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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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河内のスピーカー、クイズ女王に釣られる――美月、NST疑惑を忘れる

大阪府内、ヒロ室西日本分室。


赤嶺美月は、朝からずっと機嫌が悪かった。


机に肘をつき、頬を膨らませ、足をぶらぶらさせている。完全に「私は納得していません」という顔だった。


「絶対おかしいねん」


西園寺綾乃は、資料から目を上げずに言った。


「またその話どすか」


「またちゃう。重要案件や」


坂井まどかは紙コップのお茶を飲みながら苦笑した。


「美月、昨日もそれ言うてたで」


三好さつきも、椅子にもたれて言う。


「彩香さんらのことやろ?」


美月は勢いよく頷いた。


「せや。彩香も、美咲も、あかりも、麻衣も、迫田ツインズも、最近みんな動きが変やねん。なんかコソコソしとる。聞いても誰も何も言わへん」


この時、四人ともNSTという名前すら知らない。

ただ、美月が言うように、西日本組の一部が妙に怪しい動きをしていることだけは薄々感じていた。


綾乃は、はんなりと諭す。


「美月さん、戦隊ヒロインやってたら、知らされへん仕事もありますえ。国家機密みたいなもんも扱いますやろ」


まどかも頷く。


「せやな。知らん方がええこともあるんちゃう?」


さつきも冷静に言った。


「隠密とか諜報とか、そういうのは口が堅い人に任せるもんやろ」


美月は即座に反応した。


「今、私が口軽いみたいに言うた?」


三人は同時に目を逸らした。


「言うてへんどす」


「言うてへん」


「言うてない」


美月は机を叩いた。


「目ぇ逸らすな!」


綾乃は淡々と続ける。


「でも、美月さん。知らんことがあるのは仕方ないどす」


「分かってる。分かってるけど納得いかへんねん」


「そこが問題どすなぁ」


美月はさらにぼやく。


「玲奈さんも冷たいしなぁ。何聞いても『必要ありません』みたいな顔するし」


少し考えてから付け足した。


「まあ、玲奈さんは昔から冷たいけど」


綾乃、まどか、さつきは即座に頷いた。


「それはそうどす」


「それはそうやな」


「そこは否定できへん」


満場一致だった。


美月は不満げに腕を組む。


「私も混ぜてほしいねん。面白そうやん」


綾乃が呆れる。


「内容も知らへんのに、面白そうで参加したいんどすか」


「せや」


「即答せんでよろし」


まどかは苦笑しながら、何となくテレビをつけた。

重苦しい話題から逃げるためだった。


画面に映ったのは、長寿クイズ番組**『バネルクイズ25』**。


25枚のパネルを取り合う、昔ながらの本格派クイズ番組である。派手な演出はない。だが、知識、押しの速さ、盤面戦略、勝負勘のすべてが問われる名物番組として、長年愛され続けている。


