼太くん、決勝席の空気だけ吸って帰ってきました!」


その後も激戦は続いた。

高槻が通過席へ。阻止。

航平が通過席へ。阻止。

知佳が通過席へ。阻止。

涼太も一度だけ通過席へ。即阻止。


ワシントンの空気は、テレビ越しにも分かるほど張り詰めていた。


やがて、高槻誠司が社会人クイズ王の貫禄を見せる。


問題。


「アメリカ合衆国憲法制定会議で議長を務め、のちに初代大統領となった人物は誰でしょう?」


高槻。


「ジョージ・ワシントン」


正解。


高槻、決勝進出。


福原アナが声を張る。


「高槻誠司、社会人クイズ王の意地! ニューヨーク進出です!」


高槻は残る三人を見て、静かに頭を下げた。


「先に行きます」


そこからは、残り一枠をめぐる学生三人の死闘となった。


「アメリカ合衆国憲法の最初の十か条の修正条項を、一般に何と呼ぶでしょう?」


「権利章典!」


福原アナが煽る。


「森脇航平、通過席! あと一問でニューヨーク!」


知佳が指先を軽く動かす。

涼太も構える。

だが涼太の構えは、どこか軽い。


福原アナが読む。


「アメリカ独立戦争を終結させ、イギリスがアメリカの独立を承認した1783年の条約は何でしょう?」


知佳が押す。


「パリ条約!」


阻止。


航平、ゼロへ。


航平は笑った。


「やっぱり来ると思った」


知佳も笑う。


「ごめんなさい」


涼太が横から言う。


「その“ごめんなさい”怖いんだよなぁ」


客席が笑う。


今度は知佳が三ポイントを積み、通過席へ座る。


問題。


「アメリカ合衆国憲法で、大統領選挙に用いられる間接選挙制度において、各州に割り当てられる代表者を何というでしょう?」


航平。


「選挙人!」


阻止。


知佳は目を閉じて、ほんの少しだけ悔しそうにした。


福原アナが叫ぶ。


「知佳、また阻止された! 航平、譲らない!」


そしてついに、航平が再び通過席へ。


会場が静まる。


問題が読まれる。


「1787年のアメリカ合衆国憲法制定会議で、大きな州と小さな州の代表権をめぐる対立を調整するため、上院では各州同数、下院では人口比例とする二院制を導入した妥協案を、提案した州の名から何というでしょう?」


知佳の目が変わった。

航平の指が動いた。

涼太も、少し遅れて押す気配を見せた。


ランプが点いた。


航平だった。


「コネチカット妥協!」


正解。


決着。


福原アナが絶叫する。


「決まったぁぁぁ! 森脇航平、ニューヨーク進出!」


知佳は一瞬だけ、確かに悔しそうな顔をした。

だが、すぐに航平へ笑顔を向けた。


「航平くんに押し負けたのなら仕方ないです。強かったです。決勝、勝ってください」


航平は言葉に詰まり、深く頭を下げた。


「ありがとう」


涼太は横で小さく手を上げる。


「俺も押してたんですけど」


福原アナが即座に言う。


「君はだいぶ遅かったよ」


緊張の余韻を壊すような笑いが起こった。


そして敗者には、恒例の罰ゲームが待っていた。


知佳と涼太は、星条旗カラーの妙に派手なマントを羽織らされ、背中に大きな布を貼られる。


そこには太い文字で、


東京直行


と書かれていた。


福原アナがマイクを向ける。


「どうだ知佳、懲りたか?」


知佳は即答した。


「懲りるわけないでしょう。強くなって、また来年来ます!」


福原アナは嬉しそうに笑った。


「知佳ならそう言うと思った! 気をつけて帰ってねー!」


涼太は横で、


「俺もまた来ます!」


と言ったが、福原アナは冷たく返す。


「君はまず、運以外を鍛えなさい」


二人は“敗者専用バス”に乗せられ、空港へ向かう。知佳は悔しそうで、でもどこか清々しかった。涼太は最後まで手を振っていた。


その放送を、東大阪市の自宅で家族と一緒に見ていた大学生がいた。

赤嶺美月である。


テレビの前で、美月は珍しく黙っていた。


「この子、凄いな……」


母の春菜が横で言う。


「負けたのに、きれいに笑ってたねぇ」


美月は画面を見つめたまま頷いた。


「うちと同じ年やん。あんな悔しい場面で相手褒められるんか……。ほんま強いわ」


この時の美月は、まさか数カ月後、この“コネチカット妥協で散ったクイズ女王”と同じ戦隊ヒロインとして肩を並べることになるとは、夢にも思っていなかった。


放送後、知佳の人生は少し変わった。

大学で声をかけられる。本屋で振り返られる。喫茶店で「コネチカットの人ですよね」と言われる。


出たがりの知佳にとって、それは正直うれしかった。

だが、満たされなかった。


授業も楽しい。取材も楽しい。テレビ出演も楽しい。

けれど、ワシントンのあのヒリヒリした緊張感が忘れられない。


高槻。

航平。

涼太。

そして自分。


四人全員が本気で、同じ場所を目指していた。

あの空気を、もう一度味わいたい。


そんな時、知佳は戦隊ヒロインプロジェクトの募集要項を見つける。


地域振興。

健全な青少年育成。

治安維持。

全国から集まる仲間たち。


知佳は応募用紙を見つめ、ふっと笑った。


「これかもしれない」


ワシントンで終わったはずの勝負は、まだ終わっていなかった。


コネチカット妥協の向こう側に、彼女の新しい戦いが待っていた。

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