司会は、知的な雰囲気のベテラン俳優、児玉晴明。

穏やかな笑顔、品のある口調、挑戦者への温かいまなざし。

画面にいるだけで、番組に格式が出る人物だった。


「さあ、白熱してまいりました。本日は学生さんもお強いですね」


その言葉とともに映ったのは、若い女性挑戦者だった。


一条知佳。


落ち着いた表情。

知的な目。

姿勢がよく、ボタンに置いた指に無駄がない。


この時、彼女はまだ戦隊ヒロインではない。

本人も、まさか将来その道へ進むとは思っていない。


美月がテレビを見て、少し前のめりになった。


「あ、この子……見たことある気がする」


さつきも首を傾げる。


「なんか別の番組にも出てた?」


まどかも頷く。


「素人参加番組で見たような気がするなぁ」


綾乃は画面を見つめる。


「雰囲気ありますなぁ」


番組は中盤。


児玉晴明が問題を読み上げる。


「江戸時代、享保の改革を行った八代将軍は誰でしょう」


ピンポン。


知佳が押した。


「徳川吉宗」


児玉晴明が柔らかく微笑む。


「その通り。一条さん、正解です」


知佳は落ち着いた声で言った。


「13番でお願いします」


中央のパネルが赤に変わる。


美月が叫ぶ。


「真ん中取った!」


まどかが笑う。


「なんでそんな興奮してんの」


「いや、なんか分からんけど強そうやん!」


綾乃は盤面を見ながら言った。


「中央を押さえるのは大きいどすなぁ」


次の問題。


「日本三大急流の一つで、熊本県を流れる川は――」


ピンポン。


知佳。


「球磨川」


「正解です」


また赤が増える。


さつきが感心する。


「速いなぁ。問題文の途中で押してるやん」


美月はすでにNST疑惑を忘れかけていた。


「この子、強いわ。目ぇ据わってる」


番組は進む。


文学、歴史、地理、音楽、スポーツ、政治経済。

知佳はジャンルを問わず拾っていく。


他の挑戦者も決して弱くない。だが、知佳は押しどころが上手い。取るべき問題を逃さない。無理な早押しはしない。盤面で有利になる番号をきっちり選ぶ。


まどかが呟く。


「この子、クイズだけやなくて勝負がうまいんやな」


綾乃も頷く。


「参謀向きどすなぁ」


美月はすかさず言う。


「戦隊ヒロイン向きやん!」


「何でも戦隊ヒロインに結びつけんといて」


そして番組は名物の山場へ入った。


児玉晴明が、少し声を張る。


「さあ、ここで参りましょう」


スタジオの空気が変わる。


「アタックチャンス!」


美月が思わず拍手した。


「出た!」


綾乃まで少し楽しそうだった。


「ここが勝負どころどすな」


問題が読まれる。


「アメリカの作家マーク・トウェインの代表作で、少年トムの冒険を描いた小説は――」


ピンポン。


知佳だった。


「トム・ソーヤーの冒険」


児玉晴明が嬉しそうに頷く。


「お見事、一条さん!」


知佳は一拍置いて、冷静に言った。


「5番でお願いします」


角だった。


盤面が大きく変わる。

赤が一気に有利になる。


美月は立ち上がった。


「カド取った! うわ、強っ!」


さつきが笑う。


「美月ちゃん、完全にクイズ見てるやん」


「当たり前や! アタックチャンスやぞ!」


まどかが笑う。


「さっきまで彩香さんの話してたのに」


美月は一瞬止まった。


「あ」


だが次の問題が始まると、すぐテレビに戻った。


「静かにして! 次の問題!」


三人は顔を見合わせた。


完全に釣られている。


終盤は知佳の圧勝だった。


最後の数問でも、知佳は崩れない。

相手にチャンスを渡さず、盤面を赤で埋めていく。


児玉晴明が感心したように言う。


「一条さん、実に落ち着いたパネル選びでございます」


知佳は少し照れたように笑うが、目はまだ勝負を見ていた。


最後の通常問題。


「イタリアの都市で、ルネサンス文化の中心地として栄え、メディチ家でも知られる都市はどこでしょう」


ピンポン。


「フィレンツェ」


「正解です!」


これで勝負あり。


児玉晴明が盤面を見渡し、満面の笑みで言う。


「一条さん、見事な優勝でございます」


スタジオに拍手が広がる。


西日本分室の四人も、なぜか拍手していた。


美月は感心しきりだった。


「この子、地下の強さやな」


まどかが首を傾げる。


「地下?」


「派手に騒いでないのに、底から強い感じや」


さつきが笑う。


「言いたいことは何となく分かる」


続いて、海外旅行挑戦クイズ。


番組終盤の名物である。

映像が流れる。風景、建物、橋、街並み。

知佳はじっと画面を見る。


児玉晴明が問う。


「さて、一条さん。これはどこの都市でしょう」


知佳は少しだけ考えた。


「プラハです」


一拍。


児玉晴明が大きく頷いた。


「正解です!」


スタジオに歓声。


「一条さん、海外旅行獲得でございます。おめでとうございます」


知佳は少し照れながら頭を下げる。


「ありがとうございます」


児玉晴明は優しい声で続けた。


「実に見事な戦いぶりでした。知識だけでなく、勝負の運び方も素晴らしかったですね」


美月は腕を組んで唸った。


「すごいなぁ。この子、うちらと同じ年くらいやろ?」


綾乃が頷く。


「同年代でこの落ち着きは大したものどす」


まどかも言う。


「テレビ慣れもしてるな。普通あんな落ち着いて押されへんで」


さつきがスマホを見ながら言った。


「やっぱり他の視聴者参加番組にも出てるっぽいわ」


美月は完全に別の話題へ移っていた。


「なんやこの子。クイズもできてテレビ慣れもしてて、勝負強いとか、戦隊ヒロイン向きやん」


綾乃が苦笑する。


「またそこへ戻りますの」


「いや、ほんま向いてるって」


この時、四人はまだ知らない。


この学生クイズ王・一条知佳が、将来本当に戦隊ヒロインプロジェクトに加わり、ヒロ室の知性派戦力として大きな存在になることを。


そしてもっと知らない。


この日の知佳の圧勝が、赤嶺美月のNST疑惑を完全に吹き飛ばしてしまったことを。


数時間後。


兵庫県某所。


西川彩香は、スマホを見て妙な気配を感じていた。


「……美月から連絡が来ん」


岡本玲奈が淡々と言う。


「良いことです」


彩香は首を傾げる。


「何か別のもんに食いついたんやろな」


その推測は正しかった。


美月はその夜、彩香への疑惑ではなく、一条知佳の出演番組を検索していた。


「この子、他に何出てたんやろ」


まどかが横から言う。


「もう彩香さんのことええの?」


美月はスマホを見ながら答えた。


「あ、それはまた明日考える」


綾乃とさつきは同時に思った。


また忘れるやつや。


こうして、隠密活動の秘密はまたしても守られた。


守ったのは彩香でも玲奈でもなく、テレビの中でパネルを取りまくった一人の学生クイズ王だった。


河内のスピーカー赤嶺美月は、この日も見事に話題を変えたのである。

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